第251話 戦い方のチュートリアル
投稿が遅れてすみませんでした。なんとか日をまたがずにすみました。
「ご覧になっていらっしゃったかもしれませんが、本日、桃山に対して皆伝の儀を執り行い無事グローシリーズの一体を送り出すことに成功しました」
「おう、桃山の相手大変だっただろ。お疲れ様」
0時になりダンジョンが閉鎖された後やって来た棒術士型機械人形のスティーが、見た目の年齢に似合わない落ち着きようでそんな報告をしてきた。
最近は他の奴らの指導が片手間になっちまうくらいずっと桃山と戦っていたからな。桃山が死に戻った間に多少は教えることが出来ていたが、あいつダッシュで戻ってくるからそこまで余裕がなかったし。
これで一区切りになるから、明日からは本来のチュートリアルに戻れるだろう。
スティーは、今回俺たちが新たに作製したチュートリアルの指導者となるべく召喚した機械人形たちの中の一人だ。
機械人形シリーズ特有の中性的な顔立ちを改造して、目を細くし、口の端を少しだけ上げてにこやかながらも内面を読ませない曲者感を出している。
棒術は道場で教える事にしたので、それに相応しく白の胴着と黒の袴に身を包んでおり、後ろで結んだ漆黒の髪と合わさってどこか若武者のような雰囲気のある人形だ。
「大変ではありましたが、楽しくもありましたよ。あれだけ心の強い者など滅多にいないでしょうから」
「心? あぁ、死んでもすぐ戻ってくるもんな、あいつ」
「いえ、それもそうなのですが」
そこで一度言葉を切り、スティーが本当に楽しげに笑みを浮かべる。いつもの笑い顔とは違う、心の底から笑っていることがわかるような笑顔だ。
「あれだけ自分と合わない武術を身につけ、自らを抑圧しながら、それでもなお上を目指し真っ直ぐに進んでいたのです。並みの精神であれば腐るか、狂うかしていたでしょう」
「そっか。武術関係は俺にはわかんねえけど、スティーが言うならそうなんだろうな」
「はい。私個人としては好ましい人物です。では報告も終わりましたので私は戻ります。鍛錬がありますので」
「ほどほどにな」
俺の言葉にニッと笑ってスティーが去っていく。うん、ほどほどにする気はさらさらなさそうだ。
人形だから疲れないってのはわかっているんだけど、やっぱ心配なんだよな。とは言えスティー自身も桃山を見て思うところがあったようだし、しばらくは好きにさせてやるとするか。無茶をしているようならその時に止めればいいしな。
さすがにチュートリアルの役目が果たせないくらいに打ち込むって事はないだろう。たぶん。
今回、俺とセナがグローシリーズたちを自然な形で外へと出していくために造ったチュートリアルはスティーと桃山の関係を見ればわかるように、武器や魔法ごとの戦い方のチュートリアルだ。まあ簡単に言っちまうと武器の取り扱いを教える道場だな。
グローシリーズを手に入れるための試練を課して、苦労してたどり着いたその先で地面に突き刺さっていた武器を抜くって言うのもロマン溢れるシチュエーションではあるんだが、アームズで同じような事をしていると言うわけで今回は原点に立ち戻ってチュートリアルらしいチュートリアルを造ってみた。
ダンジョンの攻略において武器を使うってのは普通の事だ。というか9割以上の奴が何かしら武器を持っている。主に武器を使っていない奴らも、魔法のスキルを保持していて武器を使わなくても戦う手段を持っているからって奴がほとんどだ。
そりゃ、そうだろ。武器を使わず戦うって事は素手でモンスターを相手にするってことだ。モンスターと接近する必要があるし、そうなると当然攻撃を受ける可能性も高くなる。そうでなくても自分の攻撃の当たり所が悪くて自分で怪我をするってこともあるだろうしな。
まあ例外がいない訳じゃない。その筆頭たるアスナはこの際置いておいたとしても、一般の探索者の中で一定の割合でそういう奴がいるのは確かだ。おそらく空手とかボクシングとかの経験者なんだろうな。素手の戦い方が堂に入っている奴がほとんどだし。
しかしそういった奴らもしばらくすると武器を使うようになる。チュートリアルとは言えパペットたちには全力で人間を襲うように指示しているし、なによりパペットたちの体は木で出来ていて堅い。素手で戦うと怪我をするリスクが高くなる事がわかり、徐々に数が減っていくって訳だ。それでも一部はかたくなに武器を使おうとはしねえけどな。
そんなこともあってダンジョン攻略するなら武器が必要ってのは常識みたいなもんだ。
現状、俺たちのダンジョンでは1階層のチュートリアルのクリア時に木の棒を渡しているし、2層や3層の宝箱からもスミスが程よく手抜きした武器が手に入るようになっている。他にも探索者たちの成長のためのチュートリアルとか、アームズの階層とかでも様々な種類の武器が出ている。
しかしその中でも使われる武器と使われない武器が出ているってのが現状だった。
使われる武器の代表は剣とかだな。取り回しのイメージは容易だし、剣道とかを習っている奴にとってはそれを応用すれば良い訳だから当然か。あとは槍とか棒とかも人気だ。こっちはリーチが長いのでモンスターと距離をとって戦えるのが好まれているのかもしれんが。
逆に人気の無い武器は鎖鎌とかのマイナーで取り扱いが難しい武器だ。理由はそのまんま戦いにくいから。というかそれを使って戦う事がイメージできないのかもしれんが。
正しく使うことさえ出来れば強力な力になるはずなのに使われないのはもったいない。せっかくスミスが造ってくれたんだし、倉庫に眠っているだけで本来の使い方をされずに朽ち果てていくなんてありえないしな。
結局なんでそんなことになっているのかって言えば、その戦い方を教える奴がいない事にある。探せばどこかにいるのかもしれねえけど、わざわざどこにいるかも、本当にいるかもわからねえその武器の指導者を探すよりも扱いやすい武器を使った方が効率的だしな。最悪使わない武器なんかは溶かして再利用しても良いんだしよ。
今回のチュートリアルはその辺りの問題も解決可能だ。スティーを始め機械人形シリーズはそれぞれの分野に特化した能力を持つ人形だ。剣とか槍とか武器の系統ごとに分かれるせいもあり人数は多く必要だが、それぞれの武器の扱いについては十二分に理解している。指導者としてはこの上ない人材だ。
チュートリアルとして機械人形たちに武器の扱いを教えるようにすれば、今まで見向きもされなかった武器へとスポットライトが当たるようになるかもしれない。少なくとも現状よりは良くなるだろうしな。
で、そんな風にチュートリアルで武器の扱いを習得させ、桃山のようにそれをクリアした者へ免許皆伝の証としてグローシリーズを渡すってことで本来の目的も果たせるって訳だ。
免許皆伝、いい響きだよな。イメージ的に箱の中に秘伝書と書かれた巻物が入っていて、開けてみると中には何も書かれておらず驚く弟子に、師が物知り顔で諭す。そんな風景が目に浮かぶようだ。
まあこっちはグローシリーズを渡すわけだからちょっと雰囲気は違うが、まあ参考にした流れはそんな感じだ。
とりあえず初の免許皆伝者として桃山がグローシリーズの警棒を持っていったので一安心といきたいところなんだが、問題がないって訳じゃないんだよな。
熱心に情報部の報告を受けているセナを眺めながらそんな事を考える。さて、あっちの方で進展があると良いんだがな。
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