第226話 アームズの影響
うん、なんだろうな。死に物狂いと言うか本当にどんどん人が死んでいく。いや復活させるから厳密に言えば死んでるわけじゃねえんだが、物量作戦を地で行くような姿を見せられるこっちとしてはドン引きだ。
桃山が緑のアームズを持ち帰ってから始まった警察と自衛隊合同の逃走チュートリアルの攻略は、なんと言うかこのチュートリアルって何のためのチュートリアルだったかなと疑問に感じてしまうほど正反対のものになっちまった。いや、ポイントは大量に入ってくるからある意味成功ではあるんだけどよ。
「なあ、セナ? これってなんかテコ入れした方が良くねえか?」
「んっ? ふむ」
人の復活をタブレットぽちぽち方式から自動化したおかげで余裕ができたセナが、テーブルの対面でまったりとせんべいを咥えながら大量虐殺の真っ最中の逃走チュートリアルの画面を眺める。そしてパリッとそのせんべいを噛み砕いた。
「ぽりぽりぽりぽり」
「……」
「ぽりぽりぽり」
「……」
「……あむっ、ぽりぽり」
「満喫してんじゃねえよ!」
咀嚼を終えたら話し始めるのかと思ったら、せんべいを再びかじって満足そうな笑みを浮かべたセナに思わず突っ込む。セナがうるさい奴だとでも言わんばかりに面倒臭そうに表情を歪める。
「面倒な奴だな」
「めっちゃストレートにきたな」
「うむ、純真で素直なところが私のとりえだからな」
「セナが純真で素直だったら人類の大半が純真で素直って扱いになるな」
俺の皮肉にセナが肩をすくめて応え、そしてせんべいを食べ終えて手をパンパンと払う。そしてセナの手が新たなせんべいに届く前に、なんとか俺は入れ物を自分の方へと引き寄せることに成功した。セナの性格上、絶対に次のせんべいに手を出すだろうってのは予想済みだ。
「ちっ!」
「あっ、マジで舌打ちしやがった」
「仕方ない。テコ入れの話だな。結論から言えば不要だ」
「舌打ちは無視かよ」
ちょいちょい、と1枚せんべいを寄越せと手招きしながらセナが言った言葉に、首をひねりながらも要望に応えてせんべいを手渡す。そのせんべいをかじりながらセナが説明を続けていく。
「アームズの能力はダンジョン攻略にとって非常に有用だ。なにせ1体あたり40万DPもかかっているのだ。現状で対抗できるダンジョンマスターは国内にはほとんどいないだろう」
「サンの要望で造ったからそれなりに力を入れたしな。そもそも最初は外に出すつもりはなかったんだけどよ」
「サンは乗ると弱くなるがな」
「うるせえ。仕方ねえだろ。こういうのはロマンなんだよ」
セナの意地の悪い返しにちょっとふてくされながらも反論する。まあ言ってることはその通りなんだけどな。
アームズはサンの要望で俺が、と言うか巨大ロボ作製チームの皆で造り上げた人形だ。巨大ロボの資料の雑誌の別のページに掲載されていた機械を身にまとって戦う女の子たちの姿にサンが感銘を受けたらしく、造ってほしいことが丸わかりの態度だったので造ることにしたんだ。
普段から頑張ってくれているサンへとご褒美っていうこともあったんだが、ちょっと検証してみたいこともあったしちょうど良かったんだよな。俺の造った人形をサンが装備できるのかってことをな。
基本的に<人形創造>や召喚した奴らはその時から持っているもの以外の武器だったり防具だったりを装備することが出来ない。ただ単に、かごを背負うだとか、つるはしを持つだけなら出来るんだが、それで人を攻撃しようとすると何かの力で弾かれたようにとり落としちまうんだよな。服に関してはそもそも着れねえし。
アームズはもちろんれっきとした人形だ。だが一方で乗る者の武器や防具にもなっている。ダンジョンのルール的にどう判断されるのか、それを確かめたかったんだ。
で、結果は問題なくサンはアームズに乗ることが出来た。つまり人形が人形を着る分には何も問題ないってことになる。この事実は俺にとって大きい。俺が長年悩んでいたことを解決できる可能性があるって事だからな。
