紅茶の香り(6)
「──以上が、災厄を引き起こしたと思われるべール被りの魔女についての報告です」
「……なるほど」
クルー街の中央、高々と聳える塔の上階。厳かな雰囲気に包まれた部屋にて、窓を背に座る上司に僧侶は一礼する。
「それはいいが、ギルバート。ここは南の塔だ。災厄を引き起こしたなど物騒な言い方は控えろ」
「は。申し訳ありません」
眉間に皺を寄せた黒髪の僧侶──ギルバートは深深と頭を下げる。
それを見て、ギルバートの上司はため息をついた。
「……すまんな。強硬派の目がある以上、お前にも苦労をかける」
「いえ、穏健派である御身──ロバート様の為ならこの程度、苦でもありません」
今現在、僧侶内では二つの派閥が争っている。原因は遺跡から発掘された、百年前の英雄に関する書物である。
魔術師が英雄だということが公表されるのが問題だと主張する強硬派と、魔術師であっても英雄を公表すべきだと主張する穏健派。
ギルバートの上司、ロバートは穏健派であり、魔術師との共生を願っている。
「それにしても、俺が小さい頃は『魔術師を追いかけろ』なんて仰っていたロバート様が、随分と魔術師に対して優しくなったのはなにか訳が?」
「それは……妻が魔術師である私に対する嫌味か?」
「すみません」
やれやれ、とロバートが額に手を当てまたため息をつく。
───ちょっとした冗談だったが、通じなかったか。
「まぁ、良い。そうか……他にべールを被った魔術師を探さねばならないか……」
「そのことですが、良いですか?」
「ん? なんだ、言ってみろ」
あの少女は、自分が英雄ではないことを主張していたが、あの魔力量と他人に対しての接し方。そして書物通りの真っ黒なべール。
「当人は否認していましたが、俺はそれでも彼女が英雄だと思っています」
「それは、実際に接してみての意見か?」
「はい。ですので、まだ彼女について調べるべきかと」
「ふむ……」
ロバートは顎に手を当て、自前の髭を撫でる。机の上の書類は多く、既に日が沈んでいてもロバートには仕事がまだ残っているのだろう。
僧侶同士の争いには面倒がつきものだ。
机に視線を移していたギルバートの目の前に、一枚の紙が出される。
「ならべール被りの魔女の警護を、青石僧侶ギルバートに命じよう」
警護。それは恐らくこの塔の反対側、北の塔にいる強硬派の僧侶から彼女を守ること。
「───はい。このギルバート、守りきってみせます」