第221話 ロボ人形製作の先へ
俺が作成したリストの物品を残してアスナは旅立っていった。まあ1年したら帰ってくるらしいし、考えてみたらあっという間かもしれねえ。人形造りに集中すると1か月なんて本当にあっという間に過ぎるし。
8分の1スケールのロボ人形たちの量産はそれなりに順調だ。先輩が完璧な型を造ってくれるから、俺がするのは細部の修正、加工、そして仕上げだけになったからだ。作業量が減った分だけ時間をそれらにかけることができるようになったのでむしろ完成度は上がっている。
一応お試しの意味をこめて普通のサンドゴーレムで先輩と同じ事が出来ないか確かめてみたんだがそれは無理だった。ものすごく大雑把な型なら出来なくもないが、それじゃあ意味がねえんだよな。
とは言え全てが全て失敗だった訳じゃない。精密な型は出来なかったが大雑把な変形はサンドゴーレムでも問題なく行える。それを利用して今は1体のサンドゴーレムに協力してもらって脚立の代わりをしてもらっているのだ。
8分の1スケールとはいっても2メートルを超える大きさだ。人形を立たせたまま加工していくにはどうしても高さが必要だった。人形を寝かせた状態で加工するという手も無いわけではないが、そうすると人形をひっくり返したりする必要があるんだ。バランスも確認しづらいしな。
それによって俺が仕上げするスピードは結構速くなったのだが、それでも先輩が型抜きするスピードよりはどうしても遅くなってしまうのでこれでよかったかもしれねえが。
そんなこんなで量産化を続けつつ、他のことにも手を出したり、ちょっとしたアクシデントもありつつ人形製作を続け、そして3か月。
8分の1スケールの人形造りの経験を生かした等身大の巨大ロボ人形は思いの他順調に作製が進み、そして遂に完成した。
8分の1スケールのロボ人形たちを統率する隊長機ということで、赤いボディに角を生やした特別製だ。3倍の速さで動けるのかはわからんが、とりあえず他のロボたちと比べて大きさは8倍になっている。
量産化された8分の1スケールのロボたちのために拡張し、かなりの広さになったロボ人形の作製部屋で俺は整然と並ぶロボたちを見ていた。
スミスとプロン作の装甲や武器を装備し、そしてファム作の塗料で塗装されたその姿は原作に勝るとも劣らないリアリティをもってそこに存在していた。今までにない大きさの人形たちであることもそうなのだが、そのロボ特有の機械的な冷たさや鋭いフォルムが異様な威圧感を醸し出している。
「フフフフフッ、圧倒的じゃないか、我が軍は」
「何を言っているんだ?」
「おっ、おお。いたのかよ」
ちょっと興に乗って思わず呟いたその言葉をピンポイントで拾われて、慌てて振り返る。原作を知らないからか、セナは不可思議そうな顔をしているだけでそれ以上は突っ込んでこない。ふぅ、助かったぜ。
「完成したから見に来いと言ったのは透だろうが。夕食時からまだ5時間ほどしか経過していないのだが、本気で忘れているなら調査が必要だな」
そう言いながら当然のような顔でセナがどこからか取り出したナイフを鞘から抜き、そして磨きぬかれて光を反射する刃を俺のほうへと向ける。
「えーっと、なぜナイフを取り出したのでしょうか?」
「うむ。脳が萎縮していないか確認しようかと思ってな。大丈夫、ポーションがあるから外傷はきっと残らないぞ」
「確実にトラウマが残るだろうが! まあいいや。それよりどうだ?」
「そうだな。よっ、ほっと」
どうせ冗談であることはわかりきっているので、ナイフのことはとりあえず横に置きセナの反応をうかがう。セナは地面を軽く蹴って飛び上がると、俺の体を伝い、頭の上まで到達するとそこで器用に立ち上がった。
頭の上にのったセナがゆっくりと見渡していく。サンドゴーレムのおかげで少し高い位置に俺達はいるので、俺の頭の上なら部屋全てが見渡せるはずだ。
「ふむ、確かに強そうに見えるな。透の言葉を借りるなら確かに圧倒的と言っても過言ではないな」
「ぐふっ」
「うおっ、危ないぞ。急に動くな」
「わ、悪い」
ずりおちそうになったセナに謝り、崩れかけた体勢を整える。
