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思い出の愛(3)

「こ、こっちから……聞こえましたよね……」

「ああ」


 プレシアはギルバートの隣でしきりに木々を見渡す。

 子供のような悲鳴だったため、遠くには行っていないはず。そう思いつつも、プレシアはなにか良からぬ事が起こっているのではないかと身を強ばらせた。


 ───それに、ギルバートさんも……


 横目でギルバートの顔を窺う。相変わらずシワの寄った眉間に、鋭い目元。相当お怒りのようだ。

 子供一人見つけられないことに怒っているのか、口数も少ない。


「はぁ……どこにいるんだろ」

「!」

「えっ?」


 プレシアがため息をついた途端、ギルバートが走り出す。その走っていく方を見ると、大きな樹がそびえ立っていた。

 太い幹と生い茂る葉。プレシアはその雄大な大樹を見上げながらギルバートの後を追う。


 ───なにか見つけたのかな?


 大樹の根元までたどり着くとギルバートはプレシアの方へと振り向きある一点を指さした。


「んん……? あれは……」


 プレシアが見上げた先、そこには人のようなものが枝と枝の間に挟まっているように見えた。


「えっ!? な、なんであんなところに人が……?」

「あれはそういう種族なのか? それとも助けた方がいいのか?」

「たっ、助けた方が良いですよ! って、いうか……」


 ───なんか、落ちてきてない?


 枝に挟まっていた人のようなもの、茶色の塊がぐらりと傾いた。

 あ、落ちる。とプレシアが気づいて手を出そうとする。

 が、隣にいたギルバートがそれよりも速く動いた。


 地面を強く蹴り、落ちてくる人めがけて跳躍すると、両腕でしっかりと抱え込んで着地した。


「だ、大丈夫でした……?」


 着地する時に足を痛めなかったか、変な所を捻らなかったか、心配になるような無茶な跳躍だった。

 もし自分が同じことをしたら足が折れていただろう。


「……俺は大丈夫だが」

「?」


 ギルバートは腕に抱え込んでいた人を草むらにゆっくりと下ろすと、プレシアの方を見やる。

 まさか意識がないのか、と思い横たわる人の顔を、首を傾げて見てみる。


 その人は小柄で、茶色の服を着ている。なんだか髪もボサボサで顔もやつれているような気がする。


「これは……ブラウニーですかね……?」

「ブラウニーとはなんだ」

「えーっと……ブラウニーって言うのは家に住み着く妖精のことなんですけど……」


 ブラウニー。

 小柄で茶色の服を着て家に住み着き、家人の居ない間に家事をしたり家畜の世話をする妖精。

 部屋の隅に礼をあげると、そのまま住み着き続けるという特徴がある。


 プレシアはそのことをギルバートに伝えると、ブラウニーを見下ろした。


「でも……家に住み着いていませんよね……」

「だが悲鳴の声はこいつのでほぼ間違いないはずだ」


 ───まさかブラウニーが迷子? 


「う……うう……」

「あっ起きました……?」


 ブラウニーは閉じていた瞼をゆっくりと開けた。おそらく気絶していたのだろう。

 プレシアは、微かな呻き声をあげながら起き上がろうとするブラウニーの背中を支える。その背中は小さく、かなり骨ばっていた。


「あれ……おいら、なんでこんなところに?」

「……え、記憶がないんですか!?」

「うう~ん、え~と……」


 ブラウニーは頭を抱え込んでうんうんと唸り出した。




 ──大樹の枝に挟まるなんてそうそう忘れられないと思うけど……




 そうは思いつつも、プレシアはなにか重大な事が起こってしまったのかもしれないと思い、真剣な眼差しでブラウニーを見つめる。

 愛嬌のある大きな瞳と癖のある髪、かわいいといえる特徴でもある。


「あ!!」

「なにか思い出しました?」

「うん。おいら、追い出されたんだ……」

「ブラウニーは家に住み着く妖精……なら、家から追い出されたということか」


 ギルバートがプレシアの向かい側からブラウニーに問いかける。

 枝に挟まった経緯はともかく、家から追い出されたということを思い出せたようだ。




「あれ、そういえばあんたたちは誰?」

「え、えーと……どう説明したらいいんでしょう……紅茶屋さんのお手伝い?」

「なぜそうなる」


 ギルバートはプレシアを訝しむように眉を上げる。そして立ち上がると服に着いた土を払いながら、

「俺は手伝いではなく、そうりょ………」

「あー!!わー!!わー!!」

 僧侶、とギルバートが言う前にプレシアは大声でそれを遮る。ブラウニーもギルバートもそのプレシアの行動に驚き、目を大きく見開いた。

 そしてブラウニーを支えていた右手を口元に寄せると、ギルバートにだけ聞こえるように囁く。



「ぶ、ブラウニーみたいな妖精さんや魔物さんは僧侶って言葉が嫌いなんです……!! だからあんまり言っちゃダメなんです……!!」

「嫌い?」


 ぎん、とギルバートは鋭い目つきをさらにきつく釣り上げる。その勢いに思わずプレシアの喉が引き攣る。

「わっ、私はそんなこと思ってませんよ……!!」

「違うのか」

「ち、違うかもしれません、多分」



 ──嫌い、じゃないけど、好きでもない。だって僧侶は宿敵なんだから。 


 やっぱりここは魔術師と僧侶だということは言わないでおこう。

 ただでさえ、枝に挟まって意識を失っていたブラウニーだ。変に混乱させたらそれこそ収拾がつかないことになってしまう。


 ちらり、とブラウニーを見ると、未だに記憶がぼんやりとしているらしく何も無い場所を見つめていた。


「えー……と、ほかになにか思い出したことはある?」

「えっ。う~ん、確かおいら、家の主人に怒られたような……それで、それで……あっ!」


 話しかけられて我に帰ったブラウニーは、たどたどしく今までの経緯を思い出そうとする。そしてある事に気づいたらしく大きな声をあげた。


「なにか、思い出しました?」


 ブラウニーの顔を覗き込むと、みるみるうちにその顔が真っ青に染まっていく。


「そ、そうだ……主人、いや奥様が! たっ、大変なんだった!!」

「………奥様が大変?」

「あぁ!! 今もこうしてるうちに奥様がべールの奥で涙を流してるだろう! それとも魔法で檻を作って閉じこもってるか……こうしちゃいられない!!」


 ブラウニーは全てを思い出したらしく、飛び上がって大樹の向こう、ほそぼそと続く獣道の方へと走りだす。

 その勢いに置いていかれた二人はお互いに顔を見合わせると、ブラウニーの走り去る背中をもう一度見た。



「……聞いたか」

「………は、はい」


 ブラウニーのいう奥様が、べールを被っていて魔法を使える………それはつまり、



「「──べール被りの魔女」」








 


 


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