第31話 3階層の洗礼
「加藤さん!」
頭上から降り注ぐ4体のパペットたちへの桃山の動きは流石という他なかった。すぐに違和感に気付き声を上げた桃山は、自分に向かってきた2体のうち1体を蹴りつけながらその反動を利用してもう一体を木の棒で打ち払ったのだ。どこぞのカンフー映画でも見ているかのような鮮やかな迎撃だった。
不意打ちのはずなのにここまで完璧に対応されるところを見るとやっぱりパペットじゃあ限度があるな。
逆に完全に虚を突かれた加藤は桃山の警告に反応して両手を上げて体を守るのが精一杯だった。鈍い音と加藤のうめき声が響く。とは言えパペットが落ちてきたのはそんなに高い場所でもないので威力はそこまでじゃない。威力はな。
「うわっ」
加藤がそんな悲鳴をあげながらパペットに突き飛ばされてたたらを踏んで後退する。
セナがこのパペットたちに出していた指令は単純明快だ。人が下を通り抜けようとしたら落下してそいつらを突き飛ばせ。ただそれだけだ。まあ突き飛ばす先には当然……
「おっ!」
加藤が地面を踏み抜く。もちろん加藤の火事場のくそ力なんかじゃなくてただ落とし穴にひっかかっただけだ。加藤が体をくの字に曲げながら落とし穴の中へと姿を消していこうとしていた。信じられないといった表情のまま加藤は天井を見据え、そしてすぐに諦めた顔へと変化させた。
「だめですってー」
「けぱぁ」
加藤の体が完全に落とし穴へと落ちる寸前に駆け込んできた桃山が加藤の腹へとドロップキックをかます。その反動で加藤は吹き飛び落とし穴へと落なかったが、つばを吐きながら地面を転がって悶絶している。 あれっ、なんか口から白いもやが出てるような気がすんだが、俺の気のせいか? まぁ、こいつは後でいいか。
吹き飛んだ加藤は落とし穴に落ちずに済んだが、逆にドロップキックした桃山はその場で止まってしまい落とし穴の中へと姿を消す。最初の餌食はこいつか、ちょっと予想外だが。
しかしそんな俺の予想は別の形で覆された。
「んー!!」
マジかよ。こいつ落ちる途中で無理やり足と手に持った警棒を使って止まりやがった。どんな運動神経してやがんだよ。
「ふぅ、焦りましたー。さすがに加藤さんに死なれては怒られちゃいますしねー。しかし意地の悪い罠を考えるもんですね。これまでと大違いじゃないですかー」
桃山が落とし穴の最下部に設置された3つの木の矢の罠を見ながらため息をついている。桃山の反応があとコンマ数秒でも遅れていれば餌食だったんだろうが、桃山の体はその1メートルほど上で止まっていた。
「ふむ、やはり素晴らしい兵士だ。だが甘いな」
セナは桃山を褒め称えるように拍手しながらも余裕の笑みを隠していない。そんなセナの言葉はタブレットの中の桃山には届かない。届いていれば多少は違う未来が待っていたかもしれなかったが。
もう一度、息を吐いた桃山が体へと力をいれ天井へと向きを変える。その視線に映ったのは落とし穴へ落下してくるパペットの姿だった。
「うわー、本当に意地が悪いですねー」
桃山が乾いた笑みを浮かべる。
次々と降ってくるパペットを支えきれるはずもなく落とし穴の最下部へと落下した桃山は身動きも取れないままに木の矢に串刺しにされ、そして追加で落ちてきたパペットたちに押しつぶされたのだった。
「容赦ないな」
「何を言っている。こんなのは序の口だぞ。1度知られてしまえば2度と使えんしな」
「まあ確かにな。おっ、死んだみたいだ」
ついに出血多量か圧死かはわかんねえが桃山が死んだみたいで大量のDPが入ってくる。って言うかこいつ2,200DP以上入るのかよ。最初に入ってきた警官2人分とほぼ同じじゃねえか。まあ確かにこいつの規格外さを考えれば多少は……
(【人形師】のレベルが上がりました)
(【人形師】のレベルが上がりました)
(【人形師】のレベルが上がりました)
(【人形師】のレベルが……)
「うおぉぉ」
「どうした? さすがに死体に欲情するのは私もフォローできんぞ」
「違えよ! なんでお前は俺を特殊性癖にしたがるんだ。なんか【人形師】のレベルがあがったって頭の中で声がしたんだよ!」
「なんだそんなことか。それよりもとりあえずあの女を生き返らせたらどうだ? あまり遅いと面倒なことになるぞ」
「お、おう」
あまりに淡白なその反応に半ば強制的に落ち着かさせられたが、まあセナの言うことももっともなのでちゃっちゃとタブレットを操作して桃山を生き返らせる。
1階層の入口の部屋に血まみれでくしゃくしゃになった制服のまま現れた桃山はしばらく自分の体を確かめるように動かしていたが、一通り確認が終わるとため息をついて肩を落としながら外へと出て行った。
よほど死んだのが悔しかったんだろうな。一見すると落ち込んでいるように見えたがその拳が固く握られていたのを俺は見逃さなかった。きっとすぐにリベンジに来るだろう。
よし、とりあえず桃山のことも終わったしこっちの話だ。
お読みいただきありがとうございます。




