第67話 新しい戦力?
「だー、終わったー!」
「うむ、ご苦労」
セナのなんとも偉そうなねぎらいの……んっ、なんか既視感があるんだが、まぁいいか。とりあえず<人形修復>すべき人形たちはぜんぶ直した。直したんだが結構な時間が掛かっちまったな。
侵攻が完全に終わったのが午後2時くらいで、死んだ奴らを全員復活し終えるのに2時間くらいかかった。で、少し話したくらいで修復を始めたのにも関わらず午後8時過ぎってことは大体4時間かかったってことか。やっぱ数が多いと時間がかるな。
一応パペットの修復なら最速で10秒もかからずに<人形修復>することは出来る。ただそれは非常用で本当にタブレットの代わりって感じの方法なんだ。特に緊急時でもないこの時に今回の功労者でもある人形たちにそんなことは出来ねえ。
サンや先輩みたいにはっきりとはわからねえけど意志だってあるかもしれねえし、せめて感謝ぐらいはしっかりして、俺が労ってやらねえと。
固まった体をコキコキと鳴らしながら立ち上がって背伸びをする。今倒れこんだら確実にそのまま寝るだろうしな。それにせんべいをかじりながらではあるものの俺が<人形修復>している間、ダンジョンを監視し続けてくれたセナにも食事を用意しねえと。
「セナ、なんか食べたいもんあるか?」
「なんでも良いぞ」
「なんでも良いってのが一番困るんだけどな」
自分で言っていてなんか主婦みたいだなと思わなくもないが、生活全般は俺の担当だからな。といっても俺も今日は疲れすぎてあんま食欲がわかねえんだよな。まあうどんで良いか。つるっと食べられるし。
DPを使ってうどんを購入する。天ぷら付きの釜揚げうどんだ。天ぷらをあんま食べる気にならねえからセナの方に移しておく。そのままだとボリューム的にセナには物足りないだろうからな。
「出来たぞ」
「そうか。ダンジョンは特に問題なしだ。あれから誰も入ってこない。んっ? 透の分が少ないようだがいいのか?」
「あー、まあ感謝の印っていうか、今日はあんま食欲なくてな」
「体調の悪い時ほど食事は重要なのだぞ。仕方ない、私のとっておきをやろう」
後ろを向いてゴソゴソしだしたセナの様子を見つつ、どうせせんべいなんだろうなと呆れ半分で待っていた。まあ俺の心配をしてくれる気持ちは嬉しいんだけどな。突っ込むのも野暮なんだが、突っ込まないってのもな。
そんなよくわからない選択に俺が頭を悩ませていると、セナがこちらを向いてドンと皿を机に置いた。
「よし、これを食べろ!」
皿に乗っていたのは減退気味の食欲をアップさせるどころか、大幅にダウンさせること請け合いの見覚えのあるドロドロとした物体だった。
「おい、これ……」
「大丈夫だ。戦地でも使用されているのだから栄養については保証するぞ。味についてもある意味で保証してやろう」
「ある意味って不味いってことだろうが! っていうかなんてもん出してんだよ。俺がノリで出してめちゃくちゃ苦労して食ったの見てたよな」
「そうだな。ちょうど透が購入する少し前に私も懐かしさに負けて購入したんだが、透の反応を見てやめておいたのだ。捨てずに取っておいたのだが、まさかそれがこんな時に役立つとはな」
「とっておきじゃなくて不良在庫の処分じゃねえか! こんなもん食うなら天ぷらを食うわ。返せ、こっちも返してやるから」
「嫌だ。そんなもん食えるか!」
「食えるかって言うようなもんを人にやるんじゃねえよ!」
セナの出したレーションの押し付け合いはしばらく続いたが、結局は半分ずつ食べることになった。食べ物を残したり捨てたりすんのは俺もセナも嫌だということで共通していたしな。まあ栄養があるってのは確かだし、逆に不味すぎて食欲不振を振り切れればと思ったんだが不味いもんは不味いってことを再認識しただけに終わった。いや、うどんがめちゃくちゃ美味く感じたことを考えれば少しは意味があったのかもしれねえな。
セナは一口含んだ瞬間に切ない顔で遠くを見つめていた。そして自分の分を全部食べ終わった頃には口を半開きにしたまま放心していた。たまにはこういうのも良い薬だろ。
セナの放心タイムがあったので珍しく俺のほうが早く食事を食べ終えたが、しばらくしてセナもかき込むように釜揚げうどんと天ぷらを口に運んでいった。完全に麺が伸びていると思ったんだがそんなことはお構いなしだ。目からとめどなく涙を流す姿になぜか俺の胸が痛むんだが……俺は悪いことしてねえはずなんだけどな。
そしてうどんを食べ終えたセナはしっかりと両手を合わせて拝むように感謝したあと、いそいそとせんべいを取り出し口に含み、ほっと息を吐いた。
「なんか、おつかれ」
「いや、アレを押し付けようとした私も悪かった。アレはやはり兵器だ。心を蝕んでいく恐るべき物体だ。……そうだ! これを罠として使えば!」
「そうだ! じゃねえよ。そろそろ正気に戻れ」
元に戻ったかと思えば、全く正気じゃなかったセナの頭を軽くはたく。確かに慣れてない奴らには兵器級の威力があるかもしれんがそんなことができるはずねぇだろ。
しかし宝箱のハズレ景品としてなら……いやいやいや、同じ苦しみを分かち合う犠牲者を増やしたいってだけでそんなことは出来ねえ。最初から混ぜておけば良かったか……ってそうじゃねえし。
ダメだな。俺もちょっとショックがあとを引いてるわ。
「痛い。ハッ、私はなにを……」
「そこまでかよ」
「まぁ、冗談だがな。それはそうと透はレベルが上がったのだろう」
「んっ、そうだったか?」
「さっき〈人形修復〉している最中にそんなことを言っていたが」
セナの言葉に記憶を探るとなんとなくそんなこともあったような気がするな。修復を優先したから後で良いやって放置したような……
何か出来ることが増えてるかと意識してみると、思いがけない能力が増えていることに気づく。
「〈人形創造〉だと……」
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