第44話 ダンジョンの回収機能
やっと足の痺れが治り、座り直してタブレットの画面を眺める。当然のごとくセナも俺のあぐらの上に座ってやがるがまあ良い。今はそれよりもこっちのほうが気になるしな。
「箱だな」
「うむ」
最初の部屋に建てられていたのは、デザイン? なにそれ美味しいの? とでも言わんばかりの四角形の建物だった。壁面は紺色でその角は金属の柱で補強されており、大きめの窓もあるので採光には問題はないだろう。
うーん、もしこの形で壁面の色が白だったら立派な豆腐建築だったのにな。
最初の部屋のおよそ半分の面積を占領して作られているのでそれなりの大きさだし、途中まで見ていた限りはいくつかの部屋が作られていたのでたぶんファミリータイプのちょっと大きめのアパートみたいな感じとでも思っておけばいいか。
今はその建物の中に次々と机やら椅子やら、棚といった事務備品みたいなもんが運び込まれていっている。中からそれらを設置するような音が響いているが直接見ることが出来ねえから窓越しに覗いた感じからの予想ではあるがまず間違いないだろう。
ダンジョン内ならどこでも見ることが出来るタブレットではあるが制限がないわけじゃない。タブレットの視点となるのはダンジョンの壁とか床、もしくは召喚したモンスターだけなのだ。つまりこういう密封された建物が作られちまうと内部を見ることは出来ないってわけだ。
「透のせいで内部の詳細がわからなかったな」
「いや、お前にも責任があるだろ」
ポリポリとせんべいを食べつつ聞き捨てならないことを言いやがったセナに突っ込んでおく。とは言え俺にも責任があったことは否定できないからそれで流すが。
ちなみに今セナが食べているのは揚げせんべいだ。地方によって呼び方が変わるらしいがぼこぼこした表面に甘味の強いタレが効いたサクサク食感のせんべいである。最近のセナのお気に入りの一品だ。まあせんべい関係全部お気に入りっちゃあお気に入りなんだけどな。
運び込まれていく品物のラインナップを見ていると布団やベッドなんかはねえから住むってわけじゃあなさそうだ。まあさすがに危険かもしれないダンジョンで寝るやつなんてそうそういねえか。
「事務所って感じか? でもなんでわざわざダンジョンの中なんかに作るんだろうな?」
「わからん。ひょっとして実験なのではないか? ダンジョン内では物が消えるらしいからな」
ちらっと部屋の奥にある扉の1つに視線をやりながら口の端を上げるセナに苦笑を返す。その視線が意味するものが何か知っているからな。
セナが言うダンジョン内で物が消えるってのは正確な表現じゃない。正確に言えばダンジョン内にあるものを回収できるというコアの機能のことだ。ただこの機能には制限があって通常のダンジョンの改造と同じように人がいない階層でしか使用することが出来ないのだ。
この機能がどこでも使用できるって言うなら楽だったんだけどな。モンスターと戦うために荷物を置いたところでそれを回収しちまうなんてことも出来るんだし。そうなってしまえば荷物を背負ったまま戦う必要が出てくるからもっと対応が楽だったはずだ。
で、まあそんな訳で使う機会のなかったこの機能なんだが俺は過去に1度だけ使用したことがある。
だいたい2か月くらい前のことだ。サンドゴーレム先輩が倒せることがわかり、そしてさらにそこの宝箱から得られるアイテムがなかなかに有用だと判断したんだろう。自衛隊の奴らがとんでもないものを持ってきやがったんだ。
奴らが持ってきたのは5メートル四方ほどの簡易に組立が出来る水槽と持ち運びの出来るポンプだった。何往復もしてその水槽に水を貯めた奴らはポンプに接続したホースからものすごい勢いでサンドゴーレム先輩に水をかけ、あっさりと撃退しやがったんだ。幾人もの猛者を屠ってきたサンドゴーレム先輩が何もできなかったからな。
あの光景にはさすがに俺も唖然とした。セナなんかはその工夫に感心したようだったが、あまりにも卑怯すぎんだろ。
という訳で翌日に同じように倒そうとしてきたところを、わざわざこのために追加召喚して天井に張り付かせておいたサンドゴーレム先輩2号が侵入と同時に落下して圧殺し、残った水槽とポンプを回収したのだ。
そういえばポンプとかを回収に来た奴らが残骸すらないことに驚いていたな。それ以降はポンプを使おうとしなくなったからすっかり忘れてたが。
ちなみにその回収したポンプなんかは俺には使い道もないので奥の部屋の肥やしになっているだけだ。
確かにセナの推測もありえるかもしれない。でもそれにしたって回収されるかどうかを確かめるだけならこんな建物を作る必要はないはずだ。きっと何らかの理由があるんだと思うが。
「まあ様子を見るしかねえか」
「そうだな。状況は動いたのだ。その変化に対応できるように心構えしておけば良い。食べるか?」
「おう、もらうわ」
セナに差し出された揚げせんべいを口に含みつつだんだん整っていく室内の様子を窓の外から眺める。状況次第では内部を偵察する必要が出てくるかも知れないからな。そんなのに特化した人形系のモンスターなんていたか?
そんなことを考えながら俺はセナと2人でその作業が終わるまでタブレットを見続けていた。
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