第48話 メリットとデメリット
翌日からの動きを俺たちは注視していた訳なんだが、新しい奴らが1階のチュートリアルをするのではなく、同じ奴らが2階層や3階層へ進むようだ。まあそれは別に良い。入るポイントが少なくなったとしてもパペットを倒された程度なら収支的には黒字だからな。さすがにサンドゴーレムをダンジョンに入ったばっかの素人が倒せるはずねえし。
そんな訳で100人の初心者ダンジョン攻略方法を眺めていた訳なんだが何というか見事にばらばらだ。グループを作って探索する者たちもいれば単独で行動する者もいる。2階層の罠をじっくりと観察するグループがあるかと思えば、いきなり3階層へと進んであっさりと罠に引っかかって死んだ奴らもいた。まあ1階層でぶらぶらしながらパペット1体と戦い続けている奴もいるんだけどな。
まあ警察や自衛官のように仕事で決められた目標に向かって動いている訳じゃなさそうだし、こんな風になるのはある意味で当然だったのかもしれねえけど。
あんま無駄口を叩かなかった自衛官や警官と違ってコミュニケーションを取るためか会話が多く、しかも場所柄のせいかダンジョン関連の話が多かったおかげで他のダンジョン、とは言っても国内のダンジョンは封鎖されていてあんま情報は無くって主に外国のダンジョンについてのことは結構知ることが出来たのは良かった点だろう。
「しかしレベル2、レベル3か。ダンジョンマスター第二世代、第三世代って感じか?」
「一概にはそうとも言い切れん。階層で判断しているのだから1人のマスターがうまくDPを稼いでいる可能性もある」
「確かにな。しかしもう10階層までいってるダンジョンがあるとは思わなかったな」
「透も増やそうと思えば出来るではないか。DPだけで考えれば余裕だろう」
「まあな。でも意味ねえし」
確かにセナの言う通り階層を増やすだけならかなりの階層まで作ることは出来る。とは言え初心者ダンジョンとしては各階層ごとに何らかのチュートリアルっぽいものを配置しないと意味がねえんだよな。むしろチュートリアルじゃねえ階層なんて作った日にはこのダンジョンに疑いの目が向けられかねないからな。
それはそうとして、重要なのは外で言われているレベル2ダンジョン、レベル3ダンジョンと言うダンジョンのランク付けのことだ。ちなみに4階層から6階層のダンジョンがレベル2で、7階層から9階層のダンジョンがレベル3らしい。このレベルが上がっていくごとにダンジョンの難易度が上がっていくと言うことだが、階層を増やすのには結構なDPが必要なのでそれも理解できる話だ。
3階層までしかない俺のダンジョンはレベル1ダンジョンってことだな。
まあそんなランク付けはどうでも良いんだが、気になったのはレベル2やレベル3のダンジョンでは低階層でモンスターがリポップするらしいのだ。
ダンジョンの仕様で人がいる階層にはモンスターを普通に配置出来ないのは俺も良く知っている。配置するとしたら召喚陣の罠を埋め込んだり、モンスターハウスの罠を使ったりするしかないのだ。しかしこれらの罠はかなりのDPを使う。リポップするモンスターはその階層に居るゴブリンやコボルトらしいが、そんな無駄なことをダンジョンマスターがするとは思えねえんだけどな。
まあその辺りの疑問点も含めてとりあえず情報は整理中だ。少し落ち着いて来たらセナと相談して4階層のチュートリアルの計画を立てるのも良いだろう。
まあここまでが良い点だ。
で、こっからが悪い点なんだが……
なんで食いもんのゴミとかガムをそこらに捨てるんだ!
手前、唾を吐くんじゃねえ!
待機中のパペットを倒すんじゃねえよ!
って言うか探索するなら協力しろよ。モンスターを横取りしたとかくだらないことで争ってんじゃねえ!
