第244話 選別の腕輪の性能
認証登録機と選別の腕輪を用意したのは、レベルアップした者かどうかを外見から判断できるようにして世間のあいまいな不安を打ち消すってのが本来の目的だ。
ただ俺たちはダンジョンから外へ出る事は出来ないし、探索者などのレベルアップした奴らに強制的に何かを着けさせる権限もあるはずがない。そんな事が可能なのは探索者を管理している政府くらいなものだ。
だからそれを解決するためにはどうやって政府を動かすのかってことに行き着く訳だ。もしかしたらいつかは勝手に動いたのかもしれねえけど、セナの予想が当たっちまったら悠長に待っている間に面倒な状況になりそうだったからな。
なかなか良い案が2人とも思い浮かばなかった訳だが、グローソードの事を話している時に同時に思いついた。
グローソードは外見は剣に見えるが人形であり、自分で思考する事が出来る。つまりその状況に合わせた判断が可能ってことだ。
そもそも今回の問題の始まりはアスナがロシア軍の高官を殺害したという事件だ。それが事実かどうかはわかんねえが、この際それはどうでも良い。要は普通の人の中にレベルアップをした悪い人がいて、もしかしたら自分が害されるかもしれないっていう危惧が根本なんだ。
それを恐れるあまりに、大多数のレベルアップはしたものの特に害の無い奴らの印象までが悪くなってしまう。それを防ぐにはどうしたら良いか?
その解決方法は非常にシンプルだ。レベルアップした悪い奴らを判別できれば良い。だがどうやってそれをするのかが問題だった。いくら警察が取り締まりを強化したとしても限界はあるしな。
その点グローソードのように人形を何かに偽装して、レベルアップした奴らに着けさせることが出来ればそいつがその状況を見て善悪を判断できるようになる。
選別の腕輪の場合は、資格なしと判断されたら着けようとしてもダンジョンの入り口前で勝手に外れるようになっている。つまりそこで外れちまったら資格なしと一目瞭然な訳だ。
まあどうやっていつも着けさせるように仕向けるかって問題もあるんだけどな。
政府にとって選別の腕輪は基本的にメリットしかない。レベルアップをしていない自分たちが着ける訳でもないしな。探索者とかに着けるよう義務付ける時に反発があるかもしれないってくらいか。
問題は実際に着けるレベルアップした奴らだ。まあ警察とか自衛隊とかは政府の方針に従うだろうし、実質的には一般の探索者たちだな。
人形の判断基準は、あくまで自分で見て聞いた状況からするしかない。流石に人の内面を読み取るなんて出来るはずねえしな。つまり常時着用してもらわないと意味がない訳だ。
でも人として正しいかどうかを選別する腕輪です、なんて言われて悪い事をしようとする奴がそんな物を装備しようとするか? しねえだろ。たとえ義務付けられたとしてもダンジョンに来るとき以外は外すに決まっている。それじゃあ意味がねえんだ。
普通の装備品に偽装しているから、いったん装備したら外せないなんて事は出来ねえしな。呪われた装備品とか言われちまうだろうし。
ならどうするかって、俺とセナは話し合った。そして導き出されたのは最初に常時着用するようにお知らせして、外したまま放置する奴は資格無しってことにしちまおうということだった。
いや、色々と考えたんだけど、下手な事をすると本当は人形だと言う事がばれたりしてこっちに影響が出そうだしな。単体じゃ無くてミニミニ人形との組み合わせなんかも考えたんだけどよ。
もちろんそれで永遠に資格が失われるって訳じゃなくて、外したままで行動して選別の腕輪が何をしていたのかわからない時があったら1週間資格停止みたいな感じだな。
その停止期間ずっと腕輪をちゃんと着けていれば停止が解除されるって訳だ。なんかセナが色々と条件付けをして期間を決めていたからこんなに単純じゃねえけどよ。
別に俺たちは悪い探索者を捕まえることが目的じゃないしな。そりゃあ暴力とか殺人とかを実際にしようとした時は止めるように選別の腕輪たちには言っておいたが、疑わしい奴がいたからってそれを調べるまでのことは必要ないって考えたんだ。
