第95話 墓地のフィールドの問題点
フィールドダンジョンを開放して1か月が経過した。どんな報告がされたのかは知らんがフィールドダンジョンは今日も盛況だ。いろんな意味でだが。
まず普通に攻略する奴ら。まあこいつらは言うこともあまりないだろう。
セナの提案通りドロップアイテムを落とす人形たちとの遭遇率を低下させるために、その数は増やさずにフィールドの広さを2倍に広げた。その代わりに迷彩色に<人形改造>したパペットをそれぞれのフィールドに大量投入したのでモンスターとの遭遇率としてはむしろ上がっている。まあ迷彩パペットに関しては<人形改造>と言って良いのかわかんねえけどな。色塗っただけだし、そのためにかかったDPって1DP以下だし。
今までは普通に歩いている最中に不意打ちをかけるだけだったのが、迷彩パペットたちと戦っている最中に不意打ちと言うパターンが増えたから難易度が上がったし、さらにフィールドまで広くなったから当初よりもかなり大変になったはずだ。まあそのことを知っているのは俺たちだけだから探索している当人にそんな意識はないはずだ。
基本的にはこいつらからたくさんDPが得られるので重要な人材だ。まあその分、人形を倒されることもあるんだが、迷彩パペットが多い分結構な黒字がキープできている。
で、次がフィールドダンジョンからいろいろ採取していく奴ら。こいつらが主に活動するのは森林と湿地だ。
森林と湿地にはもちろんその地形に応じた木や草などが生えているんだがそれを採取してはダンジョンの外へと持っていくという行動を繰り返している。最初は葉っぱとかの小さな物ばかりだったが、最近はお前ら木こりか! と言いたくなるほど攻略そっちのけで木を切り倒しては外に運んで行っている。
まあフィールド階層を設定しているおかげで切り倒された木なんかも1日くらいで元通りになっているので特にこちらとしては損はしてねえんだけどな。むしろ人形を倒さない分、完全に黒字だし。
で、最後が……
「加藤さん、遅いですよー」
「桃山の嬢ちゃんが速いんじゃて」
文句を言いつつ走る加藤の速度は決して遅くない。と言うより軽くジョギングしているように見えるが明らかに一般人の全速力くらい速いしな。やっぱレベルアップってやべえなってことが改めて実感できる光景だ。
普段の扱いがアレだから忘れがちだが、加藤も警察の中ではトップクラスの実力の持ち主なんだよな。桃山と組まされることも多いし。いや、皆が桃山の相棒を拒否した結果、加藤とかいう落ちなのか?
今、加藤と桃山の2人がいるのは墓地のフィールドだ。墓地と言っても日本の墓石が並んでいるような感じじゃなくて、十字架や長方形の墓石が雑然とむき出しの土の上に並んでいるので海外の墓に近い。まあおどろおどろしい雰囲気を醸し出しているしイメージとしてはお化け屋敷が最も近いかもしれねえな。
「うおっ」
「あー、出ましたねー」
足元から突如飛び出してきた手に驚きつつも加藤が何とか掴まれることなくそこから飛びのく。地面から突き出していた手がバタバタと空を泳ぎ、そしてゆっくりと土を盛り上げながら1体の人形がその姿を現した。
青白い痩せこけた肌にぼろの服をまとい、所々皮膚がはがれたようになったところは赤い筋が見え隠れしている。くぼんだ眼には眼球がなく、ずるずると地面をはいよる姿はまさしくゾンビと言ったところだが実際はゾンビなんかじゃない。腐り人形って言う立派な人形系のモンスターだ。
一応ゾンビも召喚できるモンスターにいるっちゃいるんだが、100DPかかる上に人形じゃねえから<人形修復>出来ねえんだよな。まあそもそも人形系以外のモンスターを召喚するつもりもねえんだけど。
この腐り人形は500DPだが、ドロップアイテムは回収できるので実質50DPで復活できるし、何よりそのDPが高いことからもわかるようにちょっとだけゾンビよりも高性能だ。具体的に言うとこの腐り人形に噛まれると毒が体に回る。何の治療も受けなければ1日程度で死に至るほどの毒だ。まあそれでも毒消しポーション(微)で治療できるんだけどな。
ちょっと残念なのは人形だけあってゾンビ特有の匂いがしないってことか。匂いがあれば墓地のフィールドの雰囲気がさらに……いや、待てよ。匂いがあったら修復する俺も被害に遭うわけだよな。うん、やっぱ人形にしてよかったな。
