第30話 罠の階層クリア
木の矢の罠の確認を終えた6人は続いて毒の霧(微)のある部屋へと向かって行った。
毒の霧(微)の罠は落石(小)と同じように地面が少しだけ盛り上がっておりそれを踏むと罠が発動するタイプだ。意外と効果範囲は広くて5メートル四方を包むように発生するため対策を取らずに踏んでしまえば味方にまで被害が及ぶというこれまでの罠の中では最も危険な罠と言えるかもしれない。
とは言えそれは知らなかった場合だ。チュートリアルらしくちゃんと看板に毒の霧(微)がどのような罠か記載してあるので桃山が投げた木の棒で罠は発動し、誰も被害にあうこともなく確認は終了した。
4つの罠の確認にかかった時間は40分程度か。まあ初めての階層と言うことでかなり慎重に動いていたからこんだけかかったが、慣れたら半分程度の時間で済むだろうな。
6人は階段のある最初の部屋に戻るとこれからどうするか相談し始めた。内訳としては報告に戻るというのが1人、少し休憩を挟みトレーニング用の通路へと進むというのが4人、3階層へと続く階段を降りてみるというのが1人だ。もちろん帰ると言ったのが加藤で階段を降りると言ったのが桃山だ。
多数決の結果6人は10分程度の休憩の後、トレーニング用の通路へと向かって行った。
このトレーニング用の通路だが最初に作った時とは大きく様変わりしている。最も大きいのは再利用可能な罠に全て変わっているということだな。
3階層を本当のダンジョンのように造ったので、この通路での役割が軽くなったからだ。ぶっちゃけDPも大量に入ったし、いちいち使い捨ての罠を手動で設置するのも面倒だからってのが大きな理由だが。
罠の配置にしても罠を越えた先に罠を張る二重罠程度の工夫はしてあるが、そこまで意地の悪い配置にはしていない。そもそもモンスターもいなくしたし、この状態で罠にかかるのはよっぽど……
「すとーっぷ」
「うひょ!」
木の矢の罠を回避するために紐をまたいで越そうとしていた加藤の首へと木の棒が突き出され、当たる直前でその木の棒が動きを止める。そして加藤も片足を上げたままなんとか止まった。
「加藤さん、足元に罠があるから注意してねー。怪我しちゃうからー」
「むしろ嬢ちゃんの棒で怪我しそうなんじゃが」
ゆっくりと加藤が片足を戻していく。加藤が踏み抜く直前だったのは毒の霧(微)の罠だ。木の矢の罠の紐でちょっとわかりにくくしていたんだが、気づかれてしまったようだな。
踏んでたら6人全員餌食だっただろうから桃山の判断は正しい。まあ、やり方はほかにもあったと思うが。
その後もちょいちょい危ない場面はあったものの誰かしらがフォローして、なんとか誰も罠にかからずに最後の宝箱までたどり着いた。
ちっ。
「悔しそうだな」
「いや、そもそも2階層はクリアできるように造ったからな。パペットたちもいねえし」
「言い訳、必死だな。ぷぷっ」
「くっ」
まあセナの言うとおり全く悔しくないかと言われたらそうじゃねえ。この2階層の罠を設置したのは俺だしな。罠のセンスに関しちゃあやっぱりセナの方が1枚も2枚も上手だったから3階層の罠について考えてもらっている間に2階層を俺が作り直したのだ。
クリアできる前提であったとは言え少しは引っかかるかなとも思っていたんだが、まあウダウダ言っても仕方ねえ。
6人は宝箱を開いて中の青い液体を取り出している。
「解毒薬ですかー。魔法が良かったですねー」
「まあまあ桃山さん。この薬が本当に効くならもしもの時に助かりますし」
「そうじゃそうじゃ」
同封しておいた説明文の内容にあからさまに桃山ががっかりした様子で肩を落とす。いや、クリア前提の通路の宝箱にそんな高価なもんは置かねえって。確かにDP的に買えないかといえばそうじゃねえけどな。
ちなみに毒の霧(微)を治療できる解毒薬(微)の購入に必要なDPは30だ。ポーションよりも20DP安い。どうせしばらくはこれさえも貴重だろうから餌はこのままの予定だ。安く釣れればそれに越したことはねえしな。
