第42話 情報の大切さ
今のところサンドゴーレム先輩を安定して倒すことが出来ているのは桃山たちのグループのみだ。他のグループは良くて3割ってところだな。それに1人の死者も出すことなく倒せることはまずないので3階層の試練としての役割はまだまだ十分にある。
サンドゴーレム先輩のドロップであるサンドゴーレムの白砂についてはまだドロップだとは考えられてねえし、しばらくはこのままで良いだろう。
しかし気になる点がないって訳じゃねえんだけどな。
視線の先で3階層を探索しているグループを眺める。そいつらの足どりは他のグループに比べ格段に早い。と言うのも……
「敵3、部屋の入口左」
「「「了解」」」
1人の男の警告に仲間たちが応答し、そして通路から部屋へと入ると不意打ちをしようとして隠れていたパペットたちを難なく倒してしまう。通路からでは絶対に見えなかったはずなんだが。やはりこれは……
「『気配察知』のスキルだな」
「だよなぁ」
同じ画面を見ていたらしいセナの呟きに同意する。さすがに人並み外れた感覚を持っていたとしても隠れているパペットを普通に見つけることなんて無理だからな。だってパペットたちは身動きしねえし、それどころか呼吸さえしねえんだから。遠くから気配を察知するなんて不可能に近い。
それをこいつはさも当たり前のように見つけてやがったし、スクロールでスキルを習得したに違いない。
タブレットを操作し、男の顔をアップにしてスクリーンショットを撮ってその画像に気配察知と名前をつけて保存しておく。これで30人目か。
「やっぱ数が合わねえな」
「うむ。それに私たちは『気配察知』なんていう有用なスキルのスクロールなんて出してないからな。300せんべいだし」
「お前、そのせんべい換算やめろよ。なんか一気に安く感じるだろ」
「なんだと! 物の貴重さを表す単位としては随一だろうが」
「……まぁいいや」
至極真剣な顔でそんなことを言ってくるので突っ込みにくい。まあ冗談だとは思うんだがな。だがセナのせんべいへの入れ込みようを考えると冗談ではない可能性も捨てきれねえんだよな。
ま、それはそれとして問題は俺たちが出していないスクロールのスキルを保持している奴がいるってことだ。
サンドゴーレム先輩のクリア報酬の宝箱からはたまにスクロールを出しているが、ちょっとした焚き火代わりになるファイヤとか扇風機の代わりになるブリーズとかの500DPで買うことのできる生活魔法のスクロールしか出してねえし。
ちなみに一番人気の生活魔法はウォーターだ。サンドゴーレム先輩対策にもなるし、何よりいざという時に水を出せるからな。思わぬ事態で持ってきた水を失っても安心ってわけだ。
まあそんなことはどうでもいいんだけどよ。
「やっぱ他のダンジョンか」
「そうだろうな」
「でもこんな高価なスクロールを出すほど余裕が有るダンジョンなんてあるのか?」
「我々には第2世代以降の知識がないから何とも言えんな」
「だよなぁ」
一応この話題については何度もセナと話して色々と予想はしている。だがそれは全て憶測にすぎない。刷り込まれたダンジョンの知識の中に2世代目以降の情報なんてなかったからな。
この半年間、ダンジョンで過ごしてきて俺たちに決定的に不足しているものははっきりとわかっている。それは情報だ。
基本的に俺やセナがダンジョンの外へ出るというのは不可能だ。ダンジョンに入る奴は管理されているだろうから俺がのこのこ出ていけば捕まるだろうし、セナにいたってはモンスター扱いだから攻撃されるはずだ。そんな危険を冒せるはずがねえ。
とは言え、手に入れたい情報が入ってこないという状況はまずい。俺たち以外のダンジョンの状況に合わせてこの初心者ダンジョンは改造していきたいし、他のダンジョンで思わぬことが起こっている可能性もあるしな。
っていうかダンジョンの中でスマホとかが使えればよかったんだけどな。サンドゴーレム先輩に倒された奴が落としたスマホを回収してみたんだが使おうとしても圏外で全く使えなかったのだ。せっかく何日もかけてロックを解除したのによ。
サンに頼んでいろんな場所に行ってもらったがことごとく圏外だったのでダンジョン内では電波は通じないんだろうな。よく考えてみたらダンジョン探索中に外と連絡をとっている奴はいなかったし、そこで気づけって話なのかもしれんが。
ちなみにこの検証が終わったところで件のスマホについては入り口付近に置いておいた。幼稚園くらいの子供と一緒に映った家族写真とかがめっちゃ入ってたからな。思い出は大切にしねえと。
まあ記憶がない俺が言うのもなんだけどな。
それは置いておいて問題は情報だ。今のところ情報の入手方法はこのダンジョンに入ってきた奴らの会話から拾うくらいしか出来てない。望む情報が手に入れられる幸運を待つしかねえってことだ。やっぱこれじゃあダメだよな。
「操り人形を使うしかねえってことか?」
「しかし操られていたという記憶は残るんだぞ。それにあいつらは集団で行動する。全員を操るのか?」
「そうなんだよなー」
セナの的確な指摘にがりがりと頭をかく。
4,000DPで召喚できる操り人形と言うモンスターは確かにその糸をつけた者を操ることが出来る特殊な力を持っている。しかし操られていた間も本人の意識はあるのだ。
せめてその操られている間の記憶がないとかだったら情報を聞き出して解放するってことも出来たんだが、現状では操ったが最後、ずっと監禁し続けるか殺すしかなくなっちまう。解放すれば情報を抜こうとする存在、初心者ダンジョンにはいないと思われているダンジョンマスターがいるってことの証明になっちまうからな。
「ままならねえな」
「まぁ、仕方あるまい。今はじっと我慢の時ということだ。状況は動く。良くも悪くもな」
「そうだな。でもお前もちょっとは我慢しろよ」
もっともらしいセリフを言いながら新たなせんべいを取り出したセナへとツッコミを入れる。しかしセナはニヤっと笑いながら袋を開け、そして俺の口へとせんべいを放り込んで無言のうちに、その要望は聞けないと返事をした。
ボリボリとせんべいを食べながら、まあ仕方ねえかと決断を後回しにしたんだが、セナの言葉が予言だったかのように数日もしないうちに俺たちのダンジョンには変化が訪れることになった。
お読みいただきありがとうございます。
ついにジャンル別日刊3位になれました。ありがとうございます。