第259話 背中を押す理由
俺の発言に、セナが何を言っているんだという顔で見返してくるが、たぶん間違っていないはずだ。いや、セナの言葉がそのままの意味ならば、っていう条件があるけどな。
「だって、DPが0になって、タブレットが使えなくなるだけだろ」
「だけ、などではないだろ。タブレットはダンジョン防衛の根幹とも言える物だぞ。それは透も重々承知しているだろう」
真剣な表情でこちらを見つめながら聞いてくるセナに、首を縦に振って答える。そりゃあ、ダンジョンの機能を全て司っているのはタブレットだからな。新階層の構築やモンスターの召喚、罠の設置、DPの交換など様々な機能が詰まっているんだ。その恩恵に与ってきた俺が理解できないはずが無い。
「いや、まあそうなんだけどよ。でもタブレットが使えないからってダンジョンの機能が停止するって訳じゃねえんだろ。DPも一旦0になるかもしれんが、その後は増えるんだよな」
「それはそうだが……まさかあらかじめモンスターなどを大量に召喚するなどして持久戦覚悟で運営するつもりか? それでは緊急時に対応できんし、もし私になにかあればその先に待つのは先細り破滅する未来だぞ」
ああ、確かにそういう考え方もあるのか。セナが出て行ったら結局DPが0になっちまうんだからその前に使っちまおうってことだな。
俺の考えとはちょっと違うが、アイディア自体は良いな。一時期は認証登録機やらなんやらで一気にDPが減っちまったが、最近は道場とかが順調なので結構回復してきているし。
いやー、DPを節約する事を考えた事はあったが、逆に散財することを考えることになるなんて思ってもみなかったな。そういや、前から考えていた……
「おい、透! 戻って来い」
「んっ、ああ。悪い」
いつの間にか近づいてきていたセナに太ももをトントンと叩かれて正気に戻る。そういや、まだセナに説明してなかったな。DPの消費プランを考えるのが楽しすぎてちょっと別方向に思考が飛んじまった。失敗したな。
こほん、と咳を1つして体裁を整えてからセナに向き直る。ジトッとした目に頬が引きつるが、我慢だ我慢。
「えっと、セナが独りで外に出ても問題ない理由なんだが、タブレット使えなくてもダンジョン経営に問題ないんじゃねえかなって思うんだ。だって俺、タブレットなんてほとんど使ってねえし」
「んっ? ああ!」
セナが少しだけ首をひねり、そして声を上げる。セナにも理解できたようだな。
そうなんだよな。俺はタブレットほとんど使ってないんだ。監視カメラみたいな感じで壁掛けのモニターを見たり、たまに人形造りの素材をDPと交換したりはするものの、タブレットを使って直接的にダンジョン防衛をしたなんてこと最近はほぼないと言っても良い。
新規に階層を追加したり、新しいチュートリアルを設置するときは、大概セナと一緒に考えながら作っていくしな。俺が個人としてタブレットを操作したなんていつごろの話かも思い出せないくらいだ。
とは言えダンジョンの防衛にはちゃんと関わっている。倒された人形たちを修復する<人形修復>、戦力増強や魅力の引きだしに欠かせない<人形改造>、新戦力の確保が出来る<人形創造>、人形たちを繋いで万が一のときも生き延びさせる<人形世界創造>など、全部俺が行っているしな。タブレットを使わずに。
「確かに透なら……いや、しかしダンジョン内の情報収集が出来なくなる。今は諜報部がモニターで監視しているから万全の体制が築けているのだ。それが無くなれば緊急事態に即座に対応が出来なくなるのだぞ」
「ああ。それについてはセナ自身が解決策を見つけているだろ」
「私が?」
よくわからないと言った様子で首を傾げる可愛らしいセナの姿に、少しだけ笑いを漏らしつつその疑問に答えていく。
「選別の腕輪だよ。あいつらって諜報部の奴らに外国語を教えてもらったら覚えたろ。それと同じ事をミニミニ人形たちにして、ダンジョン内に散らばってもらえば良いんじゃねえか?」
「ふむ、即時の対応というわけにはいかないが、なにかあれば伝令を走らせる事も可能。それで対応しようと言うわけか」
「おっ、流石だな」
腕組みをしながらセナが俺の意図を読み解いていく。相変わらず理解が早いな。まあ説明が省けて楽ではあるんだが、ちょっとは俺が鼻高々になる時間を作ってくれても良いんだぞ。
「死亡者の復活は自動設定で問題ない。たまに手を入れていた罠の配置や新たな階層が作製できないなど問題が無いわけではないが、ある程度は工夫次第でどうにかなるか。後は……そうそう。人の入ることの難しい階層を新たに造って、緊急連絡用に既存の階層の色々な場所から繋げてやらねば。これは重要だな」
「……」
なんだろう。調子に乗ってすみませんでしたって言えばいいんだろうか。いや、セナがそんな意図を持っている訳じゃなくて、ただ単に思いついたことを挙げているだけだとはわかっているんだがこうもポンポンと俺の考えていなかったことを言われるとなんと言うかそう言いたくなるよな。
セナが腕組みを解き、一度だけ大きくうなずくと俺を見上げてニヤリと笑った。
「珍しく冴えているではないか」
「お、おう。まあな」
「んっ?」
セナのお褒めの言葉にちょっと動揺しながら返すと、その反応が予想外だったのかセナが不思議そうな顔に変わった。その視線をごまかすために立ち上がり少し歩いて、肩をぐるぐる回したりして体をほぐす。
いやー、ずっと座っていたせいで体が固まっちまったんだよ。解決の目処もある程度ついたことだし、これは自然な行動だ。きっと。
視線から逃れるために部屋の中央にあるコアへ向かってゆっくりと歩きながらストレッチしていると、そんな俺にセナは声をかけてきた。
「しかし出て行ってしまって良いのか? 透の負担が多くなるのだぞ。人形造りの時間が削られるだろうし、ダンジョンにとって良い話など1つも無い。私の目的は復讐で、ごく個人的なものだ。使い魔の立場を考えれば……」
その言葉にくるりと体を振り向かせてセナを見る。いつものような自信満々の姿ではなく、どこかこちらを窺うようなそんな視線を向けてくるセナに優しく微笑む。
「違えよ。セナは俺の相棒だろ。俺は今まで散々セナにダンジョンの事を任せて好き勝手してきたからな。今度はそれが逆になるだけだ」
「しかし透の好き勝手はダンジョンのためになる範囲だっただろう?」
「かもな。でもそれは俺が人形好きで、たまたまクラスが人形師だったからそうなっただけだ。たとえ他のクラスだったとしてもきっと俺は人形を造っていたと思うぞ。全くダンジョンのためにならない人形をな。そう考えると人形師で本当に良かったよな」
別のクラスだったら、セナに頼りきりでダンジョンを運営する完全なるひものダンジョンマスターだったかもしれないんだよな。今も半ばそうなっているような気がしないわけでもないが、たぶん気のせいだ。
頭にちらつくそんな考えを振り払うように、ニカッと笑う。
「だからお前の好きにして良いんだ。これまでセナはダンジョンのためにたくさん働いたんだ。たまにはバカンスもいいもんだろ」
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あっ、先日投稿すると予告していた別の話を投稿しています。と言うかお伝えするのを忘れていました。下にリンクがありますのでよろしければ読んでみてください。




