第99話 お茶会と情報収集
その後も食事に来た奴らの中で大当たりになった奴がレーションを吐きそうになりながらも食うという苦行を続けるのを眺めつつ他の奴らの会話を拾っていく。
現状ではフィールド階層は民間に開放されていないので、もちろんお茶会の会場にも民間人はいない。そういった理由もあって結構漏らしたらまずいだろう会話をする奴らもいて、お茶会会場での情報収集という目的は十分に果たされている。もちろんただの雑談の方が率としては高いんだけどな。
こいつらがフィールドダンジョンでいろいろなものを採取していった理由もついさっきわかった。ダンジョンで採れる物から自分たちでポーションを作れないかだったり、武器や防具を作ることが出来ないか試しているらしい。
確かに未だに俺が1階層で出している宝箱の木の棒が使われていることを考えると武器とか防具とかはよほど出にくいんだろうなとは思っていたんだけどな。下手な武器を渡せば相手を有利にするだけなんだし、ダンジョン側からしたらメリットなんて人を呼ぶくらいしかねえしな。それにただ人を呼ぶだけなら他のもので代用できるし。
ちなみにポーション開発とかの進捗状況はあんま関わっていないのかよくわからないようだったが武器とかは色々と試作がされて他のダンジョンの低階層で実験が続けられているらしい。
「でもなんで俺たちのダンジョンで実験しねえんだろうな」
「そのうちこちらでも行うだろうが優先順位の問題だろうな」
「優先順位?」
「簡単なことだ。うちは死んでも生き返るが他のダンジョンは死んだら終わりだ。今までより強力な武器が出来たとなればそちらから配備されるだろうし、そのためには実地で検証する必要があるからな」
食後のせんべいをぱりぱりと食べながら当然のように言ったセナの言葉に確かに、と納得する。俺たちのダンジョンは取り返しがつくが、他はそうじゃねえしな。
ダンジョンを攻略する側からしてみれば命がけで最前線で戦っている奴らに少しでも早く良い装備を支給してやりたいってのは当然か。
他のダンジョンの低階層はゴブリンとかの弱いモンスターしか出ないらしいし、失敗しても余裕でフォローできるって事だな。
「あっ、こいつらが意地でも残さずにレーションを食べきるのもそのためか」
ふと、浮かんだ考えだが間違っていない気がするな。確認するためにセナを見るとコクリと首を縦に振った。
「そうだろうな。ある意味ここは世界中のどの場所より安全だ。軍人としては命令に従うしかないのだろうが、思うところはあるだろう。だからこそくそまずいレーションを食べきり、ミドルポーションを手に入れるのだろうな。それで仲間の命が助かるなら安いものだ」
「そうだな」
罰ゲームのご褒美としてレーション食って体調が悪くなってもミドルポーション飲めば何とかなるだろ程度の考えでこっちは決めたんだが、なんというか覚悟の違いを見せつけられた気分だ。
そうだよな。俺はダンジョンから出ねえから実感なんてわかないけど、今この時にも他のダンジョンを攻略している中で死にそうになっている奴がいるかもしれねえんだよな。確かに俺もセナとか他の人形がそんな状態で、俺がレーション食えば助けられるかもしれないアイテムが手に入るってなれば食うだろうしな。絶対吐きそうになるだろうが。
そんなことを考えていると、セナがふっと息を吐きやわらかい笑みを浮かべた。
「透が気にすることではない。軍人とはそういうものだ。それに今はまだ支給されていないとはいえ、そのうち私たちのダンジョンでも新しい武器が使われるようになるぞ。そちらの方が重要だろう?」
「確かにな。でもどういう武器が造られてるのかわからないと対策の立てようもねえよな。木刀とか槍、弓矢とかはありそうだけどよ。というか切り倒してすぐの木って使えるのか?」
「知らん。ダンジョンの植物に関する知識などないからな。武器として使用可能なのかもわからんし、使用可能だとしてもどの程度の加工までその効果が及ぶのか見当もつかん。最悪の場合、ダンジョンの草などをすり潰して弾丸に塗布すればモンスターに銃が効くようになるかもしれん」
「げっ、マジかよ」
セナの予想が当たっちまったらかなりきついことになる。ダンジョンの攻略がなかなか進まない要因の1つが地上で作られた武器や兵器がモンスターに効きづらいっていう特性があるからだ。もちろん限度はあるし、強いモンスターほど効きにくくなる傾向はあるが。
もし銃が普通に効くようになっちまったら遠距離からの集中砲火でかなりの被害が出るだろう。特に闘者の遊技場なんて視線を遮るものもない一直線に続く広間だ。さすがのユウも遠距離から攻撃され続ければいつかは倒れてしまうはずだ。まあその前に弾薬が尽きる可能性もあるけどな。
「うーん。俺たちも実験すっか?」
「その方が良いだろうな。有志を募って訓練がてら試してみるか。頑張れよ、せんべい丸」
えっ、俺強制っすか? とでも言わんばかりに俺とセナの顔をうかがうせんべい丸の肩をポンポンと叩いてエールを送る。実験台になることが確定したのがショックなのかせんべい丸が視線を空に向けたまま動きを止めた。
だってこのダンジョンの中で最も暇をしてるのってたぶんこいつだしな。10万DPかけたんだからスペックは高いはずなのに基本的にセナに物理的に尻に敷かれているだけだし。
せんべい丸とはリアクションである程度の意思疎通ができるし、基準を最初に作っちまえばそれより強いか弱いかの判断をするだけで良いから俺じゃなくても事足りるはずだ。
「よしそれではこれよりフィールド階層の研究を始める」
「おう」
「まずはユウに丸太を持たせてせんべい丸にダイレクトアタックだ」
「なんだよ、ダイレクトアタックって! さすがにそれは可哀想だろ」
プルプルと震え始めたせんべい丸を擁護しつつ、でも自衛隊の奴らも切り倒したけっこうな大きさの丸太を持って普通に歩いていたりするしリーチも質量も申し分ない丸太って現状で最強の武器の1つなんじゃね、という考えが俺の頭の中でちらつくのだった。
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