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攻略できない初心者ダンジョン  作者: ジルコ
第二章 ダンジョンの開放
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第40話 変わるもの、変わらぬ2人

 初心者(チュートリアル)ダンジョン3階層、その最奥のボスであるサンドゴーレムがその巨体に物を言わせて目の前の女を押しつぶすようにして腕を振り下ろす。かなりの速度で振るわれたその攻撃だったが、それは完全に見切られており体をずらすだけで軽く回避されてしまっていた。続けてサンドゴーレムが腕を振るっていくが、そのことごとくが当たらない。


「うーん、やっぱりこんなもんですかー。これならレアの方がマシかもしれませんねー」


 攻撃を回避しながらつまらなそうにサンドゴーレムを見ているこの女の名は桃山だ。警視庁のダンジョン対策部に所属する女の警察官だ。まあ言わずと知れた武闘派警官だな。


 ちなみにこのボス部屋に今居るのは桃山だけだ。こいつはたまにサンドゴーレム相手に単独で戦いを挑んでくるのだ。個人戦の戦績としては0勝0敗97引き分けだ。まあ桃山単体ではサンドゴーレムに有効な攻撃ができないから引き分けになっているだけなんだけどな。内容で言ったら完敗だし。


 コイツのはある意味で日課のようなもんだしとりあえず別のところでも見るか。俺のあぐらの上にちょこん座っている迷彩服を着たサイドテールの2等身美少女人形のセナへと声をかける。


「セナ、何か面白いところあるか?」

「ふむ、面白いか……間抜け面で人形を襲おうとしている奴がいるくらいだな」

「うわっ、そんな奴がいんのか?」


 40インチテレビくらいの大きさの壁に掛かった新しいタブレットの画面にはダンジョン内の様子がいくつかに分割されて映されている。桃山が映っていた画面から視線を外し、セナの目線を追うがそんな奴はどこにも映っていなかった。


「どこだ?」

「ほら、これを見ろ。目の前にいるだろう」


 セナがどこからともなく出した手鏡を俺の目の前に差し出す。そこに映ったのは20代くらいでぼさぼさの黒髪と眠そうな目をしたどこにでもいそうな平凡な顔の男、つまり俺の顔だった。


「キャー、オソワレルー」

「そんな棒読みで悲鳴あげんじゃねえよ! って言うか誰が間抜け面だ!」

「透のことだぞ。顔だけじゃなく頭まで悪くなったのか。可哀想に」

「本気で哀れんでんじゃねえよ!」


 冗談で言っていることがわかっているから怒りはしねえけどさすがにイラっと来たので、手鏡を持っているため留守になっていたセナのせんべいの袋からひょいっと1枚取り出しそのまま自分の口へと放り込む。


「あー!!」

「ぬれせんべいか。これはなかなか」


 口の中に広がるちょっと塩辛い醤油の味とやわらかもちもちの食感がマッチしていてめちゃくちゃ美味い。しっとりとしたせんべいと聞くと湿気ったせんべいが頭に思い浮かんじまうがこれは全く違う。このタレの味もこの特徴的な食感を最大限に生かすためのものなんだろう。

 いかんな。最近セナに毒されてきてせんべいの論評家みたいになってきちまった。まあ毎日のように聞いているから仕方ねえ気もするけどな。


 もちゃもちゃと口を動かしながらぬれせんべいを味わっていたんだが、叫び声をあげてからセナが一言も発していないことに気づく。たらりと背中に汗が伝い、それと同時に悪寒が全身を駆け巡り始めた。


「あの、セナさん?」

「……」


 ためらいがちにセナへと声をかけてみたが返事はない。そのことにさらに不安感を増しながら、少し覗き込むようにしてセナを見て俺は気づいてしまった。自身の失策を。取り返しのつかない過ちを犯したことを。

 そう。セナの手にあったぬれせんべいの袋が空になっていることに気づいてしまったのだ。

 それに気づいた瞬間、俺の体は脊髄反射のごとく動き始めていた。


「死ね」

「やばっ!」


 セナが物騒なセリフを吐きながらナイフを抜くのと、俺がセナの下から抜け出すのはほぼ同時だった。そしてドスッと重みのある音がコアルームに響く。先程まで俺が座っていた場所にはセナのナイフが突き刺さっていた。


「ちっ、外したか」

「外したか、じゃねえよ。一瞬でも遅れてたら刺さってただろうが!」

「最後のぬれせんべいを盗むとは万死に値する。良かったな、1万回死ねるぞ」

「良くねえし! っていうか俺の命ってぬれせんべいの1万分の1なのかよ」


 ナイフを床から引き抜き、構えるセナから全力で逃げ回る。ダンジョンを警視庁前に出現させてから半年が経過したが俺たちはそれなりに楽しくダンジョンで過ごしていたのだった。


 半年を経過した俺たちのダンジョンだが3階層を造って以降は大きな変化はなく、マイナーチェンジを繰り返していた。一応4階層を増やそうかとも考えたんだが現状では必要ないだろうってのがセナと俺の結論だ。


 現状の収支は安定している。警官や自衛官たちが毎日入ってくるから最初の頃ほど1人あたりのDPは多くないが着実に貯まっていっているしな。まあ普通のダンジョンであれば支出の大部分を占めるであろうモンスターの召喚を<人形修復>で代用できているのが大きい。

 まあ思わぬ落とし穴もあったわけだが。


 <人形修復>に関して俺はモンスターの召喚にかかるDPの10分の1で倒されてしまった人形を復活させることの出来る、めちゃくちゃ便利なスキルだと考えていた。まあ実際10DPで召喚できるパペットや100DPで召喚できるお化けかかしに関してはその通りだった。しかしそれが正解ではないことに気づいたのは3か月ほど前のことだ。

 その3か月前に何があったかっていうと……

お読みいただきありがとうございます。

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昔に書いた異世界現地主人公ものを見直して投稿したものです。最強になるかもしれませんが、それっぽくない主人公の物語になる予定です。

「レベルダウンの罠から始まるアラサー男の万能生活」
https://ncode.syosetu.com/n8797gv/

別のダンマスのお話です。こちらの主人公は豆腐。

「やわらかダンジョン始めました 〜豆腐メンタルは魔法の言葉〜」
https://ncode.syosetu.com/n7314fa/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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