第66話 本格侵攻の反省会
「だー、終わったー!」
「うむ、ご苦労」
セナのなんとも偉そうなねぎらいの言葉を受けつつ、持っていたタブレットを置いて床に寝転がる。ちょっとひんやりとした感触が気持ちいい。
今回の自衛隊の奴らの本気の侵攻に疲れたってのももちろんあるんだが、それ以上に面倒だったのは死んだ奴らを生き返らせることだ。いや、ただ単にタブレットにある生き返らせるボタンをポチポチしていくだけなんだが、なにせその人数が600人を超えているんだぞ。一括ボタンなんてねえし、あったとしても一気に復活させたら入口で詰まっちまうだろうけどな。
で、まあ仕方ねえから地道に1人ずつ死んだ順に復活させていったわけだが、1人目を生き返らせた瞬間、外に出ずに4階層へと向かって走っていった姿を見た時はあの時にセナが止めてくれて良かったと心底思ったものだ。
4階層に着いてもう誰もいないことに気づいてからは復活地点に戻って後で生き返る奴に順次事情を説明していたので4階層へ向かったのはそれが始まるまでの数人だったが、きっとそういった指示が出ていたんだろうな。
それとは別にわかったこともある。生き返らせるリストに表示される順番はそいつが死んだ順番になっているのでわかったことだが、最後の方に死んだ奴らから得られたDPが異様に高かったことだ。いや、普通の奴らもレベルアップしたおかげか死亡時に得られるDPは平均で2,000以上だったりするんだが、最後のほうで死んだ奴らからは10,000前後のDPが得られていた。この原因は明らかにスキルの有無だ。
「なあ、セナ」
「なんだ?」
「死んだ奴が持ってたスキルのDPももらえるのか?」
「わからん。わからんが今回のケースを見た限りはそうなんだろうな」
腕を組みながら難しそうに眉間にシワを寄せているセナを見上げる。俺の植えつけられた知識にはそういったことはなかったので、もしかしたらと聞いてみたんだが、やっぱセナもなしか。
俺もスキルを宝箱から出したりしていたがウォーターとか500DPの安いやつしか出してなかったから気付かなかったな。1つ500だったとしても複数所持していれば気づいたかもしれんが流石にそんな奴はいなかったし。
よっと声を出しながら起き上がる。もう少し休んでいたい気もするけど反省会はなるべく早くしておいたほうが良さそうだしな。特に今回はいろいろなことがあったし。
その中でも一番気になるのは……
「やっぱスキルの出処だよな」
「そうだな。あれだけのスキルをそれなりの人数が保持しているとは予想外だった」
「だよなぁ」
ポチポチとタブレットを操作してスキルや魔法のスクロールにかかるDPを眺めていくが、今日見たスクロールはだいたい5,000から10,000DPするものばかりだ。俺が出したような生活魔法なんかじゃなくって普通に戦いに使えるものってわけだな。
確かにスクロールなんかを宝箱に入れておくことで、侵入者を増やしてDPが得られるようにするっていう手がないわけじゃない。でもそれはいわば諸刃の剣だ。強いスクロールを与えれば与えるほど攻略相手の戦力が増すってことだし、自分のダンジョンの首を絞めるのと同じだからな。
「俺たちみたいにそのダンジョンで効かないスクロールを餌にした奴がいたとかか? それが今回集まってきたとか?」
「それにしては数も多いし、種類も豊富過ぎるように感じたぞ。それに他のダンジョンにそれほどの余裕が有るようには今まで集めた情報からは思えないな」
「あー、わっかんねぇなー」
がしがしと頭を掻いてみても答えが見つかるわけじゃないんだがな。セナも腕組みしたまま考え込んでいるし、この疑問を解決するには情報が足りなさすぎだな。
しかし今回のことで感じたが、8,000DPのウォーターランスやアイスランスでもかなりの脅威だった。強キャラだったサンドゴーレムが一瞬で雑魚扱いになったからな。なんというかインフレが過ぎた漫画みたいな感じだが、笑って済ませられる問題でもねえ。
DP的に見れば確かにサンドゴーレムは5,000DPで召喚できるからそのスキル以下の強さだってのは納得しようと思えば出来る。先輩の戦いを見た限りそれが全てって訳じゃねえとはわかるが、これからもスキルを保持した奴らが増えていくことを考えれば戦力の増強は必須だ。先輩にも<人形改造>を受けてもらわねえとな。
んっ、ということは瑞和にやった、ポイズンとかパラライズとかスリープって結構強い魔法ってことになるんだな。なにせ1つ20,000DPするんだし。人形しかいない俺のダンジョンでは意味がねえけど。
まあ優者の称号を受けた者として活躍してもらわないといけねえから強いに越したことはないからな。真似キンを守れるくらい強ければ俺としては万々歳だ。
「あとは……」
「ちょっと待て。その前にするべき重要なことがあるだろう」
「重要なこと?」
俺の言葉を止めたセナの顔はどこかニヤついていた。表情からして悪いことではなさそうだが確実に厄介事だ。何か忘れていたことがあったか?
改良するべき点は色々ありそうだがユウがいる限り突破される可能性は今のところない。だから今の構成をいじる必要は……
「って、〈人形修復〉のことか!」
「うむ、パペット500体とお化けかかし50体、そしてサンドゴーレム21体だな。ユウの取り巻きの人形たちもいるが、あいつらは対象なのか?」
「いや、初めてのことだからわからんが対象なんじゃないか? ってことは600近い数ってことか。うわっ、マジかよ」
「で、どうするんだ。手伝ってやろうか。今は危険は無いがな」
「ぐっ」
セナの誘惑に思わずうなずきそうになる。でも俺の信条として緊急時以外は自分の手で直してやるって決めてるんだ。だってこいつらが頑張ってくれたおかげで俺たちは平穏に暮らせてるんだしな。
せめてこのくらいはやってやらなくちゃあダメだろ。たとえその数が半端なかったとしても。
「いや、やる」
「そうか。ダンジョンの監視はしておいてやる」
「おう、頼むわ」
柔らかく微笑んでいるセナの頼もしい言葉を受けて俺は〈人形修復〉地獄へと歩みだした。
たまに響くパリッパリッという音にふとした時に気づき、複雑な思いを抱きながらも俺は大切な仲間たちの修復を続け、そしてやり遂げたのだった。
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