第232話 生産者たちのチュートリアル
土曜日、予告もなく更新できずに申し訳ありませんでした。
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記憶を失う前の俺の関係でちょっとしたことはあったが、そんなに大した問題じゃなかった。セナがそこまで調べていたってことに少し驚いたが、セナの用心深さと言うか情報収集にかける力の入れようからしても不思議じゃねえしな。まあ俺にとっちゃあ人形造りに没頭できる最高の環境に変化がなければ別に良いんだけどよ。
そして凛が奉納した凛の姿をした人形を<人形創造>で命を吹き込んでやったんだが、結果は、まあ、なんと言うか……いや、相棒の形ってそれぞれだと思うし問題ねえよな。凛も精力的に生産に取り組んでいるようだし、結果オーライって感じで。
最後まで残っていた鍛冶の奴らが造っていた人形もついに奉納され、今日から鍛冶の助手として働くことになったんだが大々的に歓迎されている。色んな奴の情念が入っていたせいか、こいつだけ言葉を話せなくって電子音だったんだよな。まあそれも受けているようだから別に良いんだけどよ。
「ふぅ、とりあえずこれで一段落だな」
完全に普段の仕事を忘れて、歓迎の宴会兼なにが出来るかの確認に入っている製鉄所の奴らの姿に笑みを浮かべ、そして息を吐く。
仕事の効率化のためには相棒に出来る事を確認しないとな、とかもっともらしい建前を傘にしているが、本音が全く違うことはそのにやけた顔からして一目瞭然だ。そりゃあ自分たちが造った人形が思い通りに動いてくれるんだからな。当然だろう。
とりあえずこれで現状生産系のスキルを持っている奴全員に相棒が行き渡ったわけだ。新たな生産系のスクロールの取得はまだまだ先になりそうな感じだし、当面は相棒が奉納されることもないはずだ。ないんだよなぁ。
「うーん」
「んっ、どうした?」
テーブルの対面に座って、一緒に鉄工所の奴らの様子を見ていたセナが俺の様子に気づき聞き返してくる。あごに当てていた手を外し、腕を組みながらそんなセナを見返す。
「いや、やっぱ生産系のスキルの保持者が少ないってのは寂しいよなって思ってな。それにせっかく相棒が出来たってのに今までと同じようにただ生産だけさせるってのも面白くないし」
「面白い、面白くないの問題ではないがな。確かに当初の想定ではもう少し生産者を重視するのではないかと思っていたが、他のダンジョンの氾濫、政治的な混乱などの影響をもろに受けたからな。その間に私達が宝箱から武器防具などを出すようになったし、決定的なのはアームズだな。アレに匹敵する武器防具など早々に造れるものではないだろう?」
「まあな」
肩をすくめながらそう聞いてきたセナに苦笑しながら同意を返す。
そりゃあアームズは俺と仲間たちの協力によって造り出された自信作だ。その武器や装甲はスミス、プロン、ファムの3人の機械人形たちが頑張って原作を再現しつつ、実用性も兼ね備えたものにしてくれたし、<人形創造>する時には1体につき40万DPを注ぎ込んでいるから強さは折り紙つきだ。
そんなアームズに生産系の奴らが造った物が対抗できるはずがない。
そう考えると生産系の奴らの優先度が下がっちまった要因の半分くらいは俺達の責任のような気もするな。いや、別にわざとやった訳じゃねえんだ。たまたま俺達のダンジョンのチュートリアルを充実させるように動いたらこうなっちまったと言うか……うん、全然フォローになってねえな。
俺も人形を造る1人の生産者だ。だから同じ生産者の奴らにはもっと活躍して欲しいし、もっと多くの奴らがスキルを得て活気づいて欲しいとは思っている。
「生産系のスクロールを宝箱から出すってのは……」
「ごくまれにアームズの階層で出る程度であれば問題ないとは思うぞ。だが頻繁に出しては『闘者の遊技場』の価値を落とすことに繋がりかねん」
「だよなぁ」
すかさず返してきたセナの直球にぐうの音も出ず、がっくりと肩を落とす。
