第237話 働く使い魔とひもマス
コアルームの奥にある情報部の部屋。最初はアメリカ、EU、ロシアそして中国の人形たちとセナの造ったせんべい人形のショウちゃんとミソノちゃん、ジュモー作のアンティークドールであるテートというメンバーで使っていたのだが……
「うーん、これはもう世界の人形館だよな」
入り口入ってすぐ、奥に行くごとにすり鉢状に下がっていく構造のため部屋全体を見渡せる椅子に座り、働く人形たちを見ながらそう呟く。
ここに居るのはフィールド階層に入る資格を得る為という理由により各国から奉納された人形たちだ。フィールド階層がかなり増えたため、ダンジョンに入って来る国も増えたんだよな。
確か最初は期間を区切り交代制で利用するとかいう方針だったような気もするが、未だに最初に入った4か国がフィールドダンジョンを探索しているあたりに国際的なパワーバランスが影響してんだろうなとは思う。
そう言う調整とかしている担当とか胃がきりきりしてそうだよな。まあ頑張れとしか言えんが。
そんなことより情報部で働いてくれている人形たちだ。来る国の種類が増えたということは当然のごとく奉納される人形も増える。国を代表する製作者が造った人形たちであり、そして俺の知らない種類の人形ももちろんいた。
そういう仕様にしたのは俺たちだし当然の事なんだが、やっぱかなり嬉しいんだよな。創作意欲が刺激されるって面もあるし。
世界各国で作られる人形は様々だ。素材だけでも石、木、粘土、動物の牙や骨、プラスチックなどの化学材料など種類に富んでいる。
俺的にちょっと衝撃だったのが、ある国が持ってきた動物の骨から造った人形だった。それはなんかの動物の太い骨から削り出したと思われる人の骸骨を模した人形なんだが、ただそれだけなら別に驚くほどじゃない。俺が驚いたのはその関節が全て削り出された輪で繋がっていたことだ。
はっきり言ってこれは異常だ。だってその輪には切れ目や癒着させたような跡は全くねえんだ。つまりそうやって繋がるように削り出していったと言うことに他ならないってことだからな。
俺も試してみたんだが、やっぱ骨って生き物だったわけだから癖がかなり出る材料だった。しかもそこまで強固でもねえし、奉納された人形と同じくらいの細さに加工しようとするとポッキリ折れちまう。その流れを読んで人形を造るだけならばなんとかなったんだが、そんな細工をするなんてはっきり言って俺の技量じゃ無理だ。
やっぱ世界には凄腕の人形師たちがいるって再確認できた人形だったな。
まあそんな感じで新たな出会いやら発見をもたらしてくれた人形たちが働く情報部だが、既に何度も拡張している。
フィールド階層などを探索する外国の軍隊の情報収集だけでなく、テートを頭としたダンジョン外部の情報を取りまとめた資料などがかなりの量になるからだ。
その資料を取りまとめたものを収納する部屋が情報部の奥には作られているんだが、ここは個人的なこだわりで図書館になっている。並んでいるのは資料ばっかりなんだが、図書館で働く人形って良いよなって思ったからだ。
内部で働いている主な人形の司書は球体関節人形の3人で、それぞれ赤、紫、黒の制服に身を包んだ3姉妹だ。司書だけにどこに資料があるのかの把握は完璧で、どういったものが必要か言えば資料を揃えて、笑顔でこころを込めて渡してくれるというちょっとした癒し空間になっている。まあ俺はあんま利用しないんだけどよ。
そんな図書館へと繋がる扉からセナが出てくる。資料は中で読んできたのか手ぶらのままこちらへと歩いてきており、それを大きなリボンを頭に着けた司書の末っ子が手を振りながら見送っていた。
うん、相変わらず元気があって良いことだ。
「待たせたか?」
「いや、人形たちの働きを見てたからすぐだったぞ。と言うか手くらい振り返してやれよ。まだ振ってるぞ」
「ああ、あいつか」
セナが振り返り手を軽く振ると、パッと顔をほころばせた末っ子が頭をぺこりと下げて戻って行った。セナが複雑そうな顔でそれを見送る。
「あそこまで無邪気になつかれると、対応に困るんだがな」
「良いじゃねえか。好かれるってのは幸せな事だぞ」
そんなやり取りをしながら情報部を出てコアルームへと戻っていく。セナが俺の言葉に顔をしかめているが、その口元が少しだけ緩んでいるのを俺は見逃さない。本当に素直じゃねえんだよな、セナは。
コアルームに戻り、いつものテーブル席に向かい合って座る。机の上には先ほど造り終えたばかりのミニミニ人形シリーズが並んでいる。こいつらもかなりの数を造ったはずなんだが、未だに造ってくれって要請があるんだよな。
そんなことを考えつつ、こりをほぐす様に肩を動かしているセナへと目をやる。
「それで何を調べてたんだ?」
「定期的な現況の確認だな。今までの経験上、ショウちゃんの報告で足りるとは思っているが、たまには取りまとめ前の情報と照合して取捨選択すべき基準の見直しをし、それを指示してやる必要が上官にはある。というかそれが上に立つ者の責務だしな」
「マジかよ」
さも当然のようにセナは言っているが、1日に取りまとめられる書類の分厚さを見たことのある俺としては驚愕に値する発言だった。
いや、セナが言わんとしていることがわからないって訳じゃない。日々新しい情報が入って来るのだ。その中には今までの判断基準では報告すべきかどうか迷うようなものがあるかもしれない。
基本的にその取捨選択をしているのはショウちゃんであり、セナによって造られたためその考え方はセナに近いのだが全く一緒ではない。だからこそセナはその部分の差異を埋めるために定期的にこんなことをしていたってことだ。
たまたま人形造りにきりがついたから半分興味本位で着いて行ってみたんだが、なんだろう。かなり罪悪感と言うか、申し訳ない気持ちになっちまうな。俺だったら絶対に心が折れる、というかやろうとも思わないだろうしな。
「ありがとな」
「どこぞのダンジョンマスターが仕事もせずに人形ばっかり造っているから私が働くしかないのだ。気にするな」
「ぐっ!」
「ところで、ひもマスは感謝の言葉以外にするべきことがあるのではないか?」
ニヤニヤした顔をしながら手で軽く催促をしてきやがるセナを残して席を立つ。
「お茶、淹れてきます」
「うむ」
満足そうな笑顔を浮かべながら、いそいそとせんべい支度を始めるセナの姿に苦笑いを浮かべながら俺はお茶を淹れに向かうのだった。
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