はぁ、はぁ、はぁ
「透、なに息を荒くしているんだ、もしや……」
「お前に興奮したとかじゃねえから」
「ちっ、わかっていても最後まで言わせるのが男の度量だろうが。相変わらず小さい奴だ。どこがとは言わないが」
「そう言う下品なセリフはやめろよな」
「ほほぅ、透は下品だと思ったわけだな。何を想像したんだ。私は器の話をしていたんだが」
ニヤニヤした顔でこちらを見るセナの視線をタブレットて遮ってスルーを決め込む。こういう時は無視するに限るってのは半年以上の付き合いで理解したからな。口では絶対にセナには勝てないってのを何度も味わった。
まあこいつも俺が本当に嫌がるラインをちゃんと守ってくれるから気楽な付き合いが出来ているし問題ない。偶に喧嘩することもあるが親しいが故ってやつだな。
セナと俺との関係はどうでも良いとして、問題はダンジョンに入っている奴らの勝手な振る舞いだ。
入ってしばらく、大体1週間くらいはましだったんだよな。でもそれを越えたあたりから慣れが出てきたのか好き勝手に振る舞う奴らが出てきたのだ。出入口にしか警官の目が無いってのもそれに拍車をかけているかもしれねえけど。
まあ、探索で歩き回っているんだから喉も乾くだろうし、腹も減るだろう。俺も飯を食べるなって言ってる訳じゃねえ。ゴミくらい持ち帰れって言ってんだ。
特にパリピっぽい男が中心になってるグループがひどい。俺のイライラの原因のほとんどはそいつらのグループのせいだしな。
おばちゃん同士で組んでるグループなんて綺麗に持ち帰った上に落ちてるゴミまで拾っていってくれるんだぞ。少しは見習え!
こいつらがダンジョンに入り始めて20日経ったが、現在ダンジョンの探索を積極的にしているのは30人いるかいないかってくらいだ。
罠やモンスターに殺されてしまって生き返ったものの心が折れてしまった奴らも少なくないが、それと同じくらいの数がその迷惑なパリピのグループとトラブルがあってそいつらと関わるのが嫌で2階層で罠のチュートリアルに精を出しているって状況だ。
警官とかがフォローしてやればもうちょっとマシな状況だったんじゃねえかなと思うんだが、とセナにそのことを聞いてみたら意味ありげに「まぁ、しばらく見ておけ。もしかしたら気づくかもしれんしな」と言って笑っていた。
自分たちの行いを顧みて反省するような奴らならこんなトラブルは起こさねえと俺は思うけどな。
こいつらがダンジョンに来るのはあと10日のはずだ。まぁそれが終わったら今回の経験を活かして今の階層の改造と新しい4階層の作成だな。何より自由に動く奴らに対応するためにはこのダンジョンは狭すぎるってのが今回よくわかったからな。
新しい人形系のモンスターも召喚したいし、結構考えることが多そうだ。今夜にでもセナと話し合いでもしてみるかな。
そんなことを考えつつ何気なく壁のモニターを眺める。おっ、どうやらパリピのグループがサンドゴーレ厶先輩にちょうどやられたようだ。
タブレットを操作して復活させると1階層の最初の部屋に6人全員が戻った。
「チッ」
「ヨシッチ、どうすんの? あれに勝つの無理じゃね?」
「微レ存?」
「とりあえず人形狩って憂さ晴らしすっか?」
「り」
機嫌悪そうにしながらも6人がダンジョンの奥へと向かって歩いていく。こういう殺されたのに全くめげないところはある意味すごいと思うけどな。
そしてフェイクコアを通り過ぎたあたりでヨシッチと呼ばれているパリピのリーダーの男が足を止めた。その視線の先にはセナの姿をした真似キンとそれを眺める小太りの男がいた。
お読みいただきありがとうございます。
しぶとく生き残っていますが他の作品が面白い。悔しい、でも(以下略)まあコツコツ頑張ります。