2階層の最初の部屋へと6人が戻ってきた。とりあえずこれで2階層は終了だ。6人の様子を見てきたがなかなか良い感じでチュートリアルっぽいんじゃねえかな。全員がダンジョン経験者なせいか入ってきたDPは200に届かねえくらいだがこっちの損失は30DPだけだしこれなら2階層はこのままで良いだろう。
さて後はこいつらが帰ってからどうなるかだよな。一応見つかったダンジョンは封鎖してあるようだし、また自衛隊の奴らが来るんだろうか。
罠の再設置には30分かかるから前みたいなスピードでやられると待ち時間が出ちまうんだけどな。まあ別に見るだけなら大人数でも問題ねえけど。
「やはりこの階は罠の訓練の階のようじゃな」
「入ってすぐに罠のチュートリアル階層って看板がありましたし今更ですけどねー」
「とりあえず報告に戻りましょう。解毒薬のこともありますし」
「そうじゃ……」
「そうですねー。神谷班長への報告はお願いします。私は解毒薬がまた出ないか確かめますから。加藤さんと」
「なんで儂が……」
「えー、前みたいに隠し宝箱があるかもしれないじゃないですかー。勘でわかるんですよね?」
「う、うむ」
おっ、加藤がいつぞやの見栄張りのせいで引くに引けなくなってるな。とは言え2階層にそんなもんはねえんだけど。
去っていく4人の警官たちを悲壮な顔で見送る姿は市場に連れられていく仔牛を思わせるな。
しかし宝箱の補充か。一応人が階層にいなくなった段階で補充するつもりだったがこのまま繰り返されたら補充できねえな。一定の条件を決めて自動で中身を補充することのできる宝箱もあるんだが高えんだよな。最低5,000DPだし、中身はもちろんこっちで用意しねえといけねえし。
しかしこの分だと採算は取れそうな感じだし導入するのも手か。とは言えどちらにせよ2階層から人がいなくならねえと取り替えることも出来ねえんだけどな。
そんなことを考えていると4人が消えていった階段へと手を振っていた桃山がニヤリと口元を歪ませるのが見えた。なんていうか計画通りとか言いそうな感じだ。きっとまたろくでもねえこと考えてやがるな。
「さて行きましょうかー」
「いや、桃山の嬢ちゃん。そっちは降りる階段じゃぞ」
「えー、私言ったじゃないですか。また解毒薬が出ないか確かめますからって。地下3階で」
「最後は聞き覚えがないぞ」
「えー、そうでしたっけー? まあ良いでしょう」
「良くない、良くないぞ!」
「じゃあ、レッツゴー!」
桃山に引きづられるようにして加藤が強制的に階段を下りていく。本気で抵抗したいんだろうけど、なまじ桃山が女だから触れることもためらっているようで加藤は結局ずるずると3階層へと連れられていってしまった。
「おっ、ついに来たか」
「そうだな。1人涙目だけどな」
嬉しそうに目を細めながらタブレットを見つめるセナには悪いが、記念すべき最初の挑戦者がこいつらかと思うとちょっと残念な気がするな。桃山に関しては遊び半分に見えるし、加藤はそもそも逃げ腰だし。
ほらっ。やっぱ、ぜってークリアしてやるって気概がある奴の方が燃えるっていうか、見ごたえもあると思うんだよな。まあ今更仕方ねえけど。
「うーん、この階はちょっと薄暗いんですねー」
「やっぱ帰らんか?」
「ライトもありますし大丈夫ですって」
階段から見える3階層の薄暗さに加藤が怖気づいたみたいだがそのまま進むことになったようだな。まあ薄暗いといっても曇天の時の昼間程度で全く見えないって訳じゃねえんだけど、今までが普通に明るかったからな。余計に暗く感じるんだろう。
2人が3階層へと足を踏み出そうとしている。こいつら階段の終わりの壁に設置してある看板を見もしなかったな。親切心で設置してやってるのに。
「加藤さん、そこ落とし穴がありますから注意してくださいねー」
「わかっておるわ」
入口すぐに設置してある落とし穴に当然のごとく気づいた2人がそこを避けて3階層へと降り立つ。あーあ、やっちまった。
「さあ、ショータイムだ」
セナが楽しげに呟く。そしてそれと同時にパペットたちが2人の頭上から落下したのだった。
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