第57話 新たなダンジョンの役割
「終わったー」
「ふむ、とりあえずお疲れと言っておこう」
「いや、普通にお疲れでいいだろうが」
ダンジョンを封鎖して1日半。やっとダンジョンの改造が終わった。時々休憩とかは挟んだが、徹夜でぶっ続けで造り続けたせいでぶっちゃけめちゃくちゃ眠い。とは言え1、2日って宣言しちまったし仕方ねえんだけどな。長期間になるとなにをしてくるかわかんねえし。
既存の1から3階層については大人数に対応できるようにダンジョンの拡張をしただけなので半日程度で終わったんだが、最も時間がかかったのが新しい階層である4階層と5階層だ。まあメインは4階層で5階層はついでだからほとんどの時間は4階層に費やしたんだけどな。
今回瑞和たちがこの初心者ダンジョンに入ってきて、そしてそのDPの推移を確認していて俺とセナは1つの確信を持った。はっきり言ってこのままだとヤバいってことだ。
この20日間の間に稼いだDPは約8万。警官とか自衛隊の奴らが入ってきていた時はだいたい1日に1万DP程度入っていたことを考えれば明らかに少ない。まあ人数も違うんだが、それ以上に調べていてまずい事実ってのが結構出てきたんだ。
初めて入った時のDPが少ないってのも問題だが、なにより問題だったのはそのDP入手の低下具合だ。具体的に言うならクズのグループの奴らなんてDP入ってんのかと思うほどにDPが入らなくなった。
まあDPの入手に関してはメッセージが出る訳じゃねえから今までの経験則で大体こんな時にDPが入るって判断してるんだけどな。代表的なのはダンジョンに入った時とか死ぬ直前とかだ。もちろん死んだらDPは入るが、まあそれは復活に使うから無視だ。
で、そんな経験則に従ってクズたちを見てみるとほぼDPが入っていない。クズたち以外のダンジョンを攻略していた奴らも軒並み入手DPがかなり減っていたのだ。それでもなんとか8万DPまで稼げたのは、心の折れた奴らがダンジョンに入る時にまあまあなDPが稼げたからだ。
今回はテスターってことだったので、心が折れた奴もダンジョンに来て安全と思われている入り口の部屋の建物の中で過ごしていたが、もし本当に一般に開放されたら心の折れた奴なんて二度とダンジョンに入るはずがねえ。
それに俺は気づかなかったが、参加者に扮して警官とか自衛隊の奴らが監視目的で入っていたようだし、そいつらのDPを考慮するとたぶん20日で3万DP稼げているかいないかって程度だと思うんだよな。
俺とセナは連日議論を重ねた。はっきり言ってただ生きていくだけなら入手できるDPが低くなろうがそれなりの人数さえ入ってくれれば事足りる。ただそれで生き残れるかと考えると微妙だ。
時間が経過すればするほどレベルの高い奴は増えていくし、なによりスキルの中には『罠発見』なんてものもあるのだ。俺としてはそんなスクロールを出すつもりはねえけど、他のダンジョンマスターが出さないって保証はねえ。DPの高い罠ならスキルをごまかせるようだがスキルも成長するし、結局はいたちごっこだ。
だから俺とセナは初心者ダンジョンに1つの役割を加えることに決めた。その新たな役割とは、試練を受けるに値する者の選定、いわゆる勇者選定ってやつだ。瑞和の優者ってのもこれの一環だな。
確かに瑞和には真似キンを助けようとしてくれたという恩があった。それに報いたいとは思ったが、それだけなら高いスクロールを3つも与えるなんてことはしなかった。瑞和をあれだけ厚遇したのはこの勇者選定の役割の宣伝のためもあったからだ。
3つの見たことも聞いたこともない魔法。それをダンジョンに認められ与えられたということはかなりセンセーショナルなはずだ。高いDPがかかった魔法だから効果もはっきりとわかるだろうし、ダンジョンを攻略しようとする奴の中で手に入れたいと思わない奴はいないはずだ。まあ人形系のモンスターには効かねえけどそれでもだ。
この勇者選定の役割がこのダンジョンにあるとわかればダンジョンを攻略してやろうって言う士気の高い奴らもこのダンジョンに呼び込める。そしてそいつらが試練に感じる階層を造っちまえば高いDPが得られるって計画だ。
初心者からベテランまでってことだな。
その宣伝のためにセナに演技を頑張ってもらったんだが、瑞和がスマホを持ってたってのも良かったな。
初心者ダンジョンの案内人からの直接のメッセージ、しかも動画ともなればその宣伝効果はかなりのものになるはずだ。会話を拾った限り他のダンジョンでそんな事をしてる奴はいないようだしな。まあ、実際は政府が秘匿してたりするのかもしれんが一般に知れ渡っていないのなら誤差の範囲だろう。
で、そこまで宣伝して、煽り倒して作り上げた4階層のコンセプトはそこで選ばれる闘者の称号にふさわしく闘いだ。
一応本当にクリアした奴がいたらそれなりのスクロールを贈るつもりだが、まあそれはクリア出来たらの話だ。はっきり言って俺とセナはしばらくの間この階層を突破させるつもりは毛頭ない。そのための仕掛けも色々と用意したし、新しい人形系のモンスターも召喚したからな。
しかし若干やっちまった感はあるんだよな。今まで貯めてきた200万を超えるDPが今は50万とちょっとになっちまったし。
まあ保険として50万は残した訳だし、これからの事を考えれば十分に取り返しはつくはずだ。
「じゃあそろそろ先輩たちにも配置についてもらってダンジョンを開放すっか」
「そうだな。良くも悪くも変わっていくだろうが臨機応変こそ優秀な傭兵の証だ。せんべいを心置きなく楽しむ優雅な生活のために私も気合を入れるぞ。ついでに透の安全のためにもな」
「俺はついでかよ」
膝の上で俺を見上げているセナに笑って返す。セナも笑顔になり、こちらに向かって拳を突き出してきた。その小さな拳に俺の拳をコツンとぶつける。
「さて、新たな戦場の幕開けだ」
「おう」
お読みいただきありがとうございます。
ついに目標としていた1万ポイントに到達しました。皆様ありがとうございます。何か記念に出来ればいいなぁと考えていますがまだ用意できていませんのでしばらくお待ちください。