第43話 ダンジョンで建設
1階層のダンジョンへ入ってすぐの部屋。当初は入って来る奴にダンジョンの説明をしたりするために用意した部屋だったが、もはや完全に無視されるので意味が無くなってしまった部屋なんだがそこに変化が起こっていた。具体的に言うと建築資材が次々と運び込まれている。
3階層を攻略しているグループを除けばその資材を運んでいる奴ら以外ダンジョンに入って来ないのでおそらくこちらを優先しているってことだろうな。
ダンジョン攻略組が1組しかいないのでそちらを画面の端に映しつつ、その作業を眺め続ける。
資材の搬入が終わったらしく、30人の男女が綺麗な二列横隊に並ぶと1人の40後半くらいの男がその前に立った。中年太りとは縁がなさそうなシュッとした体型で背筋のピンと伸びたいかにも軍人って感じの奴だ。ただ過度な期待はやめておこう。加藤の例があるしな。
その男へと30人が息のそろった敬礼を向ける。それに応えるかのように男が敬礼し左右へ顔を向けてからその手を下ろすと、それに合わせて一斉に30人も腕を下ろし、気をつけの姿勢に戻った。
おおっ、軍隊っぽい!
「作業を開始しろ」
「「「了解!」」」
開始の合図だけ簡潔に言い放った男へ向けて再び敬礼があり、それが終わるとすぐに30人がそれぞれ動いていく。男は少し離れたところから作業を見守っているな。
って言うか作業が半端なく早いな。資材を組み合わせて部品を作る奴とそれをくみ上げていく奴に分かれているんだが、見る見るうちに形が出来上がっていく。かなり手馴れている様子だ。セナはそんな奴らの様子を見ながら満足そうにうんうんと首を縦に振っていた。
「優秀な工兵だな」
「工兵?」
「うむ。兵士の中でも土木建築など支援に特化した部隊の兵士たちだ」
「ふーん」
「透、お前は工兵の重要性をわかっていないだろう! 優秀な工兵がいるかいないかで前線の兵士たちの生存率が違ってくるのだぞ!」
「おっ、おう……」
俺の反応がいまいちだったことでセナの傭兵スイッチが久々に入ってしまったらしく工兵について、そしてその重要性についてしっかりみっちりと解説を聞くことになっちまった。しかも正座だ。あぐらでは許されない雰囲気だった。
いや、確かにセナの説明を聞いた限りだと工兵って奴はめちゃくちゃ重要ってことはわかった。なんていうか戦争って言うと銃とかロケランとか戦車とかで打ち合うイメージが強かったんだが、確かに味方が優位に戦えるように戦場を造ったり、兵站を整備する仕事はめちゃくちゃ重要だろう。
いわば縁の下の力持ち的な感じか。何というかセナの話を聞く限り便利屋みたいな感じも受けるんだが、それを言ったらまた説教が長くなりそうなのでやめておこう。
「というように地形の把握、地図化、天候観察などその仕事は多岐にわたり……」
「あの、セナ?」
「んっ、なんだ?」
「とりあえず工兵の重要性は十分わかったし、建築もそろそろ終わりそうだからちゃんと見ようぜ」
「……仕方ないな」
ふぅ、何とかセナの説得に成功したな。不承不承ってのがありありとわかる渋い顔だがまあ終わればなんでもいいや。
最近導入した壁掛けの大きなタブレットには既に立派な箱型の部屋が作られている様子が映っている。大きさ的には最初の部屋の大体半分くらいを占拠している感じだな。セナに説教されていたのは2時間弱のはずなのでその間にこれだけのもんを作り上げるってのはすごい技術だ。
細かい点は後で確認するとしてとりあえず正座をやめてあぐらに戻そう。正座するなんて久々だったからちょっと痺れが……
「っ!」
正座を崩してあぐらにした瞬間、止まっていた血が一気に流れ始めたせいか足がとんでもなく痺れ始めた。はっきり言って声に出せないほどだ。ゆっくりと息を吐き体を動かさないように固定する。大丈夫だ。体さえ動かさなければ我慢できる。
体中から汗が噴き出すのを感じつつ痺れが収まるのを待っている俺の耳にテクテクと言う小さな足音が聞こえてきた。顔を上げるとセナがいつも通りタブレットを見るため、俺のあぐらの上に座ろうと背中を向けたところだった。
「ちょ、待て」
「んっ?」
セナが振り返りつつその腰を俺のあぐらの上に下ろしていく。死ぬ間際って全てがスローモーションに見えるって言うが、なんで俺は今そんなもんを体験してるんだろうな。振り返るセナの髪がさらさらと流れる様子まではっきり見えるんだぜ。
そしてゆっくりと、本当にゆっくりとセナの腰が俺のあぐらの上に乗った。
「ギャー!」
見えたからって意味ねえんだけどな!
「精進が足らんな」
「いや、正座で痺れるとかって精進と関係あんのかよ」
「知らん。少なくとも私は痺れたことなどないぞ」
「いや、お前はそうだろうけどよ」
そもそも人形に痺れるって言う感覚があるのか? あおむけに寝そべって痺れが収まるのを待っている俺をセナが呆れたように見下ろしている。痺れは多少はましになったがまだまだ動けるほどじゃねえな。
「ほれほれ」
「くっ、やめろ」
俺の足をつんつんと触るセナの動きに、ものすごくもどかしいと言うか、じれったい何とも言えない感覚が俺を襲ってくる。俺が抵抗するのが面白いのか、隙を見てはちょっかいをかけて遊ぼうとしてきやがる。
くそ、後で覚えてやがれよ。
お読みいただきありがとうございます。
ついにジャンル別日刊2位です。ちょっと自分でも信じられませんがこれからもコツコツ頑張ります。