第59話 改装後初日終了
いやー、遠距離攻撃って強えな。そんなことを改めて実感したな。
桃山たちを撃退してから数グループが4階層へとやってきたがそのほぼ全てがパペットと戦うことも出来ずに飛んできた矢に貫かれて死に戻っていった。さすがに途中で対策も取らずに進むのは無理と判断したらしくこれ以上の調査は切り上げたようだが初回の洗礼としては十分なはずだ。
その後、結局午後9時過ぎまで1から3階層の調査をして、そして警官と自衛官たちは帰っていった。さすがにこのダンジョンに慣れた精鋭と思われる人員だけあって、チュートリアル階層の1から3階層はくまなく調べつくされちまったな。別に困るもんでもないし、いいんだけどよ。
まあその反応を見た感じ規模が大きくなったことには驚いていたようだが、その難易度は変わっていないと判断していたようだし、あっちの想定にも大きな影響は与えないだろう。たぶん。
基本的にどんな奴がダンジョンに入ってくるのかは入り口を管理している外の奴ら次第だからな。民間に開放する流れにはなっているようだし、俺たちとしては少ないDPでも大人数を受け入れてカバー出来れば良いんだ。
チュートリアルとして有用だと判断されている今の状況ならまず間違いなく俺たちのダンジョンは民間の導入に組み込まれるはずだしな。
外にモンスターが出てくるってことも起きているらしいし、ダンジョンに積極的に潜りたい奴じゃなくても自己防衛とかのために安全にレベルアップしたいっていう需要は絶対にある。そういう層は絶対に死の危険のない初心者ダンジョンに来るだろう。自己防衛のためにダンジョンに入るなら得られるDPもそこそこ高いはずだ。自ら好きこのんで入ってくるわけじゃねえしな。
そんな奴らをキャパがなくて取り逃がすなんてことがないようにしておかねえともったいない。
基本的に今回の改装で1から3階層に関してはほぼ自動化した。テスターの奴らが入ってきたことでわかった問題点を解消するためだ。
今までは警官や自衛官だったのでダンジョンに入ってくる人数とか入る場所とかが完全に管理されていた。ただ今回のように民間に開放されたらそんなことは出来るはずがねえ。瑞和のようにダンジョン探索もせず人形に話しかけるような変わった奴が1人いるだけでその階層は何も出来なくなっちまうしな。
1階層のレベルアップのために戦うパペットの交代要員の待機部屋もやめた。だって交代する前に通りがけの奴らに倒されちまうし。まあ倒されることが役割っちゃあ役割なんだから許容したが用意しても毎回誰かに倒されるのはイラッとしたしな。
待機部屋は潰してもDPが返ってくるわけじゃねえし、そのままだ。入り口の部屋みたいに何かしら利用するようになるんじゃねえかなと期待している。
まあサンドゴーレムが1体待機しているが、攻撃しなければ待機しているだけだしオブジェみたいなもんだと考えてくれればいいんだけどな。
このサンドゴーレムはダンジョン内の治安維持用のモンスターだ。腕に俺の<人形改造>で『警備』という腕章をつけてあるので他のモンスターと見間違えることはないはずだ。クズたちのようなチュートリアルにふさわしくない行動をした奴らを捕らえるのが仕事だな。
人が増えればトラブルが増えるってのは当たり前だ。放っておけば良いと言えばそうなのかもしれんが俺自身がそういうのは見たくねえし、何より変な悪評がたって俺たちの初心者ダンジョンの価値が落ちるってのは避けたいからな。安心、安全ってのがチュートリアルの肝なんだしよ。
もちろん待機しているサンドゴーレムが離れた場所の事を知るなんてできないし、人がいる階層なので俺たちが指示を出すことも出来ない。
その役割ともう1つの問題を同時に解決するために新たに呼び出したモンスターが煙出し人形、いわゆる煙突掃除人の人形だ。
