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攻略できない初心者ダンジョン  作者: ジルコ
第三章 探索者たち
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第98話 お茶会の試練

 11時45分ごろ。自衛隊の奴らの中の一部がお茶会階層までやって来た。混雑を防ぐために昼の時間をずらしているようでこっちとしても結構助かっている。さすがに一斉に来られたら今の人数じゃ対応できねえし。

 昼の休憩時間であるはずなのにその表情に笑顔はなく緊張で固くなっており、そしてDPがどんどんと入ってきている。この先に待ち受ける試練を覚悟しているんだろうな。


 12名がお茶会の会場の椅子へと座ると、すかさずコスプレ姿の人形たちがメニュー表を持ってやってくる。自分の体の半分もあろうかというメニュー表を抱えてとてとてと歩く姿は非常に可愛らしい。

 その姿を見つめる自衛隊の奴らの中で1名プルプル震えている奴がいるが、こいつのことはよく覚えている。先日、チェシャ猫の人形の頭を撫でちまって、それをサンに見つかって吹き飛ばされた奴だ。


 一応、お茶会の会場の人形に関してはお触り厳禁だ。とは言え不意の接触や料理の受け渡しなんかで触れることもあるからサンの裁量でアウトか判断を下してもらっている。アリスとは違って、お礼に頭を撫でるくらいなら許されるって感じだな。逆に言えばこいつは長々とチェシャ猫を撫で続けていたって訳だ。

 ただ、今プルプルしているのはサンに殴られた恐怖からって訳じゃなくって触ろうと考える自分を抑えているように見える。だって視線がさりげなくチェシャ猫を追ってるし。もしかしたら人形好きの良い奴なのかもしれん。いや、チェシャ猫だけを追っていることを考えると猫好きなのか?


 そんな無駄な考えをしているうちに、人形たちが注文を取っていく。とは言えメニューは2つしかねえし、自衛隊の奴らが選ぶのはそのうち1つに決まっているんだが。

 メニュー表に載っているのは日替わり定食と日替わりスイーツだ。もちろん今は昼なので選ばれるのは定食の方だ。注文を受けた人形たちがメニュー表を抱えながら小さく頭を下げて家に向かって歩いていく。


 人形たちが消え、不安と期待が入り混じった表情をしながら自衛隊の奴らが話し始める。やたらと今日の運勢の話で盛り上がっているんだが、いつも思うんだが完全にそれって振りだよな。少しでも安心したいって気持ちはわからんでもないが。


 しばらくして人形たちが戻ってくる。ちなみに今日の日替わり定食はかつ丼定食だ。かつ丼に味噌汁、サラダにおしんこまで付くまあまあ豪華な食事になっている。ちなみに10DPだ。

 1DPから食事はあるが味が食べられなくはないって感じだしな。10DPでも十分すぎるほどに元は取れてるし、客が来なきゃあ意味がねえからこのラインをキープする予定だ。


 かつ丼定食を受け取った奴が「ありがとう」と人形からトレイを受け取り、そして本当の意味での笑顔を見せる。その後も次々とかつ丼定食などが運ばれていきそして全員分の食事の用意が終わった。


「いただきます」


 全員で重ねたその言葉を合図に食事が始まる。おいしそうにかつ丼定食へと箸を伸ばしていく奴らがいる一方、1人だけ冷や汗を垂らしながらスプーンを持って固まっている男がいる。サンにふっとばされたことのある猫好き(仮)のあいつだ。

 その目の前にはかつ丼定食はない。ラーメンどんぶりに入った異様なプレッシャーを放つドロドロの物体があるだけだ。まあ言わずと知れたMRE。軍用レーションだな。

 他の奴らから向けられる憐みの視線を受けながら男が震えるスプーンでレーションをすくい、そしてそれを口へと運んでうっ、とえづいた。

 うんうん、わかるぜ。こんなの平然と食えねえよな。


 別にこの男への罰としてこんなもんを出したわけじゃない。たまたま食事前に決めた本日の大当たりの番号の1つが5番で、こいつが5番目に注文をしたってだけだ。まあ当たりって言って良いのかはわかんねえけど。

 食事を用意する前にサイコロとダーツで適当に決めた番号はこの当たりの番号だった訳だ。自衛隊の奴らが神妙な様子だったのはこれがあることを知っているからだし、ただの食事にも関わらず異様なDPが入ってくる理由もこれだ。


 男は涙目になりながらもスプーンでレーションをすくっては口に運んでいく。ときおり水で口の中をリセットしながら食べ進めているがなかなか量は減っていかない。うん、これ完全に拷問の類なんじゃねえかな。量も2人分だし。まあ、それなりのリターンは用意してるんだけどよ。


「それにしても頑張るよな」

「死ぬような物ではないからな。我慢すれば良いだけなのだから上の命令が出ていれば軍人ならば食べるだろう」

「下っ端は辛いねえ」


 モシャモシャとカツ丼定食を2人で食べながら運の悪い男へと同情の視線を送る。男はしばらく苦しそうにスプーンを進めていたが、しばらくしてカッと目を見開くとかきこむように一気にレーションを食べ始めた。


「おお、覚悟を決めたか!?」


 感心したような目でセナが男を見つめているが、たぶんその予測は違うと思う。なぜならあいつがかきこみ始めたのはひと仕事を終えたチェシャ猫の人形が戻ってきて男の視線に入っただろう瞬間だったしな。

 同じ男として気持ちがわからんでもないから教える気はねえけど。


 しばらくしてレーションを食べ終え、青い顔をしながら吐き気を抑えている男の元にチェシャ猫の人形がやってきて男へと瓶に入った液体を差し出す。男はそれを受け取りチラッとサンの方を確認してからチェシャ猫人形の頭を軽く撫でて幸せそうにし、そしてとても名残惜しそうに手を引っ込めた。サンが動く様子はない。


 ふぅ。なんとかセーフだったな。同好の士かもしれねえから俺の意向でチェシャ猫人形を差し向けたんだが、ここでぶっ飛ばされたら悲惨なことになってただろうし。

 ご褒美のつもりが罰ゲーム(周囲も含む)とか笑えねえしな。


 今、チェシャ猫が男に渡したのはミドルポーションだ。大概切り傷は治るし、骨にヒビが入ったくらいなら治療可能な200DPのアイテムだ。

 レーションを完食した奴に贈られるいわゆるご褒美だな。自衛隊の奴らがこの試練を強いられている原因でもあるが。


 でも普通の民間人なら自分の物になるんだからいいかもしれねえけど自衛隊の奴らはそんなことはなくて、国に納めているようだし本当に大変だよな。

 男が隊長らしき奴にミドルポーションを渡すのを見ながら俺はそんなことを考えていた。

お読みいただきありがとうございます。

地道にコツコツ更新していきますのでお付き合い下さい。


ブクマ、評価、感想などしていただけるとやる気アップしますのでお気軽にお願いいたします。

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昔に書いた異世界現地主人公ものを見直して投稿したものです。最強になるかもしれませんが、それっぽくない主人公の物語になる予定です。

「レベルダウンの罠から始まるアラサー男の万能生活」
https://ncode.syosetu.com/n8797gv/

別のダンマスのお話です。こちらの主人公は豆腐。

「やわらかダンジョン始めました 〜豆腐メンタルは魔法の言葉〜」
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少しでも気になった方は読んでみてください。

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