最悪なのはそういう奴が周囲に知られる事無く、ダンジョンで力をつけちまうことだからな。この方法なら少なくともそれは防げる。うっかりでやっちまった奴は、まあ残念としか言いようが無いが。
「……となります。報告は以上ですわ」
「うむ。ご苦労だったな。下がって良いぞ」
「お疲れ。ゆっくり休めよ」
テートの報告が終わり、そしてショウちゃんたちがこちらに頭を下げて帰っていく。想定より警察や自衛隊の動きが早かったが、こっちとしてもそれは望むところだしな。
「しかし具体的な人としての正しさっていう基準が無くて困ってんだろうな、あいつら」
「示せるようなものでもないしな」
テートから受け取った書類をトントンと机で整理していたセナが、俺の言葉に良い笑顔で返してくる。うん、やっぱこいつSだわ。
言わんとすることはわかるんだけどな。全ての罪を明示するなんて不可能だし、状況によってもそれが罪なのか、そうではないのか判断が変わっちまうこともあるはずだ。下手に明示して、それ以外だから大丈夫なんてことになったら目も当てられないしな。
ただ苦労するであろう奴らの事を考えて笑顔を浮かべるのはちょっとどうかと思うけど。
まあ、検証には苦労するかもしれんが、悪い奴を選別できるってメリットは大きいし、世間の目と言う問題を解決する一助にもなる。それに探索に役立つちょっとしたおまけ要素もあるし、きっと満足してくれるだろう。
「あれっ、マスター?」
「おっ、プロンか。どうした?」
「選別の腕輪。今日の造った分をもってきたんだ」
防具職人型機械人形のプロンが、その体が隠れてしまいそうなほどの箱を平然とした顔で持ち上げながら、とてとて歩いて近づいてくる。その箱の中にはプロンの言ったとおり、ぎっしりと詰まった選別の腕輪が整然と並んでいた。
「ありがとな。手伝ってくれて」
「ううん。僕も楽しいから」
そう言ってはにかんだ笑顔を見せるプロンに微笑み返す。あー、本当にプロンは可憐で可愛いよな。男なんだけど。
自身の右腕につけた選別の腕輪と同じデザインのミサンガを揺らしながらご機嫌な様子で去っていくプロンを見送り、残された箱に入った選別の腕輪を確認する。プロンの腕は信用しているが、まあ癖と言うか責任感と言うかそんな感じだ。
将来的なことを考えて、選別の腕輪の作製はプロンに任せている。もちろんデザインや原型となる1体は俺が造ったが、実際に量産するのはプロンだ。選別の腕輪を必要とする人数が増えてきたら人員を増やすことになるかもしれねえが、現状は1人で造っている。
俺がするのはそれをチェックし、<人形創造>で命を吹き込み、<人形世界創造>が出来るように選別の腕輪で世界を造ることだ。ちょっと物足りない気はするが、流石に1人で作るのには限界があるしな。
「よさそうだな。世界を造るのは……明日って言うか寝てからの方が良さそうだな。んじゃ、そろそろ俺は寝るわ」
「うむ」
既に深夜の1時半を過ぎているのでそろそろ寝ることにした。このまま徹夜しちまおうかとも思ったが、選別の腕輪で造る人形の世界の構想をすっきりした頭で練りたいしな。第一弾は東洋の竜を造ったから、対抗で西洋の竜なんてのも良いかもしれねえが、まあそれも寝てからだ。
軽く手を振ってセナに挨拶し、コアルームを後にして自室へと戻りベッドへと潜る。そういえば何かを話し忘れていたような気がしたが、結局思い出すことなく俺は眠りについた。
そして翌日……
「あー、これだったわ。セナ、こいつらって俺達のダンジョンに入るときについて質問してなかったっけ?」
「うむ。まあしばらくすれば落ち着くだろ」
朝一番、焦った顔で入り口を出入りしている警察や自衛官を眺めながら2人でもぞもぞと朝食を食べ始める。選別の腕輪が勝手に外れてしまったせいで混乱しているんだろう。
初心者ダンジョンはそれ自体が選別の意味を持つために、選別の腕輪は入り口前で勝手に外れると言う俺達の作った設定知らないもんな。まあDP節約のためにはこうするしかないんだ。後でバディーとサディーにでも聞いてくれ。
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