第87話 新しい階層
人形造りに関してはとりあえず服の方がどうなるかによって変わっちまうので一旦休みだ。今までの経験上、アスナは面倒ごとはすぐに終わらせるタイプなので動きは早いと思うが、あのサイトの人物の性格を考えると人形を見て1から服を作り出すはずだ。それに注文が俺だけのはずもねえし少なくとも数週間はかかるだろう。
じゃあ何を考えるのかっていうと新しい階層をどうするのかってことだ。
今初心者ダンジョンの経営はかなりうまく回っている。単独でサンドゴーレムを倒してスクロールを手に入れた者がいるという話が広まったこともあり、他の探索者もこぞってサンドゴーレムに戦いを挑むようになってきているし、探索者を目指す奴も増えているらしい。
テレビでも特集を組まれることも多く、探索者としてダンジョンを潜っている奴が芸能人のように扱われることもあるそうだ。まあこの辺は持ち込まれた雑誌の情報の受け売りだが。
民間へとダンジョンが解放されたことによって今の日本はちょっとした探索者ブームって訳だな。そしてその探索者が最初に入るのは俺のダンジョン。何もしなくても客がやってくるわけだ。さらに言えば4階層へと挑む警官や自衛隊の奴らもいる。DP的に見れば余裕でやっていける状態だ。
だがそれは俺のダンジョンがチュートリアルの地位を持っているからだ。その地位を維持するためには他のダンジョンの1歩も2歩も先を進む必要があるって訳だな。
「では状況を整理するぞ。アスナから仕入れた他のダンジョンの状況、まあ民間人に公開されているのが全てだとは思えないがそれでもそこから考えると10階層を超えたダンジョンは確実にある。まあまだそこまで到達している者はいなさそうだがな。これの意味することがわかるか?」
「いや、フィールド型の階層が作れるようになるんだろ。前から散々お前自身が言ってたじゃねえか。そこにも書いてあるし」
「様式美だ。そんなこともわからんのか」
カンカンと指し棒で簡単な概要が書かれたホワイトボードを叩きながら言うセナへと突っ込んだのだが、なぜか俺が悪いような感じにされた。……俺って全く悪くねえよな。
セナは小さくかぶりを振って俺へと呆れをわざとらしく表現すると、それが全くの幻であったかのように表情を戻し再び説明を始めた。
「私たちのダンジョンは現在5階層。つまりあと5階層作成しなければフィールド型の階層は作れないというわけだな。まあこれは難しい問題ではない。DPは十分にあるしな」
「まあそうだな」
階層を増やすのにはその階層の深さに2,000をかけたDPが必要だ。6から10階層の5層を増やすのなら40×2,000で8万DPが必要って訳だ。結構なDPではあるんだが、今、セナのクッションと化しているせんべい丸よりも少ないDPだと考えると安く感じるよな。
「問題はこの5層をどう扱うかという点だ」
「既存の階層を増やすってのは無しなんだよな」
「そうだな。増やすのであれば元々の階層を広くしたほうが安上がりだし、わかりも良いだろうからな」
確かにキャパ的には前回の改修のおかげで今のところ十分に余裕がある。戦いまくってレベルを上げたいって奴は4階層に突撃しているから以前みたいなモンスターの取り合いも起こってねえしな。
まあ4階層に突撃しても中途半端な強さの奴はパペットにたどり着くことさえ出来ずに弓曳き童子たちの矢で貫かれて死ぬんだけどよ。それは今はどうでも良いか。
階層を追加するのは何も下に限定されている訳じゃない。今のところ基本に忠実に下へ下へ階層を伸ばしているが、6階層への入り口を1階層に作ることも出来る。今までの階層と違う階層を増やすって方がイメージとしてはわかりやすいか?
とはいえそんなことをしてもあんま意味がねえんだけどな。いくつもの階段を作って迷わせるってだけなら巨大な迷路のような階層を作ればいいんだし。
「私の案としては1層の隠し部屋のさらに奥にある部屋に6層への階段を接続し、そしてそこから10層までをとりあえず繋げてしまうのが良いと思う。そうすれば発見されるまで時間がとれるしな」
「隠し扉が発見されても階段が隠されていたと勘違いさせられるということか」
「うむ」
セナが首を縦に振り肯定する。
今のところ瑞和を入れた隠し部屋への扉自体が発見されてねえから、その奥のさらにDPをかけた隠し扉が発見されるとしたらかなり先のことになるだろう。そんだけ時間があれば新しいアイディアを思いつくだろうしな。何の根拠もねえけど。
セナのアイディアを採用すれば確かにフィールド型のダンジョンを造ることが出来るようになる。でももったいねえんだよな。
ただ単にコアルームへの隠し扉をごまかすという役割だけなら1つの層だけ繋げれば事足りる。それに発見されるまでは意味のない階層が出来ちまうってことになるしな。階層は深くなるごとにかかるDPが増えていくんだ。無駄な階層ってのは極力なくしたい。
「うーん」
「迷うのは良いが、猶予がそこまであるわけではないぞ」
「だよなあ」
セナがそういうのには理由がある。4階層をずっと攻略していた自衛隊の中の数チームの姿が最近見えないのだ。人数的には代わりの人員が補充されているんだが練度が違うし、いなくなった奴らのほとんどはスキル持ちだった。そんな奴らを遊ばせておくってのは考えられねえから他のダンジョンを攻略しているって考えるのが順当だ。
このままでは4層を攻略するのは無理って判断して他のダンジョンから有効なスキルなり魔法なり、装備なりを入手するつもりだろう。下手したらそいつらによって10層が突破されてフィールド型の階層が発見される可能性もないわけではない。
さすがに今まで作り上げた階層をまっさらにしてフィールド型の階層を作るような奴はいないだろうが、その可能性もゼロじゃないしな。
とりあえず導入予定のフィールドは決まっている。森林、砂漠、湿地、墓地の4つだ。まあ選べるフィールドの内で比較的安い方から特色のあるやつを選んだ。一番安い草原とかもあったんだが遠くからモンスターが丸見えになりそうだしな。雪山とか火山とかはDPが段違いだったし。
まあまだ実際に選択できる訳じゃないから実際に見てみないとわかんねえけどな。
しかしフィールドダンジョンは種類が多いから他のダンジョンの様子を見ながら順次増やすしかない。1つの階層に複数のフィールドを設定することも出来ねえし……んっ?
ふと考えが浮かぶ。これなら全部の問題を解決できんじゃねえか?
「なあ、セナ。ちょっと思いついたことがあるんだけどよ」
「ふむ、言ってみろ。奇跡的に良い案を思いつく可能性もあるしな」
言いたいことはあったがとりあえずセナへと説明をしていく。メリット、そしてもしかしたら起こるだろうデメリットも。
セナはうんうん相槌を打ちながら俺の説明を聞き終え、そしてニヤリと笑った。
「奇跡は起きるんだな」
「うるさいわ!」
セナの軽口に笑いながらツッコミを入れる。セナの同意も得られた。じゃあいよいよお待ちかねの新階層の準備に入りますかね。
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