腐り人形の戦い方は基本的に地面の中での待ち伏せだ。自分の真上に人が来るまでじっと地面の中で耐え、上に人が来たと察知したら手を突き出して足を掴み、そして噛みつく。事前にそういうモンスターがいるとわかっていても歩かなければ探索は出来ないし、噛まれても大丈夫なように下半身の装備を厚くすれば動きづらくなって疲れやすくなるという面倒な存在なのだ。
だが初手をかわされると動きが鈍いからただの的になっちまうんだよな。
「よいしょっと!」
桃山の振るった木の棒が腐り人形の頭部に直撃しその首が90度に曲がる。まだこの程度では倒されることはないがこの先の展開は見なくてもわかりきっている。
「うーん、墓地のフィールドは手直しが必要かもしれん」
「まあな。新しい人形でも追加するか?」
タブレットを見ながら頭を悩ませているセナへと声をかけるが判断に迷っているようで反応は思わしくない。まあそれもそのはずでこの墓地フィールドだけは赤字をたたき出しているからな。全体で見れば大幅な黒字だが。
俺たちが設置した4つのフィールド、森林、砂漠、湿地、墓地の中で最も雰囲気が怖いのは墓地だが、実際に動きやすいのも墓地なんだよな。だって地面は普通の土の地面だし、視界を遮るようなものもほとんどないしな。
いや、ゆっくりと歩いて探索してくれれば腐り人形の餌食になる奴らも増えるはずなんだよ。ただ、今の桃山や加藤のように走られると腐り人形が捕まえる前に逃げられちまうんだよな。グレー色に染めた迷彩パペットたちの足じゃあ追い付けねえし。
まあそのぶん罠にかかって死ぬ奴らも多いんだが倒される人形が多いってことには変わりはねえし、罠で死んでも復活させるからDP的にはほとんど得なんてねえしな。
墓地で主に活動している加藤や桃山なんかは、モンスターから手に入るドロップアイテムをより多く回収してお茶会の招待状と交換するのが目的のようだ。もちろん自衛隊の奴らもいてせっせと招待状を集めているが、こいつらがやっていることはもはやチュートリアルじゃねえよな。
いや、考えは理解できるんだ。招待状を渡すことでお茶会の会場で給仕役の人形が出現したし、より早くアイテムと交換が出来るようにしたいという考えもわかる。まあ人形が増えたのは注文していた服が届いたからってのが本当の理由なんだけどな。
でもこの集め方はダンジョンで最も大切な死なないことを放棄してやがるんだよな。はっきり言ってしまえば罠にかかって死んでも良いから一匹でも多くのモンスターを倒すって感じだ。
生き返ることの出来る俺のダンジョンだから通じる方法であり、この階層を用意した意味がないと感じる攻略方法だった。
「罠を増やすか? 安い罠だとしても走った状態で見分けて回避するのは困難だしな。毒の霧(微)の使い捨てあたりを適当にばらまけば被害が続出するはずだが……」
セナがいつもとは違うもにょっとした口調で案を出す。確かに毒の霧(微)は使い捨てなら20DPで設置できるし、広範囲に広がるから巻き添えを食わすことも出来るだろう。それでもセナの口調がはっきりとしないのは、それで大丈夫だという確信が持てないからだろうな。
あと一押し何かが欲しい。ただ走れなくするだけで良いんだよな。逆に言えば歩いている状態で攻略が出来なくなっちまうとまずい。走るときと歩く時の違いか……
「おっ、そういえば……」
あることを思い出し、セナがいつも使っている手持ちのタブレットを操作していく。そして俺はニヤリと口角を上げた。
「セナ、こいつを使ったらどうだ?」
「んっ?」
セナにタブレットの画面を見せるとセナがフッ、と笑みをこぼした。俺のしたいことは伝わったようだし、この反応なら問題はなさそうだな。
「自然に導入できるようなイベントが必要だな」
「そうだな。まあ今の感じを逆手にとって……」
2人で意見を交換し合いながらアイディアをまとめていく。
あとはいつこのイベントが起きるかってことぐらいだが今の探索方法をし続けるならそのうちに勝手に起こしてくれるだろう。
とはいえ今日はどうしようもないからな。明日以降のお楽しみと行こうか。
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