第4話 ダンジョン作成開始
いやー、やっちまった感は半端ないがもうここまで来たら開き直るしかない。絶望しても何にも始まらないからな。ダンジョンの目の前は警視庁、クラスは自分だけじゃ何もできない【人形師】。状況は最悪だが生き残る可能性が無いわけじゃないはずだ。
「よし、じゃあダンジョンを作るか」
「そうだな。これからは数の限られた選択肢もないし、やり直しも出来るからな。のろまなドン亀でも問題ないだろう」
「ナチュラルにディスって来るよな、お前」
口笛を吹きながら明後日の方向を向いているセナをジト目で見つめる。まぁ、セナの言う通りなんだけどな。タブレットをタッチしてダンジョンの作成に入る。
この空間はいわゆる仮想空間のようなものでいくらでもダンジョンを作り変えることが出来るのだ。とは言え最初に支給されるDPの10,000ポイント以内ならと言う制限がつくが。
基本的にはタブレットに表示される項目を選択してDPと交換してダンジョンを造ったり、罠を設置したり、モンスターを召喚するわけなんだが与えられた7日間と言う時間の許す限り何度でもやり直し可能なのだ。実際に作ったダンジョンを歩き回ることも出来る。
ダンジョン作成で選べる項目はそれこそかなりの数があるし、その配置なんて考えればどれだけ時間があっても足りないだろう。ダンジョン作成が終わればその時点で地上へと現れるらしいが、これは悩み過ぎて中途半端な状態で地上に現れちまうような馬鹿なやつもいるんじゃねえか?
「で、選択肢なんだが……普通これなんだよな」
「……まあそうだな。それが無難だろう」
タブレットの一番上に表示された(初期ボーナスセット)と言う10,000ポイントちょっきりの項目を指しながら聞くと、セナもこくりと首を縦に振った。セナの若干の空白が気にはなったがポイントから言ってもこれを選べって言っているようなものだしな。
詳細を見てみると確かに一通りのダンジョン作成に必要なセットが入っているようだ。作成できる階層は3階層で部屋の数は30。落とし穴や踏むと飛んでくる矢などの基本的な罠ひと通りに、ゴブリンやコボルトなどの弱いモンスターが100体、それよりも強いボスモンスター1体がついてくるようだ。
まぁボスモンスターは完全ランダムらしいが何となく俺の運はそこまで良くなさそうな気がするから期待するだけ無駄だろう。良い奴が出るまでリセマラするってのも手なんだがな際限がなくなりそうだし。
しかし……
「1か月分の水と食料って何だ?」
「あぁ、それか。この空間では食事も睡眠も不要だが地上に現れればどちらも必要だからな。そのためだろう」
「ちっ、さっき眠れなかったのはそのせいかよ」
毒づきながらその内容について詳しく聞いてみるとどうやらブロック状の携帯食料のようなもので栄養はあるが味はお察しとのことだった。うん、1か月もそんなもん食べたら確実に飽きるな。まあ俺の場合その前に攻略されそうだが。
はぁ、とため息を吐いているとセナもわかる、わかるとしたり顔でうなずいていた。
「私としてはMREでないのが残念だがな」
「なんだそれ?」
「軍用の携帯食料のことだ」
「あぁ、なんかレーションとか言うやつだっけ」
記憶の端っこにそんな知識があったので聞いてみるとセナが感心した様子でそれを肯定した。
「うむ。Meals,Rejected by Everyone.つまり誰もが拒否した食べ物の略だな」
「それ、もはや食べ物じゃねえだろ!」
「そうだな。Materials Resembling Edibles.食べ物に似た何かとも言われるな」
「救いようがねえな!」
セナの発言にすかさず突っ込む。何だよ、誰もが拒否するとか食べ物に似た何かとか。言いざまがひどすぎて逆に興味が湧いちまうくらいだ。しかしそんなもんを食べ続けるなんて拷問みたいなもんだな。心底違って良かったと思う。
