第97話 お茶会と不思議の国
ロウの登場により墓地のフィールド階層の探索方法もだいぶ様変わりした。まあ今までどおり走って探索をしようとすると、即座にロウがやってきて倒されちまうから当たり前っちゃあ当たり前なんだけどな。
ロウの行動パターンを探る傍らで、他のフィールドにおいて効率良くドロップアイテムを取得できないか探っていたようだが、結局は墓地のフィールドに落ち着いたようだ。まあ走れなくなったとはいえ戦いやすさで言えば墓地が一番だしな。
その途中で砂漠の石碑についても発見されたが確認だけで罠が踏まれることはなかった。この分だとしばらく他の3体については出番は来ないかもしれねえな。とはいえずっとコアルームに設置された待機部屋で召喚されるのを待つってのも可哀想だし、民間に開放されたらアスナに頼んでこっそり踏んでもらうとするか。
で、墓地フィールドなんだが、現状のペースとしては1時間につき1人頭で2,3体くらいのペースで腐り人形と出会うようになっている。走っていた時は1時間に6体ぐらいだったはずだから半分以下になった訳だが他のフィールドだと1時間1体くらいのペースであることを考えれば破格の数値だ。
とは言え赤字続きだったのが結構な黒字に転じたんだしこの程度で良いかと考えている。倒される数が減ったこと以上にロウがうろつく中を攻略することが試練になっているようで入手できるDPがかなり増えたことの方が良かったのかも知れねえけどな。
セナに言わせれば、もっとドロップアイテムの出るモンスターを減らしても問題はないとのことだが、今でも全体で見れば毎日4万から5万DPの黒字なんだし、あんま出し渋ってお茶会会場の意味がなくなっちまっても駄目だろってことで今のところここに落ち着いているって感じだな。
まだまだ実装していないフィールドはたくさんあるし、それが増えていけば入ってくる人数も増えて入手できるDPも増えるはずだ。問題は倒される人形たちが増えてきたことでいつか俺の手に余るようなるんじゃねえかってことだが、今のところ慣れと人形師のレベルが上がったことで<人形修復>にかかる時間が短くなっているので対応できているしな。まあそれにも限界があるだろうけど。
とりあえずフィールド階層についてはこんな感じだな。これから問題点もまだまだ出てくるだろうが、その都度対応していくしかねえだろう。俺とセナ2人だけで考えてんだから穴がないって方がおかしいしな。
で、そのフィールド階層で手に入れたドロップアイテムと交換で手に入る招待状で入ることの出来るお茶会の会場だが1か月少し経過した今、計8体の人形たちがせっせと働いている。あっ、サンも働いているから正確に言えば9体か。
一応最初の頃の集まり様から1万枚ごとに人形1体のペースで増やすつもりだったんだが、墓地のあの攻略法が編み出されちまったせいで途中から急激に集まる枚数が増えちまって注文していた服が間に合わなかったんだよな。2万枚ごととかにしても良かったのかも知れねえけどそうすると逆にペースが遅すぎる気もしたし。
仕方ねえから代役としてサンを俺が夜なべで〈人形改造〉してアリスのドレスっぽく体を作り変えて働いてもらったわけなんだが、なぜかサンがこの仕事を気に入っちまったんだ。
まあ人形たちの護衛も必要だったし、このままで良いかということでサンにはそのまま人形たちのチーフ兼用心棒のような形で働いてもらっている。さすがにドレス姿でうれしそうにくるくると喜んでいたサンにやめろとは言えねえよ。申し訳ないと思っちまうくらい喜んでたしな。
サン以外の人形たちの衣装はやっぱりアリスの世界をモチーフにしたものだ。そのものじゃなくて人型の人形がコスプレしているような感じだな。
そもそもほとんどはパペットたちの生まれ変わりだからベースを人型から変えるのは違うと思うしな。まあ白兎の衣装の奴はウサギ耳が生えていたり、チェシャ猫の衣装の奴は猫耳が生えていたりするがそのくらいは許容範囲だと勝手に考えている。可愛いは正義って言うし。
というか送られてくる衣装が全部良い感じなのが滅茶苦茶ありがたいんだよな。アリスの話をしっかりと読んで理解した上で、さらに俺が造った人形の写真にあった衣装を作ってくれてるってのがわかるんだ。
直感で選んだところもあったから不安も多少はあったんだが、本当に正解だった。
一応今のところ衣装かぶりしている奴は1人もいない。俺自身最初はアリスについての知識があんまりなくて登場人物と言えばアリスと白兎、トランプ兵にトランプの女王くらいしか知らなかったんだが、セナがなぜかよく知っていて話してもらったところ思った以上に登場人物が多かったんだよな。
人形を造るためのイメージを明確にするためにセナには何度も話してもらって今ではそらで話すことが出来るくらいまで頭に叩き込んだわけだが、芋虫が出てくるなんて知ってる奴、実際あんまいねえだろ。逆になんで芋虫がいるんだ? って思われそうな気もするんだがアリスに助言してくれる奴だし、なにより青虫の衣装としてどんなもんがくるのか俺が楽しみなんだよな。
もう発注はしてあるし、時期的にはもうすぐ来るはずなんだが、どんな衣装なのか今からわくわくしている。オーソドックスな感じなのかそれとも……
「間抜け面をさらして妄想に励んでいる最中に悪いんだが……」
「誰が間抜け面だ!」
「そろそろ昼だぞ。準備を始めなくて良いのか?」
「さらっと流すなよ、さらっと。まあその通りだけどよ」
時間を確認すると既に11時30分を過ぎている。そろそろ昼休憩のために探索を切り上げる奴らが出てくる時間だ。人形たちは給仕はしてくれるが、さすがに料理までは作れねえから用意するのは俺たちだ。
とは言え物自体は赤い屋根の小さな家の中に繋がっている12階層に用意したテーブルにタブレットをタッチして設置するだけだから大した手間じゃねえけど。それ以外にもやることがあるしな。
「よし、じゃあ行くぞ」
セナが自分の背の大きさほどの布製のサイコロを放り投げる。サイコロはコロコロと床を転がり、そして6の数字を示してその動きを止めた。
「うおっ、今日はハイリスクハイリターンの日だな」
「仕方あるまい。確率的には6分の1で起こるのだからな」
「まあな」
悪い顔をして笑うセナに返事をしつつ用意しておいたダーツの矢を6本手に取り壁に張った数字の並ぶボードへ向かって適当に投げていく。5、33、34、59、85、91ね。
「じゃあ、準備すっか」
「そうだな。私は監視を続けるから頼むぞ」
「おう」
セナに監視を任せて準備に入る。さて今日はどのくらいDPが入るんだろうな。
お読みいただきありがとうございます。
地道にコツコツ更新していきますのでお付き合い下さい。
ブクマ、評価、感想などしていただけるとやる気アップしますのでお気軽にお願いいたします。
既にしていただいた方、ありがとうございます。励みになっています。