第248話 忘れていた重要事項
遅れてしまい申し訳ありませんでした。
認証登録機と選別の腕輪たちの出現から1か月が経過した。1日に異常な数が認証登録し始めたせいできつかった時期もあったが、<人形世界創造>で人形に命が吹き込まれ、遊ぶ世界を創造することで、命の吹き込みと人形の世界との繋がりを造ると言う工程が大幅に短縮する事が出来たのでかなり楽になった。
あの頃は本当にギリギリだった。それだけをするのに手一杯で、自由に人形を造ったりする暇も無かったし。今考えると暇どころか余裕が全く無かったんだよな。
そんな訳で、ある程度日常へと戻ったのだが……
「ぐぎぎぎぎ」
「またやってるのか。飽きない奴だな」
セナに呆れられたような声をかけられながらも、自分の手へと意識を集中させてなんとか指を動かそうと努力する。まるで針金でがちがちに固められてしまっているかのような指がぷるぷると動き、ほんの僅かではあるが指先が曲がる。
しかし、集中力が続いたのはここまでだった。
「ぷはぁ。あー、やっぱ、きついな」
集中力が緩んだと同時に<人形世界創造>をして身に纏っていた世界が崩れていく。それを感じた俺は息を吐いて天井を見上げた。全身がぐっしょりと汗にまみれていて気持ち悪い。シャワーでも浴びるか。
せんべい丸の上でくつろぎながら、こちらもいつも通りにダンジョンの監視をしているセナにちょっとシャワーを浴びてくると伝え、若干のからかいを受けて応酬したりしながらコアルームから出て行く。
洗面所で服を脱ぎ捨て、熱いシャワーを頭から浴びると汗と共に疲れもある程度流れ落ちていく。とは言ってもこの疲れは嫌なもんじゃない。なにせ挑戦した結果なんだからな。
「とは言えちょっとしか成長してないけどな」
自分の考えに自分で突っ込みを入れつつ苦笑し、そしてシャワーを止める。
確かにこの方法を考え付いたおかげで選別の腕輪の不足と言う問題は解決した。そして少し落ち着いて余裕が出来たときにふと思ったのだ。この状態で人形が造れるようになったら、面白いんじゃねえかってな。
人形が生まれ、遊ぶ世界っていうなら一から造り上げることがこの世界の本来の姿だろう。そう考え付いたので、なんとか出来ないかと努力しているんだが……それが滅茶苦茶難しいんだ。たまたま寄ったフリーマーケットで運命の出会いと思えるような人形を見つけたのに、買わないで去るくらいに難しいと言えばわかりやすいな。はっきり言って不可能に近い。
でもほんの少しずつではあるんだが手ごたえはあるんだ。最初は全く動けなかったのに、今はちょっとだけ指が動くしな。成長するってわかれば後は続けるだけだ。人形造りと同じくコツコツと技術を磨いていけばいつかは出来るようになるはずだ。
まあこのペースだといつになるかわかったもんじゃねえけどな。
小さく笑いつつタオルで体を拭き、新しい服へと着替えてコアルームへと戻る。選別の腕輪たちの命の吹き込みはもう終わっているし、ミニミニ人形シリーズの作製と命の吹き込みも同じく終わっている。これからは自由時間になるんだが、今日はなにをするかな。
本格的な人形造りは、造りたいって熱が入るような人形の構想がないからやめておくとして、他にも出来る事は色々ある。ユウのお友達人形たちを増産しても良いし、探索者たちが造る人形たちを観察するのも良い。生産職たちの仕事を参考にしたり、ただダンジョンを眺めて人形たちの活躍を見るってのも楽しそうだな。
あれっ、なんか重要な事を忘れているような気が……選別の腕輪関係がバタバタしたせいでそれ以前の、以前の……
「あー!!」
「何だ!?」
俺の大声にビクッと体を震わせたセナが鋭い視線でこちらを見る。心配と言うより不機嫌そうな視線なのがちょっと気になるが、今はそれよりも大事な事がある。
「グローソードの事、すっかり忘れてた!」
「あぁ、やはりそっち方向か」
なんかセナがため息を吐いてぶつくさ言っている。良く聞こえないが、きっと俺の馬鹿さに文句を言っているんだろう。グローソードに、お前に相応しい奴に手にとってもらえるようにしてやるって期待させておいてそれを忘れるなんて、馬鹿どころじゃない。大馬鹿だからセナに言われても仕方ねえ。
とは言え思い出したからには最優先で動いてやらねえと。主人を待つ人形をいつまでも待たせ続けるなんて酷な事はさせたくねえしな。
「確か量産化するって方向性だったよな。それで宝箱から普通に出るようにする、と」
「そうだな。まあ選別の腕輪がかなり出回った現状では、量産化するメリットはあまりなくなってしまったがな。インパクトも減ってしまっただろうし」
「んっ、そうなのか? 成長する武器ってロマンだからかなりのインパクトだろうし、需要もあると思うぞ」
以前にグローソードについて話していたときは、セナのほうが量産化に積極的だった気がするんだが、あまり乗り気ではなさそうな言いようにひっかかりを覚える。選別の腕輪が出回ったとしても、グローソードの魅力が落ちたって訳じゃねえと思うんだが。
そんな風にいぶかしむ俺に、セナは手を左右に振って口の端を上げた。
「まあメリット云々はこっちの話だし、透は気にしなくても良い。しかし、ロマンか。となると逆に少数にして希少価値を高めたほうが良いかも知れんな」
「おぉ、確かにそうかもな。量産化すると相棒に相応しくない奴が手に入れちまう可能性も高くなる。そうなっちまったらグローソードが完成に至らなくなってしまって、本末転倒だしな」
やっぱ成長する武器を所有するからには、それなりの腕があってしかるべきだし、その上で自らも成長していくと言う気概がある奴が相応しい。
と言う事は宝箱案もやめだな。アームズの階層の宝箱に入れておけば、ある程度の強さがないと手に入れられないってのは確かだが、そいつが使っている武器と同じ種類かどうかはわからない。むしろ違う方が確率としては高いだろうしな。
「となるとそこの選別と、希少価値を高めるためにも物語性が欲しいよな。台座とかに刺さっている武器を引っこ抜いて手に入れるとか」
「確かにそれは物語の場面のように思えるな。幾人もの猛者たちが抜こうとしてもびくともしなかった武器が、選ばれし者の手ですらりと抜けてしまうのだ」
「そうそう、定番だよな。うーん、とするとグローソード以外の種類の武器人形たちを造って、新たに造った部屋に台座に刺さった状態で設置するか? グローソードたち自身が使い手を自分で選べるし」
「それも良いが、このダンジョンはチュートリアルなのだぞ。もう少しその辺りも絡めて考えれば……」
2人で話していると次から次へとアイディアが湧いてくる。グローソードたち武器人形たちの幸せを第一に考える俺と、将来的な展望を優先するセナの意見がぶつかる事はもちろんあった。でもそれで話が止まるなんて事はなかった。
より俺達のダンジョンらしく、そして武器人形たちの幸せのためにもなる方法。それを探して話を続け、それは夕食を挟んで深夜まで続いた。
その頃にはある程度の構想が出来上がっていた。俺たちの考えた新たなチュートリアルならきっとグローソードたちに相応しい相棒が見つかるはずだ。
「じゃあ、久々に」
「うむ」
「「チュートリアルの作製だ」」
俺とセナは拳をぶつけ、そしてニッと笑って新たなチュートリアルの作製にとりかかったのだった。
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