第35話 人形改造の成果
言い争いを終え、DPで出した食事をすませる。食べ始めるのはセナと一緒だが、飲み込んでいるかのような速さでセナは食事を取るからな。早食いも傭兵の必須条件と得意げだったが、別に普段は普通でも良いんじゃねえかなと密かに思っている。せんべいは味わって食べているんだけどな。
さて続きをするかなとサンを探したがその姿はどこにもなかった。一応トイレとかは別室になっているがそんな場所に行くわけはねえし。
ゴロゴロと転がりながら食後のせんべいと洒落込んでいるセナに声をかける。
「サンはどこ行った?」
「んっ。戦いに行きたいとアピールしてたから3階層へ送ったぞ。ちょうど人がいなくなったしな」
セナが指さしたタブレットを見ると3階層を楽しげに歩いているサンの姿があった。
「おいおい、まだ途中なんだぞ。それに別に強くなったわけでもねえし」
そんな愚痴を言いつつ俺も座ってその様子を観察する。サンが望んで行っちまったんだからセナに文句を言うのもお門違いだしな。
3階層を歩くサンの足取りは軽やかで鼻歌さえ聞こえてきそうなほどだ。そんな姿を見るとこちらまで嬉しくなって顔がにやけちまうな。
「嬉しそうだな」
「あぁ、喜んでもらえたようで良かったよ」
「ふっ……」
意味ありげな笑みを浮かべて視線を戻したセナの姿を少し疑問に思いながら1人で歩くサンを見続ける。基本的に3階層のパペットたちは罠と連動して動くようにセナが指示しているので自由に動くのはサンくらいだ。
サンくらいの判断力が普通のパペットたちにもあれば良かったんだがそれは無理だし、単独で戦っても弱いから罠を使わないと対抗できねえんだよな。そこまでしても何度も挑戦している桃山たちにはもう手も足も出ねえし。
さて次に3階層に来るのは……げっ、桃山たちかよ。サンには可哀相だが終わったな。
慣れた様子で罠とパペットたちを駆逐していく桃山たちの姿からは、もはやボス以外は完全に通過点でしかねえってことがありありとわかる。なるべく体力を使わねえようにしてるぐらいだからな。
しばらくして部屋と部屋との間の通路で桃山たちとサンがばったりと出会った。ごくりとつばを飲み込み推移を観察する。
「……」
「新しいモンスターですかねー。ちょっと試してみましょう」
「気をつけるんじゃぞ」
警戒するように身構えたサンへと桃山が小走りで近づき鋭く警棒を突き出す。いつもならこれであっさり当てられてバランスを崩して転んだ後、滅多打ちにされて終わるんだが、今回はそうじゃなかった。
なんと、サンが桃山の攻撃を体を横にそらして避けたのだ。
もちろん全力の攻撃じゃないのはわかりきっているが、手加減されたとしてもこんなことは初めてだ。「おぉー」と攻撃をした桃山自身も驚いているし。
サンがお返しとばかりに打ち込んだパンチは当然のごとく木の棒で弾かれたが、そのパンチにしてもいつものへろへろ具合より、いくぶんかマシになっていた。
「ちょっと強くなってるよな」
「そうだな。目が見えるようになったのだからそのせいではないか?」
「あぁー、そうかもな」
目のなかったサンが今までどんな風に見えていたのかはわからないが、目をつけた時の反応からしてはっきりと見えるようになったのは確かだ。ということはしょっちゅう転んだりしていたのはそのせいかもしれねえな。
そんなことを頭の片隅で考えつつ桃山とサンの戦いを見守っていく。徐々にギアを上げているのか鋭くなっていく桃山の攻撃をサンは必死に避けていたが、フェイントをかけた攻撃によりついに地面へと転ばされた。その後はいつも通りの滅多打ちだ。幸いと言って良いのかわからんが顔は殴られておらず綺麗なままだ。
そしてついにサンが倒され、光の粒子となって消えてしまう。その後にはいつも通りの魔石が……って何だあれ?
「おぉー、魔石以外が出たのは初めてですねー」
「というかそんな話初めて聞きましたよ。神谷班長に報告しないと」
「えー、後で良いじゃないですかー」
桃山が魔石と一緒に落ちていたオレンジの液体の入った瓶を拾い上げ、5人全員に説得されて残念そうにしながらもダンジョンから去っていった。というか俺自身も魔石以外の物が残るのは初めて見たな。レアドロップってやつか? モンスターを倒して落とす物については俺が設定しているわけじゃねえからいまいちよくわかんねえけど。
まあ考えても答えが出るわけじゃねえし、とりあえずサンを修復するか。
あぐらをかいて集中し直し<人形修復>を行う。するとそこにはいつも通りののっぺら顔のサンが姿を現した。
「っておい!」
「……」
俺のツッコミ以上にサンも混乱しているようで頭をフリフリと動かして動揺している。もしかして、もしかしてなんだが……
「ふむ。<人形改造>は倒されると元に戻るようだな」
「やっぱそうか! ってことはもしかしてさっき変な液体が出たのは<人形改造>したからってことか?」
「おそらくな。他に原因はないし偶然でもないだろうからな」
あの6時間が無駄になったってことか、と打ちひしがれていると俺の肩をぽんぽんと優しくサンが叩いた。まるで私は気にしてません、もう大丈夫ですと俺を励ますかのようなその姿に俺は確かにサンの笑顔を幻視した。そして心に火がつく。
「いいぜ。やってやる。安心しろ。お前が何度倒されたとしても俺が何度でも顔を作ってやるからな」
ふるふると首を横にサンが振っているが、あれだけ嬉しそうにしていたんだ。顔がなくなって悲しんでいないってわけじゃねえだろ。時間もDPの余裕も十分にあるんだ。やってやる。やってやるぞ!
「サン、放っておけ。透が好きでやってることだしな」
「……」
少し離れたところでセナとサンが何やら話しているようだったが今後のサンの改造計画を考え始めた俺に聞こえるはずもなかった。
改造されたサンが魔石以外のものを落とすレアモンスターとして狙われようになることを俺が知るのはそれからしばらく経ってのことだった。
お読みいただきありがとうございます。とりあえず一章が終わりました。数話の閑話を挟んでニ章になります。
300ブクマを達成し、1,000ポイントも視野に入りました。ありがとうございます。これからも頑張ります。