第28話 2階層への侵入者
メガネたちは通路の奥の階段を確認すると引き返していった。2階層へ向かわなかったのは残念だが階段が新たに出来たことを知らせることは出来たので今後は動きがあるはずだ。
そういえばあのメガネって神谷って言うんだな。班長って言ってたし思ったより偉くないのか? 警察内部のことはよく知らんけど。
「しかし遂に他のダンジョンも出現したか。思ったより遅かったな」
「そうだな。まあ発見されていないがもう出現しているものもあるだろう」
「それもそうか」
確かに考えてみればもう7日の猶予期間の折り返しとなる4日目だからな。俺たちのように意図的に早く出現させた訳じゃなくても見切りをつける奴が現れるのには十分な時間か。もしかしたら発見されたが意図的に隠されていたり、その発見者自身がダンジョンに食われてしまったなんてこともあるかもしれねえが。
「とりあえずは待ちだな」
「そうだな。今のうちに眠っておけばどうだ。腐った透のような目をしているぞ」
「腐ってねえよ! 眠そうだぞ、とかでいいだろうが。まあいいや、じゃ頼んだ」
「任された」
体を揺らしながら小さく笑うセナの背中へと軽く手を上げ、そしてベッドへと入る。完全に生活リズムが狂っちまってるが、これも最初の内だけだろうしな。布団をかぶり目を閉じるといつの間にか俺は夢の中へと旅立っていた。
すりこぎだ。なぜかわからんが巨大なすりこぎが俺を追ってくる。必死で逃げているはずなのにどんどんと距離が縮まっていき、結局捕まった俺はこれまた巨大なすり鉢へと放り込まれ、最初はトントンとリズミカルに、そしてしだいにぐりぐりと激しく潰されていく。
その苦しさから必死に逃げ出そうとするが、すりこぎは巧みに動いて俺を逃がさない。それどころかますます激しく俺をひき潰そうとしてくる。そしてついにすりこぎが俺の顔面目掛けて落ちて……
「うわっ!」
「んっ、やっと起きたか」
ベッドから体を跳ね起こそうとしたが何かに引っ張られているかのように体が言うことを利かない。なんとか動く首を必死に曲げると俺の腹の上でリズミカルに体を上下させながら座っているセナの姿が見えた。その動きとともに空気が強制的に吐き出されてめっちゃ息苦しい、って……
「お前のせいか!」
「何の話だ?」
「夢だよ、夢! お前が俺の腹の上で動きまくるから、すりこぎにすり潰される夢を見たんだぞ」
「そうだったのか? 残念だったな。本当に潰されていればもうすこしマシな顔になっただろうに」
「本当に残念そうに言うんじゃねえよ!」
憐れむような目で見つめられたが、さすがにそこまでひどくはないはずだ。鏡なんて買ってねえからよくわからんが。そもそも人と会うことなんてないから身だしなみを気にしても仕方ねえしな。
あー、でもセナのことを考えると少しは気にしたほうが良いのか? DPには余裕があるし、また後で考えれば良いか。それよりも今気になるのは……
「あのな、セナ」
「ああ、2階層へと向かっている奴らが居る。今、階段を下りている最中だ」
「いや、それも気になるんだけどな。それよりなんで俺は縛られてるんだよ!」
俺の体が動かないのはセナが腹に乗っているからじゃない。こびとの国を訪れたガリバーのごとくベッドにロープで体を縛り付けられているからだ。この部屋には俺とセナしかいないから確実にこいつの仕業だ。
こめかみをピクピクさせながら睨みつけてやるが、セナはそんなことには全く怖気付くこともなく「なんだ、そんなことか」と鼻で笑った。
「縛ってもらってそのうえスカートのぞき放題だぜ、いえーい! と言っていたではないか?」
「誰がだよ! 一言も言ってねえよ!」
「無意識の発言だと!? 冗談だと思っていたのだが、さすがの私もドン引きせざるを得ないな」
「言ってねえ。あれっ、言ってねえよな。まさか寝言か? いや、そんなはずねえ。俺にそんな特殊な性癖なんて……」
セナの可哀想なものを見るような視線に考えが揺らいでいく。起きている間にそんなことを言った覚えはない。というか素面でそんなことを言う奴は正気じゃねえだろ。だが寝ている間はどうだかわからんというのが正直なところだ。記憶を失う前の俺がどんな性格だったかは思い出せねえんだから。
身動き取れないまま悩む俺の肩を優しくセナが叩く。
「強く生きろよ、ぷっ」
「てめえ、やっぱ嘘じゃねえか!」
我慢しきれなくなって吹き出したセナをどうにかとっちめようと体を暴れさせたがロープが緩むことは全くなく、俺はただ無駄に体力を消費しただけだった。
しばらくしてセナがロープを解いた頃には俺は疲れ果ててしまっていた。寝る前よりも体力的にはきついかもしれん。
「ほら、透のせいで見られなかったではないか。もう2つ目の罠も終わってしまったようだぞ」
「いや、どっちかっていうとお前のせいだろ」
突っ込みつつセナが持つタブレットへと視線を向ける。2階層へとやってきているのは6人の警官だ。ジジイこと加藤と武闘派女の桃山、あとは最初に入ってきた警官2人となんとなく見覚えのある男の警官2名だ。神谷と磯崎はいねえな。まあいつも一緒ってわけじゃねえだろうけど。
6人全員がダンジョン産の木の棒を持ちながら注意深く歩いている。まあ桃山は相変わらずどこか気の抜けたような顔をしてるけどな。
6人は右側の通路から最初の部屋へと戻ってきたところだから落とし穴(小)と落石(小)は確認したんだろう。誰も怪我した様子もねえからこのまま左にも行くんだろうな。初めてダンジョンの罠を見る時のこいつらのリアクションが確認できなかったのは少し残念だが仕方ねえ。
さて残りは2種類。木の矢と毒の霧(微)だな。さてどんな風に反応するのか楽しみにしておくか。
お読みいただきありがとうございます。
200ブクマ達成しました。こんなに早く達成できるとは思っていませんでした。
ありがとうございます。