第5話 パペット
目の前に現れたパペットはなんというかデッサン用の木製人形を成人サイズに大きくしたようなモンスターだった。画材屋とかで変なポーズを取らされていることの多いアレだ。
当然目も鼻も無く表情もわからないはずなのだが、どことなく言い争う俺たちを見ながら困惑しているように感じる。とりあえずそろそろやめておこう。
「意外と強そう?」
「さてな。試してみればどうだ? やり直しはきくんだから」
「それもそうだな」
見た感じ腕回りとかバットぐらいあるし、身長も170センチを超えている。最低ランクのモンスターとは言え弱そうには見えない。
「よし、試しに戦うから全力で来い」
「……」
パペットが小さくうなずきそして走る程度のスピードでこちらへと近づいて……
「「あっ!」」
来ると思ったら足をもつれさせて転んだ。そしてぎこちない動きで立ち上がり今度は速足で近づいて来ようとして……また転ぶ。そして再び立ち上がり今度は歩いてこちらへと近づいてきた。さすがに歩く程度では転ばないようだな。
俺の目の前までやって来たパペットが腕を振り上げ、そして少しバランスを崩しそうになりながらもパンチを繰り出してきた。その速度は決して速いとは言えない。あえてくらってみたが子供のパンチより少々強いかなと言った程度だ。
「ほいっと」
試しに軽く足払いをかけてみると見事なまでにすっころんだ。立ち上がろうとしているところで再び足を払うとまた転ぶ。延々このコンボが効きそうな感じだ。マジかよ。
しばらく戦い、そしてパペットが光の粒子になって消えていく。普通はドロップアイテムが出るはずだがこの空間では出ないようだな。
「弱いな」
「ああ、話にならん」
一応と思い、倒すことの出来るまで攻撃してみたがダメージとしては攻撃した部分が痛くなるくらいのものだった。まあ木を蹴ったりしたんだから当たり前か。サッカーボールのように蹴って足を痛めてからストンピングしていたわけだが結構時間がかかったので耐久性は高いのかもしれない。
しかしこいつが何体来たとしても殺される奴はいないだろ。走れないし、バランスも悪いみたいだし倒せなくても逃げるくらいは出来そうだ。
「あっ、そうだ。【人形師】なら強化されるんだよな」
「何を言っている。お前が呼び出したんだから強化済みに決まっているだろうが。そもそも最初期のクラスによる強化など今は微々たるものだぞ」
「マジか」
期待を込めて聞いてみたがセナから返って来たのはそれを粉々に打ち砕く言葉だった。本当に【人形師】の意味ねえじゃん。
と思ったのだがポイントを一旦リセットしようとしたところでリストに新たな項目が出ていることを発見した。それは〈人形修復〉という項目だ。選択してみるとどうやら先ほど倒して消えてしまったパペットを修理することが出来るらしい。消費するDPは1だ。
「なあ、これ使えば人形で人海戦術出来るんじゃねえか?」
「試してみればどうだ?」
セナは答えを知っていそうな感じだったが、まあ時間はあるし確かに試してみれば良いだろうと〈人形修復〉を行う。すると目の前に先ほどと同じ格好のパペットが現れた。キョロキョロと周りを見回している姿がどことなく人間っぽいな。なんかこれからやろうとしていることがしにくくなるんだが。まあやるけど。
パペットの足を払い転んだところで背中の辺りをストンピングしていく。「えっ、マジで?」って感じでこっちを向くんじゃねえよ。やりにくいだろ!
「修復して自ら壊すとは人でなしだな」
「お前が連続使用は出来ないって先に教えてくれればやる必要は無かったんだがな」
結果から言うと二回目の〈人形修復〉は出来なかった。再び〈人形修復〉を選択したら選べるリストにパペットがグレーで表示され、その横でタイマーがカウントダウンしていた。再使用には1時間かかるようだ。
それから色々と〈人形修復〉について試してみた結果わかったのは再使用の制限はその人形ごとであること、そして〈人形修復〉にかかるDPは普通に呼び出した場合の10分の1と思われることだった。ちなみにこの検証のために新たなパペット1体と100DPで呼び出すことの出来るお化けかかし1体が犠牲になった。
ちなみにお化けかかしはピョンピョン跳ねながら近づいてきて、土に刺さっていたとがった先端で攻撃してくるのでパペットよりははるかに強い。だけど攻撃パターンが少ないから普通に見切られそうだ。油断していたら倒せるかもなと言う程度でしかない。
「うーん」
「いっそのこと別のモンスターにしたらどうだ? ゴブリンやコボルトの方が総合的には強いと思うぞ」
「確かにそうかもしれない。けどな……」
一緒に検証してきたのだからセナの判断は的確だ。安いDPで呼び出せる人形系のモンスターは耐久力に関してはそれなりにあるが非生物のせいか動きがかなりぎこちなかったり微妙だったりする。
それに比べてゴブリンやコボルトは生き物だ。少なくとも動きが鈍すぎて何も出来ないまま倒されるという事は無いんじゃないかと思う。どの程度かはわからないが考える頭もあるわけだし。
頭ではセナの判断が正しいことはわかっている。【人形師】だからと言って人形系のモンスターにこだわる必要はない。でも本当にそれで良いのかと俺の心の中の何かが叫んでいるのだ。そんな選択をしたら後悔するぞと。
「あー、どうすっかな」
ガリガリと頭を掻きながら真っ白な天井を見つめる。ダンジョン作成は前途多難だな。
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