そいつは黒のシルクハットを被り、全身黒づくめの服に金のボタンをつけた40センチほどのブリキの人形で、その背に背負った梯子と手に持ったブラシ、くわえたパイプがチャームポイントのおっさんだ。
ちなみに1体の価格は500DPとそこそこなんだが、もちろん人形系モンスターの宿命というべきか戦闘に関してはからっきしだ。とは言えこいつの能力が警備にはうってつけなんだ。
煙出し人形はその名の通りくわえたパイプから煙を出すことが出来る。その煙自体には毒がある訳でもなんでもない。ただその煙は周辺のモンスターを引き寄せる性質がある。つまりサンドゴーレムはこの煙がついている奴を捕らえに行くって訳だ。
まあもう1つの役割として、掃除人という名だけにダンジョン内に落ちているゴミを収集するってこともあるんだけどな。もちろんゴミ処理をこっちでするつもりはねえからその階層の初めの部屋に捨てるように指示している。ゴミぐらい自分たちで処理しやがれってんだ。
ちなみに煙出し人形たちには<人形改造>で『清掃係』の腕章をつけてある。まあ真似キンのように攻撃されて倒される可能性も十分あるだろうが覚悟はしているし、その時は警備のサンドゴーレムから報いを受けるだけだ。
入り口の部屋に設置した『犯罪者さらし場』の看板の元で、さらし首状態でじわじわいたぶられるのを他の奴らに見られるといいわ!
まあそもそも死に戻った奴の復活地点が入り口以外に指定できれば牢屋でも作ってそこに入れてやったんだがな。まあ出来ないことは仕方ねえし。そこに牢屋作っちまうと他の奴らの迷惑になるからしねえけど。
さて、とりあえず開放初日が終わったな。そういえば夕食を食べるのを忘れてたから用意しねえと。俺がタブレットで食事を用意する横で、セナによるサンのための戦い講座も終わりを迎えようとしていた。
「……というわけだ。どうだ、参考になったか?」
こくこくとサンがうなずき、やったるでー! とばかりにこぶしを突き上げた。サンらしい仕草に俺とセナが顔を見合わせて笑う。まあいつでも前向きな姿勢のサンだから俺もセナもいろいろしてやりたくなっちまうんだけどな。
戦いを想定しているのかぶんぶんとシャドーとかダッキングをしたりしているサンをセナがタブレットで3階層に送った。そんなアドバイスはしてなかった気がするが……まぁ、明日からの活躍に期待だな。
「さて、飯でも食うか」
「うむ」
4階層の開放と撃退の成功を祝してちょっと今日は奮発した。赤飯や鯛の尾頭付き、そして様々な小鉢なんかが並んだ御前だ。まあ本当はちょっとずつ出すのが良いんだろうが俺とセナしかいねえし、面倒だから一気に全部出しちまったが。
セナは相変わらず食事に関しては何も言うこともなくものすごいスピードで口に放り込み器を空にしていく。そして俺が半分食べ終わる前に食事を終えた。結構な量だったが本当にどこに入ってんだろうな。まあ腹がちょっとポッコリしてるから腹なんだろうけど。
「んっ、なんだ?」
俺の視線を感じたのかセナがこちらを見る。ここで素直にお前の腹を見ていたなんて言った日には、どうなるかわからないのでとっさに話題を探す。幸いにも今日はいろんなことが起こったのでそれはすぐに見つかった。
「いや、4階層は結構順調だなって思ってな。パペットにさえ誰もたどり着けなかったし」
「うむ。対策をなにもしていないから当たり前だな。次回からは矢の対策をしてくるだろう。まあ、ただ……」
セナがこちらを見ながらこの上なく嬉しそうにニヤッと笑う。
「対策したとしてもただの罠だと思っている限り先には進めんさ」
「だよなぁ」
セナの言葉の意味を正しく理解している俺は、これから何度も死に戻るであろう警官や自衛官たちに心の中でご愁傷さまと呟いた。
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