第63話 先輩の熱い思い
前話の死に戻り関係について感想で指摘いただきましたので修正しています。ご指摘ありがとうございます。
突如現れた先輩に動揺を見せる自衛隊の奴らに拍車を掛けるように、次々と隠れていたサンドゴーレムが縦方向に延びた自衛隊の隊列のそばにその姿を現す。
「アンブッシュは戦争の基本だぞ。驚いている暇があったら反撃すべきなのにな」
「いや、これは仕方ないんじゃねえか。さすがにここまで擬態できるとは俺も思わなかったし」
突如現れたサンドゴーレムたちに自衛隊の対応は遅れ、逆にサンドゴーレムたちはここぞとばかりに襲いかかっていく。自衛隊の奴らが驚きに動きを止めたのはほんの1秒程度に過ぎなかったはずだ。だがその間に結構な数のやつらが倒され消えていく。およそ40人ってとこか。
流石というべきかすぐに態勢を立て直して反撃に動き始めた自衛隊の奴らだったが、3階層とは違う砂原という地形と、サンドゴーレム対策の装備をしているのが一部に固まっていたためそれ以外の場所の被害が拡大していた。おそらくサンドゴーレムを見つけたらその部隊が交代する予定だったんだろうな。
「今回はこれで終わりかもな」
「うーん、思ったよりもあっさりだったな。もっと苦戦するかと思ったんだが」
「まあ今回はということだ、次回は今回の経験を元にさらに対策を練ってくるだろう」
「そういうもんか」
嫌な予感がした割にあっさりと終わりそうで拍子抜けしそうになったが、セナの言葉に気を引き締める。確かに本格的な攻略は今回が初めてだが、これが最後ってわけでもねえはずだ。敵が今回の経験を活かしてくるなら、俺たちも活かさねえとな。
今後に活かせるところはねえかとタブレットを見るが、どう見てもサンドゴーレムたちの圧勝だ。次回は待ち伏せを想定してくるだろうからそれを見越しての再配置の位置も考えねえと。んっ、いま画面に何か映ったような……
その時パンっという音とともに光る玉が天井へと打ち上げられた。
「ウォーターランス!」
「アイスランス!」
そんな言葉とともに空中に浮かんだ水と氷の槍がサンドゴーレムに突き刺さる。槍といっても西洋の騎士が馬上の決闘とかで使うような長さ2メートルはあろうかという円錐形の槍だ。
氷の槍に突き刺されたサンドゴーレムは当たり所が悪かったのか一撃で倒され、水の槍に突き刺されたサンドゴーレムはなんとか即死は免れたようだが、その砂の大部分に水を浴び動きが鈍くなっている。倒されるのは時間の問題だ。
「うおぉぉお!」
また別のところでは雄叫びを上げた男がサンドゴーレムの拳を受け止めており、また別のところでは空中を駆け上がるようにして飛び上がった男がサンドゴーレムの頭に攻撃を加えていた。
戦局は今までとは一変していた。魔法やスキルを使いこなす少数の自衛隊の奴らにサンドゴーレムたちが徐々に押されていく。というよりウォーターランスとアイスランスが致命的だ。コアに当たらなかったとしてもその動きを止められちまうし、サンドゴーレムにとっては相性が悪すぎる。
でもなんでこいつ等はこんなスキルなんて持ってやがるんだ。少なくとも俺が出したもんじゃねえし、アイスランスやウォーターランスなんて確か8,000DPだったぞ。
自衛隊が入っているのは日本国内の管理されたダンジョンのはずだ。ってことはそこのダンジョンマスターは満足にDPを稼げていないはず。2代目、3代目が最初にどれだけDPをもらえるかはわからんが、そんなスクロールにDPを消費するよりダンジョンをもっと強化するはずだ。侵入させるための餌だとしても必要なDPがでか過ぎるしな。
「ちっ、今はそんなことに悩んでいる暇はねえか」
サンドゴーレムたちはどんどんと倒されていき、最後まで残ったのはやはり先輩だった。自衛隊の奴らもかなり数を減らしているが、それでも100名以上は残っている。そのうちで特殊なスキルを使える奴はだいたい40名ってところか。
戦況は圧倒的に不利だ。普通の奴らなら先輩ならどうにかしてくれたかもしれねえが、さすがにスキルや魔法持ちの奴らに囲まれた今の状況は絶体絶命と言わざるを得ない。弓曳き童子たちも援護はしてくれるがそれも焼け石に水だ。矢が尽きちまった奴も多いしな。
そんな状況下でも先輩は引かなかった。むしろ前へと進み出てその巨大な拳を地面へとぶつけ、そしてゆっくりと鷹揚に立ち上がる。それはここを通りたければ俺の屍を越えていけとでも言っているかのようだった。
そして先輩の絶望的な戦いが幕を開けた。
飛んでくる魔法を先輩は最低限回避するにとどめてその距離を詰めていった。体を変幻自在に動かしながら、時に地面の白砂を盾に使いながら近づく先輩を自衛隊の奴らは仕留めきれなかった。
そして先輩の精一杯の反撃は始まった。その砂の体の一部をロープのように使って自衛隊の奴らを捕まえては引き寄せて着実にその数を減らしていった。もちろん先輩自身も攻撃を食らう機会が増え、その砂の体はどんどんと小さくなっていく。しかしそれでもコアだけには攻撃を食らわないように先輩は戦い続けた。
そしてついに……
「ウォーターランス、こはっ」
普通の人間と同じくらいまで小さくなってしまった先輩の体の中心にウォーターランスが突き刺さった。既にコアの一部が砂の体からはみ出して見えていたし、その攻撃はまごうことなく先輩のコアを破壊した。しかしそれと同時に固く鋭く伸ばした先輩の手がウォーターランス使いの自衛隊員の胸の中心を貫いていた。
2人が鏡写しのように地面へと倒れていく。そして男が消え、先輩も光の粒へと消え去ろうとした瞬間、その握った拳が小さく親指を立てた。そして先輩は完全に光の粒になり消えていった。
「あとは任せた、だと」
「ああ、俺にも伝わったぜ」
先輩の熱い思いは俺たち2人に十分すぎるほど伝わった。むしろ俺としては先輩こそが闘者の称号に相応しいんじゃねえかと思うほどだ。絶望的な状況でも最後の最後まで戦い続け、いざその時になれば後へ続くものへ熱いものを残していくんだ。これほどふさわしい奴はいねえだろ。
残りはおよそ40名。普通にこのまま進ませても撃退は出来るはずだ。奥に行くほど難易度が上がるようにわざわざつくってあるんだからな。でもそれで良いのか。先輩のこの熱い気持ちに応えるにはそれだけじゃあダメだろ。
「セナ、作戦変更だ。絶望を教えてやれ」
「そうだな。高い壁があると知ったほうがDPも入手しやすいだろうしな」
素直じゃないセナの言葉だがこいつも先輩の気持ちを十分に受け取っていることはその握られた拳を見ればわかる。さあ、門番の登場だ。首を洗って待ってやがれ。
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