第216話 ロボット人形(1/8)の問題点
巨大ロボ人形の試作ともいえる8分の1スケールのロボット人形の製作を始めて1か月が経過したが、事は順調に進んでいる。スミスやプロンの仕事は速いし、なにより俺の指摘にもすぐに対応できる柔軟性を持っているしな。始めの頃は修正することも多かったんだが、慣れてきた最近では指摘することのほうがまれなくらいだ。
それに加えて良かったのが、ファムが塗装用の色材の開発に手を上げてくれたことだ。いくらスミスやプロンが金属加工の職人だとしても、色に関してはどうにもならなかったしな。
一応アスナに塗装用の色材を買ってくるように依頼するつもりではあったんだが、それにしても満足のいく色が存在しているかどうかはわからなかったし、混ぜたりして作るにしても均一な仕上がりにするのにはコツがいる。と言うかそもそもこんなに巨大なロボット人形を塗装するなんて初めてだから何を使うのがベストなのかから試す必要があったんだ。
しかしその問題もファムが色材の開発に手を上げてくれたことで一気に解決した。なにせファムが作り出したのは金属に直接塗装できる色材という夢のようなものだったからだ。
金属に塗装するのは簡単じゃない。まあ金属の種類によって全然変わってしまうので一まとめには出来ないが、粘土や木などに比べてその難易度が高いのは明らかだ。
何も考えずにただ塗装しただけだと簡単に剥がれちまうからな。個人でやる場合、それを防ぐために手の油分などがつかないように注意し、その上でアルコールなどで脱脂してからプライマーで下地を造り、最後に塗装って感じになるんだが、ここまでやっても失敗する可能性は残る。
他にも蒸着だったり、薬品に漬けたりといった方法も無いではないが、それらの方法だと俺が欲しい色を出すことが難しいだろう。最高の巨大ロボ人形のために色を妥協するなんて事はできねえし、ここが最大のネックになっていたかもしれなかったんだ。
全部解決したかと言えばそうじゃないんだけどな。金属に直接塗装できるとは言っても、ちょっと癖があってローラーや筆などで塗ろうとするとムラが出やすかったし。という訳で現在はそれを解決するためにスミスとプロンが専用のスプレーガンを開発中だ。
ファムにも色の研究があるし、本格的な色づけはしばらく先になるだろう。まあ3人の実力から考えたらそこまで遠くって訳じゃねえとは思うがな。
で、俺はと言うと、ありていに言えば悩んでいた。
いや、人形造りがうまくいっていないという訳じゃない。8分の1スケールのロボット人形は、俺が土台を作成してその上にスミスやプロンが作成した装甲なんかを結合させるという構造になっている。外からは見えない部分が俺の分担ってことだな。
外から見えない土台とは言え、研究することは結構あった。装甲をつけたときに動きが阻害されないような構造だったり、そもそも土台部分の素材をどうするかとかな。
装甲部分が結構な重さがあるため、土台もそれなりにしっかりとした造りにしないとぶっ壊れるんだよな。実際、最初の試作時に土台が崩壊してバラバラになったし。
とりあえず現在は金属骨格と粘土を組み合わせた土台に装甲を結合する形にしている。今のところそれで大丈夫だが、塗装がまだなので完成した訳ではない。もしかしたら<人形創造>した結果、動きが悪いとかで土台を見直す可能性もある。先は長いかもしれん。
でも考えてみたら普通にロボットを造るよりはるかに楽なんだよな。2足歩行って結構バランスが難しいし、動きのプログラムだったり、それを反映させるモーターの制御、連動など課題は膨大にある。しかも手とか指とかの細かい部分の動きまで追求しようと思ったら、はっきり言って個人で研究できる範疇じゃなくなるはずだ。金も膨大にかかるだろうしな。
それらを<人形創造>ですっとばせる俺は幸運と言える。言えるんだが……
「でもやっぱ時間がネックだよなぁ」
塗装の前段階で止まっている試作1号機改と作成途中の試作2号機、そしてその横に10セット以上置かれているスミスやプロンが造った装甲を見ながら呟く。
人形造りに1か月、2か月かかるなんてのは別におかしなことじゃない。何年もかけて造られた人形なんてのも実際にあるしな。問題は俺が土台を造るスピードに比べて、スミスやプロンの作製スピードが速すぎるってことだ。
もう既に俺がほとんど指摘しなくても良いくらい装甲とかの完成度は上がっているし、俺の土台の製作が追いついていない現状、2人に造るのをやめさせれば解決するってのはわかっている。でも楽しそうに製作している2人の姿を見ていると、それを止めさせるってのも可哀想なんだよな。
協力してくれているんだし、せっかくなら2人には引き続き楽しんでもらいたい。それを実現するためには俺の土台作製のスピードを上げる必要があるって訳だ。
それに土台作製のスピードアップができるようになったら、8分の1スケールのロボット人形たちを量産出来るようになる。しかもファムの塗料の開発がうまくいけば色々な種類のロボが造れるようになるはずだ。
巨大ロボをお披露目するためにどんなチュートリアルにしようかと考えていたんだが、もし8分の1スケールの人形をある程度大量に製作できるのであれば、出来るかもしれない案が1つあるんだよな。
「とは言えそのスピードアップが難しいんだけどな」
装甲を結合させる関係上、適当な仕事は出来ない。ミニミニ人形たちを量産するために使ったモールドのように、なにかしらで型を造って使用すれば良いと思うかもしれないが、その大きさは桁違いだ。
シリコンで自作するのはちょっと無理だし、型取りするだけなら石膏かなんかで出来るかも知れねえが、そこに単に金属骨格と粘土を入れるだけで良い具合に出来上がるほど簡単じゃない。骨格の位置を調整しながら、隙間なく粘土を埋めてやらねえと最終的な出来上がりに影響が出そうな気がするしな。
「うーん、型取りを前提とした骨格になるようにスミスたちと相談してみるか? 圧をかけるのは先輩とかに手伝ってもらえば何とかなると思うし。むしろその圧に型が耐えられるかって問題が発生するような……いっそのこと金属の型を造れば何とか、うーん」
言葉に出しながら考えをまとめようとするが、なかなかコレという案は浮かばない。全てを一発で解決できるうまい方法なんてある訳がねえが、それでも最初から問題点がわかりきっている方法を試してみるってのも二の足を踏んじまう。
でも本当に量産化を考えるのであれば今の方法じゃ駄目なのは明らかだ。ある程度を型取りで成型した上で、俺が細部を仕上げていくってのが良いとは思うんだがその型取りの方法が問題なんだよな。大まかとは言ってもある程度の精密さが無いと駄目だし。
「金属骨格を覆う型と接合部分の型に分けて、それをくっつける……いや、8分の1とは言え2メートルだし、重さもかなりのものになることを考えるとそれは悪手か。あー、骨格の位置の調整が出来て、精密な整形も可能、高圧をかけられてそれにも耐えられる型か。自分で言っててなんだが、そんな都合の良い……あれ?」
いくらなんでも欲張りすぎだろと自分でも思いつつも必要な項目を挙げていく途中でふと気づく。これって、もしかして何とかなるんじゃね。
「よし、ちょっと試してみるか」
立ち上がり、そしてロボット人形作製のための部屋から外へと出る。うまくいくと良いんだかな。
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