なんだろうな。原作とかの知識があって知ってて言っているのであればここまでダメージは受けなかったんだろうが、知らない奴にそんな風に言われるとかなり心にくるな。もちろんセナが悪い訳じゃなくて、そもそもの原因は俺なんだが。
しばらくして満足したのかセナが頭から飛び降りた。そして静かに着地したセナが俺を見上げる。
「で、何を相談したいんだ?」
「そこまでお見通しかよ」
「まあ付き合いも長いしな」
「それもそうだな。まあ相談はこいつらにどれくらいのDPをかけるかって話だ」
ロボ人形たちを指差しながら、相談を始める。
現状、人形としての製作は終わっている。だが俺はまだロボ人形たちを<人形創造>して命を吹き込むことはしていなかった。そもそも巨大ロボを造ってみたいという欲求から始まった人形造りであるし、外部で情報収集するという目的のために作られたミニミニ人形たちとは違い、必要に駆られて造っている訳ではないからすぐに命を吹き込む必要がなかったのだ。
「透の考えはどうなんだ?」
「そうだな。8分の1スケールのほうは50万DPくらい。実物大の方は500万DPくらいでどうかと考えている」
「それはまた最初から大きく出たな。まあDPにはまだまだ余裕があるが」
俺の考えに少しだけ驚きつつも、セナが反対することは無かった。セナの言うとおり初心者ダンジョンの経営は順調で、実のところDPにはかなりの余裕がある。ミニミニ人形たちを外に出したし、フィールド階層がかなり増えたりしたことで結構な量のDPを最近使用したが、各フィールドに入る外国の軍人たちもその分増えたからそのうち取り戻せる目処も立っているしな。
最近は出入りする人数が増え、階層もかなりの数になったせいでどこが効果的にDPを稼いでいるかわかんねえんだよな。まあこれまでの傾向からだいたい入ってくるだろうDPは想定できているので、セナが調整してくれているらしいが。
最初はわかりやすかったし、それが死活問題だったからかなりしっかりと調査したんだけどな。まあそのおかげで今助かっているともいえるか。
という訳もありDPには余裕がある。8分の1スケールは現在200体いるからそれだけでも1億DPかかるが、それでも余裕で払えるほどだ。
しかし、それでも1億DPは少なくない。だが……
「完全に勘なんだが、そのくらいかけねえと満足のいく動きが出来ない気がするんだよな」
「透は人形に関する勘だけは鋭いからな」
セナの返しに苦笑いを浮かべ、「まあな」と同意する。実際自分でもそう思うしな。
ただの人形造りであれば起こりえないことなんだが、俺はダンジョンマスターで人形に命を吹き込めるんだ。その人形たちが思うとおりに動けてこそ人形師を名乗れるってもんだろ。
まして、今回は皆で協力しながら造りあげた大事な人形だ。後から〈人形改造〉することが出来るとは言え、せっかくなら最初から満足のいく姿で生まれさせてやりたい。
「しかしそれでは人形たちを働かせる場がないのではないか? 50万DPと言えばユウよりも高DPだ。DPと強さが直結する訳ではないが、対峙できる者がいるとは思えんが」
「ああ、そこは一応ちゃんと考えてるから大丈夫だ」
造る傍らでロボ人形たちをどうやって活躍させようか考えていたからな。そこに抜かりはねえ。
考えていた俺の構想を聞いたセナがコクリと首を縦に振った後、すぐにニヤリとした笑みを浮かべる。
「うむ、まあそのままでも問題ないだろう。だが、修正案を出させてもらうぞ」
セナが出した修正案に、本当に大丈夫かと少し不安になったがまあ最悪の事態は回避できるのは確かだし、なんとかなるだろうと楽観しておく。
人形たちの活躍の場はどれだけあってもいいもんだしな。
「んじゃ、気合いを入れて命を吹き込んでいくか」
「うむ、私は新たな階層の構想を練っておこう」
そう言い残して部屋を出て行こうとするセナを手を振って見送り、そしてこれから命を吹き込む人形たちの前で大きく息を吐く。
さて、やってやるぜ。
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