まあ問題が全く無かった訳じゃねえんだけどな。さっきセナが言ったとおり、サンがアームズに乗ると弱体化しちまうんだよな。いや、弱体化って言うと誤解が生まれそうだし、なんと言ったらいいか……そう! サンの本来の強さをアームズがカバーし切れなかったって感じだな。
確かに5種のアームズにはそれぞれ特徴がある。空も飛べるし、様々な攻撃手段なんかも持っている。攻撃のバリエーションと言う意味では強くなったと言えなくはないんだが、素のサンの方が普通に強かったんだよな。
サンの強さを10、アームズの強さを5だとすると、サンがどう頑張っても5くらいまでの強さにしかならねえんだ。サンがまだまだアームズの扱いに慣れていないってところもあるんだけどよ。でも慣れたとしても良くて7か8くらいな感じがする。言ってみればサンにとってアームズを纏うというのは、拘束ギプスをつけて戦うようなもんだ。
とは言えサンが楽しんで訓練に励んでいるから俺は別にいいと思っているがな。現状ではまだまだ慣熟しているとは言えないが、いつかは俺が話したように状況に応じてパージ、そして別の機体を装着なんてことも出来るかもしれねえし。
コーカスレースのせいで落ち込んでいるよりはよっぽどマシだからな。
そんな事を考えつつ、セナの要求に従ってせんべいを渡す。
「この逃走チュートリアルを一般人にも開放しろという流れに世論が向かっているからな。まあ裏で主導しているところがあるだろうがそこまでは掴めていないが。しかしこの流れは止まらんだろう」
「いつかは一般に開放されてしまうから、独占できるうちになるべくアームズを確保しようって訳か」
「だな。現状ではどんな対応をしようと、奴らはその穴を抜ける方法を考えるだけだ。それなら放置で構わないだろう。アームズを造るのにもダンジョンから出すのにもDPはかかるのだからな」
「うーん、DP的には成功かもしれんが、チュートリアル的には失敗か」
せっかく造った逃走チュートリアルだが、それが本来の目的で使われることはなさそうだ。例え独占が終わって一般に開放されたとしても、同じようにアームズを手に入れるために無茶な特攻を仕掛けてくる奴等で溢れてそうだしな。
大きなため息をついた俺に向けて、セナがニヤリとした笑みを浮かべる。
「言うなればアームズを得るためのチュートリアルだな。8分の1スケールのロボ人形たちの姿に、その有用性を認識し、そして宝箱からパーツを集め、そして最奥にたどり着くことでやっと得られる報酬。種類は違うがチュートリアルと言えなくもないだろ」
「んっ? おぉ! そうだな、物語の導入部とかで自分の相棒を得るためのチュートリアルとかでありそうな感じだ。冴えてるな、セナ」
顔を上げ、不敵に笑うセナを褒める。セナもまんざらではなさそうだ。
確かに言われてみれば、俺が想定していたチュートリアルではなくなっちまったが、アームズのためのチュートリアルと考えれば今の状況もおかしくはない。だからセナはテコ入れが不要なんて言ったのか。
アームズを手に入れるにはこの階層に設置された宝箱にたまに入れるようにした5分の1スケールアームズ人形のパーツを集めて組み合わせ、さらに最奥の部屋まで行かなければならない。
今は自衛隊や警察という組織が集めているから比較的完成させやすいが、個人が集めるとなればとんでもない労力が必要になるはずだ。交換とか購入とかの方法もあるがそれでも全てのパーツを集めるのは生半可な苦労じゃないだろう。
そんな末に完成させ、手に入れる相棒。これは良いチュートリアルじゃねえか。絶対に大切にしてもらえることは請合いだし。
「よし、じゃあこれからここはアームズのチュートリアルと言うことで」
「そうだな」
とりあえず想定とは違ったが、まあ結果が良けりゃいいだろ。
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