乾いた笑いしか浮かばない俺にセナが破顔した。
「冗談だ。最近の物はまあまあな味だぞ。最近の物はな……」
最初はカラカラと笑っていやがったのに後半になるにしたがって深い闇を感じさせる笑みに変わったセナを見てそれ以上追及するのをやめることを決意した。
技術の進歩って素晴らしいよな。それで良いじゃねえか。
「こほん。まあ気を取り直してダンジョン作成しようぜ。どんなダンジョンにすれば良いと思う?」
「そうだな。ダンジョンの立地とお前の【人形師】と言う職業を考えると入ってきた奴を殺して得られたDPでダンジョンの強化をし続けるしかないだろうな」
「あー、やっぱそうなるのか」
「お前が生き残るためにはそれしかあるまい」
セナの言い分は理解できる。DPを得るためには人類に試練を与える必要があるんだがその代表格とも言えるのが人を殺すことだ。と言うかそれ以外は微々たるものしか入らないみたいだしな。数値として明確な基準はないようなのでなんとも言い難いが。
とりあえずおおよその比率としては人を殺すのが100だとしたらそれ以外は1って感じだ。言外に人を殺せって言われているようなものだな。
普通なら人を殺すなんて言われたら嫌悪感を覚えると思うんだがそんな感情は全く浮かんでこない。さっき頭に無理やりダンジョンの知識を詰め込まれた時に何かされたんだろうとは予想がつくが。
うーん、確かに生き残るにはダンジョンの強化は必須だ。弱いモンスターは特性によっては強みもあるが1対1なら一般人でも倒せる程度の強さのようだし、倒されたモンスターを補充するのにもDPが必要だ。無限に出現してくれれば楽なんだがな。
つまり俺に出来るのは得られた端からダンジョン強化に使う自転車操業くらいしかないってことだ。
しかし人を殺したらそれこそ警察が本気になりそうな気がすんだよな。下手したら自衛隊を呼ばれそうだし。そんなことになればそれこそ破滅だ。
何か良い案が浮かばないかと思いつつ交換できるリストを探していく。階層を増やすには通常はその階層の2倍に1,000をかけたポイントが必要なようだ。つまり2階層なら4,000ポイント、3階層なら6,000ポイントってな感じだな。そう考えると初期ボーナスセットはかなりお得な買い物だ。この時点で既に10,000ポイントだしな。
選べる項目は本当に多い。食料関係だけでもカンパンから満漢全席までそろっているし、じっくりこのリストを見ようとしたら1日じゃ足りないだろう。
出来ることも非常に多く、クラスの上昇にもこのDPを使用するようだし、変わったところでは殺した人間を生き返らせるなんてことも出来るようだ。まあ生き返らせることが出来るのはダンジョンで死んだ奴だけだし、そのためには殺して得たDPを全て使う必要があるみたいだが。死んだ人間が生き返るって、なんかゲームみたいだな。
モンスターに関してもファンタジー定番のゴブリンから、一反もめんみたいな日本のお化けまで種類は多い。強そうなモンスターほどDPがかかる仕様のようだ。フェニックスとか1億DPだぞ。誰が買うんだよ。
【人形師】である俺が呼び出すとすればやはり人形系のモンスターになるわけだが一番弱いパペットでも10DPかかる。とりあえず呼び出してみるか。やり直しはきくわけだし。そう思って画面をタッチするとポップアップが浮かんできた。その内容を確認し、げんなりとしながらセナへと見せる。
「なあ、これ……」
「なんだ? あぁ、これは決まりだからな。諦めろ」
「まじかよ」
今日何度目になるかわからないため息を吐きながら画面に表示された指示に従う。
「サモン、パペット1」
「ぷっ!」
「てめっ、笑ったな!」
「そんな訳がないだろう。言いがかりをつけるな」
ギャーギャーと再び俺たちが言い争いをしていると、いつの間にかパペットが俺たちの前に出現しておりじっと俺たちを見ながら立ち尽くしていた。
お読みいただきありがとうございます。