第33話 一段落
ダンジョンを警視庁本部前に出現させてから2週間が経った。いろんなゴタゴタはあったものの俺たちの初心者ダンジョンの経営は順調だ。
他の奴らのダンジョンが出現したこともあって、1階層では毎日マラソンが行われているし2階層の罠を大勢で見る見学ツアーも行われるようになった。3階層でもセナの鬼畜な罠とパペットたちのコラボに多大な犠牲を払いながらもボス部屋まで到着したしな。まあ多大な犠牲といっても全部生き返らせているから実質被害はゼロなんだが。
ちなみに3階層のボスはサンドゴーレム先輩だ。その名のとおり砂で出来た体長3メートルほどの巨大なゴーレムでその体の砂で向かってくる警官や自衛官をことごとく捕らえて圧殺していく頼りになる存在だ。
お値段は5,000DPと高価だがそれに見合うだけの実力を持っている。一応人形系に分類されるらしく【人形師】の効果も多少はプラスしているようだしな。
今のところ最も健闘してるのは桃山率いる警官6人のグループだ。そのメンバーの中には意外なことに加藤も入っている。
まあこいつらは毎日毎日飽きもせずに3階層へと挑戦しているし、ただでさえ強い桃山が異常な情熱をかけているので当たり前っちゃあ当たり前なのかもしれねえけど、まず俺なら心が折れる。だって生き返るとわかっていたとしてもその恐怖も苦痛も記憶に残るんだぞ。どれだけ精神的にタフなんだよ。
そんな苦行のような挑戦に加藤が参加してんのも驚きだ。こいつはこいつで最初の3階層の挑戦で自分をかばって桃山が死んだことをかなり後悔しているようだったからその罪滅ぼしのつもりかもしれねえけど。まあ生き返った桃山は残された加藤をあっさり放置して帰っていったんだけどな。俺もセナとの話し合いに夢中で残った加藤の存在自体忘れてたし。
しかし意外なことにサンドゴーレムとの戦いで一番活躍してんのはこの加藤だ。生活魔法のウォーターをサンドゴーレムに当てて、その部分をサンドゴーレムが操れなくなったところで桃山が崩すという連携が思いのほかうまくいっている。他の4人も巨大な水鉄砲でサンドゴーレムの動きを止めようとしているが最も効果的に動けているのが加藤なのだ。
この分ならサンドゴーレム先輩が倒されちまう日も遠くはないだろう。残念だが仕方ねえ。クリア出来ないなんてチュートリアルじゃねえしな。
とは言えこの戦いの絵ヅラがひどいんだよな。大の大人4人が逃げ回りながら背中のリュック型の水の入った袋から繋がった水鉄砲でぴゅーぴゅーサンドゴーレムへと水をかけていくのだ。本人たちが真剣だからこそ、なおさらシュールな光景だ。
きっとこの様子を初めて見てモンスターと戦っていると考える奴はほとんどいないんじゃねえかな。まあ見せる機会があるのかは知らんけど。
とりあえずクリアしたらそれなりの宝箱を用意してあるので今後の挑戦者たちのモチベーションのためにも頑張って欲しいもんだ。
順調な俺たちのダンジョンは良いとして、他のダンジョンについての情報も断片的にではあるが集まってきている。まあ情報源はこのダンジョンに挑戦している警官や自衛官なので確度の高い情報ではあると思うんだが、いかんせんダンジョンに挑戦中の雑談から拾うしかねえから欲しい情報を得られないなんてこともままある。
ダンジョンが世界中に現れていることや日本でも200以上のダンジョンが発見されたなんて話は聞いたが正確な数はわかんねえし、攻略状況も1つのダンジョンが自衛隊によってクリアされたらしいことはちょっと前に聞いたがそれ以降の情報は入ってこない。
入ってくる情報の大部分が愚痴とかだからな。ダンジョンがあることがわかって混乱した住人の対応で四六時中呼び出されるとか、ダンジョンに無理やり入ろうとする住人の対応が大変だったとか、混乱に乗じて空き巣とかが増えたとかそんなことばっかだ。
なんというかご苦労様としか言い様がない。でも思ったより混乱は大きくなってはいないようだ。まあモンスターが外に出てきていないってのが大きいのかもしれんが。
でもかなりの数のダンジョンがあるようだからいつかはそういったことも起こるんだろう。2代目のダンジョンマスターも生まれてくるはずだしこれからもどんどんダンジョンを取り巻く環境は変わっていくはずだ。
まあどんなことになったとしても俺たちは変わらずに初心者ダンジョンを貫くけどな。
「透、手が止まっているぞ。サンが待っている」
「……」
「おっ、すまんな」
ふう、と息を吐き気持ちを切り替える。雑念を捨てて俺のあぐらを枕にして寝ころんだ姿勢のまま待機している、最初に召喚したパペットであるサンのつるりとした顔へと手を伸ばして顔のパーツを彫り込んでいく。
俺がしているのは、つい先ほど【人形師】のレベルが10に上がったことによって出来るようになった<人形改造>だ。簡単にいえば人形のモンスターたちに手を加えられるという技術だな。習熟していけば材料を使って能力を高めたりすることも出来るようになるらしいが今の俺には到底できないだろう。というか今回が初めてだしな。
一応この<人形改造>についてもタブレットを使って簡単に行うことも出来るみたいだが、触ってみたところ決まったパターンからの選択だったのでやめた。切羽詰まった状況ならそんなことは言ってられないかもしんねえが今は違う。時間もあるしせっかく手でも出来るんだから自分でやってやりたい。手を掛けねえと何というか味気ねえしな。
体の位置をときおり動かしながら表情を、命を吹き込んでいく。
サンは頑張り屋だ。率先して侵入者たちと戦いに行くし、どれだけやられてもめげたりしない。<人形修復>してやると俺の手を握ってぶんぶん振り回して感謝を示し、ぺこぺこと頭を下げた後、スキップして転んだりと見ていて本当に飽きない奴だ。ある意味でセナよりも人形らしくないかもしれねえな。
1番最初に召喚した他のパペットとは違うユニークな奴。それがサンだ。そんなサンにふさわしい顔を想像して道具を走らせていく。それがものすごく楽しい。
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