生産系のスキルスクロールは『闘者の遊技場』のクリア報酬だ。まあ現状では戦闘系のスキルスクロールと生産系のスキルスクロールのどちらかを選べる形になっているが。それは今は別にいいんだけどよ。
問題はユウという試練を乗り越えた報酬として相応しいだけの価値が生産系のスクロールにはあると考えられることなんだ。生産系のスクロールが宝箱から簡単に得られるようになるってことは『闘者の遊技場』の、ひいてはユウの価値を落とすって事と同義だ。そんなこと出来るはずがねえ。
「うーん、セナの言うとおりごくまれにアームズの階層の宝箱から出す……か? 多少の改善は見込めるし」
いつもと変わらないコアルームの天井を眺めながら考えを整理していく。アームズのチュートリアル階層は俺達のダンジョンでも最難関の階層だ。通路を巡回している8分の1スケールのロボット人形でさえ倒すことはほぼ不可能だし、むしろ発見された=死亡くらいの強さを誇っている。
そこに設置された宝箱から、本当にごくまれに生産系のスクロールが見つかるというのならその価値を落とすことはないはずだ。その代わり状況の改善は遅々たるものになっちまうんだよな。
天井へと向けていた視線をセナへと戻す。悩む俺の姿にふっ、と息を吐き、そして皮肉げに片方の唇を吊り上げながらセナが目を細める。
「結局は本人たちの問題なのだから透が悩んでも仕方がないと思うぞ。自らの価値を示さなければ重用はされない。それが摂理だ。実際、鍛冶に関しては近々お茶会の会場で招待券と交換する計画もあるようだしな」
「へー、前に計画はあったけど氾濫のせいで頓挫したやつだよな」
「そうだ。入手する手段はあるのだ。生産者たちの界隈が賑わうかどうかは、奴らがその価値を示せるかどうかにかかっている。簡単に言えば評価されたければ自分で努力しろということだな」
きっぱりとセナはそう言い切った。あまりにセナらしい考え方に思わず苦笑が浮かぶ。
確かに生産系のスクロールを得る手段は既に示されている。他の選択肢と比べて生産系のスクロールの方が価値が高いと考えれば、優先的に手に入れるようにするだろう。その選択がされないのは生産者たちが価値を示せていないからという訳だ。
セナの考えはある意味では正しい。実際に命がけで闘う者がいる現状からすれば、少しでも生存確率が高まる選択をするのは当たり前だ。遊びでやっている訳じゃねえんだしな。だから優先順位の低いものは取り残される。それも当たり前だ。
でも、優先順位が低いからってそいつが努力してねえって訳じゃねえだろ。毎日の少しずつの積み重ねがいつかは大輪の花を咲かせる可能性だってあるんだ。ものを造るってのはそういうもんだろ。
それに、価値のつけ方が戦いのみに集中してるってのも納得できねえんだよな。確かにスキルを会得させた政府なんかの方針としてはそれが正しいんだろう。でも生産って武器や防具を造るだけじゃねえだろ。
スキルを得た者として、雇われたものとして、政府の意向に従うってのはわかる。だが、本当にそれで良いのか? 自分の心から溢れる情熱を受け入れるには、その制限された器は狭すぎるだろ。それに……
「せっかくの腕の良い職人が集まってるんだし、色々出来そうなんだけどな。きっかけさえあれば何とかなりそうだし、こちらの利益になるように誘導してやることも出来るかもしれねえ」
うーん、とうなりながら頭をぽりぽりとかく。職人たちの腕を示すきっかけとなることか。奥の祭壇に依頼板でもつけて作品を奉納させるか? それでも問題は解決できるかもしれねえが、ただ依頼が貼られているだけじゃあ面白みはねえよな。それにチュートリアルっぽくねえし。
んっ、チュートリアル?
「あっ、そっか。いつも通りチュートリアルにしちまえば良いんだ」
「どういうことだ?」
「セナ。新しい階層を増やそうぜ。生産者だけが入れる、生産者を成長させるためのチュートリアル階層を」
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