第21話 罠の階層作成
(初期ボーナスセット)についてはダンジョンを出現させる前にしっかりと確認済みだ。その名称から言ってダンジョンを出現させた後では選択できない可能性が高いと思っていたが、その予想通りこちらで見たDPで購入出来るものの一覧からは消え失せていた。
本当にケチな野郎だ。まあ実際は男か女かはわからんが。
だから(初期ボーナスセット)に含まれていた罠の種類については知っている。落とし穴(小)、木の矢、落石(小)、毒の霧(微)の4種類だ。定番と言えば定番の罠だな。
俺が使っている隠し通路なんかも罠の一部になるんだが(初期ボーナスセット)には入ってねえから除外だ。というかこの罠に関しては封印しておくつもりだ。わざわざ自分の首を絞める必要はねえしな。
それぞれの罠の詳細としては
落とし穴(小)……スイッチを踏むとその周囲の1.5メートル四方の地面に穴が開き落ちる。穴の深さはおよそ5メートル。
木の矢……仕掛けられた紐に引っかかると木の矢が飛んでくる。
落石(小)……スイッチを踏むと天井から人の頭サイズの石が降ってくる。
毒の霧(微)……スイッチを踏むと毒の霧が周囲にまかれる。致死性ではなく徐々に体調が悪くなり、1日高熱を出して寝込む程度で回復する。
こんな感じだ。
効果としては微妙なんだよな。罠単体ではよほど運が悪くない限りは死ぬことはねえだろう。怪我はするだろうけどな。モンスターとうまく組み合わせれば効果的になるとは思うがその辺りがダンジョンマスターとしても腕の見せどころか。
(初期ボーナスセット)ではこれらの4つの罠がそれぞれ10ずつ設置できるようになっていた。ただ(初期ボーナスセット)に入っていた罠は使い捨てなんだよな。毎回DPで購入しなおして設置するってのも面倒だし将来的なことを考えれば自動で再設置される罠を購入すべきだ。
ただ初期投資が高い。自動で再設置される罠は使い捨ての罠の50倍のDPがかかる。4つの罠は全て20DPなので全てそれにした場合、1つずつ購入したとしても4,000DPかかる訳だ。
2階層を造るために4,000DP、自動で再設置される罠に4,000DP、いざという時の保険として4,000DP残すとして残りは5,000弱だ。お互いに1割自由に使える分を差し引いちまうと2,000DPくらいになっちまうな。うーん、けっこう稼いだと思ったんだが全然足りねえな。俺の分を突っ込んだとしても微妙な感じだ。
チラリと視線をセナに向ける。そして小さく頭を振って浮かんだ考えを振り払う。こいつの稼ぎを無理やり使ってしまえばそれはもはや相棒じゃねえ。本当にただの使い魔扱いになっちまう。それは嫌だ。
セナは確かに人形だ。でも意志を持って自ら動くことが出来るんだ。確かに立場としちゃあ使い魔なのかもしれんが、そんな奴をただの人形のように扱うなんてしちゃあいけない。こいつはいわば俺の……
「……い、おいっ。間抜け面で妄想に浸っているところ悪いんだが」
「誰が間抜け面だ!」
「妄想に浸っていたことは否定せんのだな。いったい私を見ながらどんな妄想をしていたものだか……もしや、貞操の危機!?」
「もしや、じゃねえよ!」
わざとらしく胸を隠すように腕を交差させふるふるとセナが震える。その動きに合わせてサイドテールがびしびしと俺の体に当たってるんだが、これわざとだよな。自分の髪を地味に武器にすんなよ。
とは言え妄想というより考えにふけっていたのは事実だ。ここは深く突っ込まずに話をすり替えるに限る。
「2階層を造ろうと思うとDPが心もとないなって思ってな」
「微妙に視線が合っていないのが気になるが、まあとりあえず置いておいてやろう。しかし確かに潤沢とは言えんが何とか造れるんじゃないか? 現状でも単純に階層の構成だけに4,500DPほどは使えるだろう」
ごまかせたかは微妙だがとりあえず話を逸らすことには成功したな。とりあえずと言うのが怖いところだが。しかし4,500DPか。やっぱ自分の取り分のことを忘れてやがるな。
「いや、お前の取り分を考えると使えるのは3,000DPくらいだろ。罠を設置する部屋をそれぞれ造るとして2,000DP。それ以外にも通路とかもろもろの細かい部分でDPがいるだろうし。そう考えるとな」
「いやいやいや、なにを言っている」
「だって1割はお前の取り分だって決めただろ」
「そんなことを言うなら透だって1割は自分のものだろう」
「俺のはいいんだよ。俺が望んでダンジョンを造るために使うって決めたんだから。でもセナ、お前の分はお前のために……」
喉元に感じる冷たい感触に強制的に言葉を止められる。首を動かせないのではっきりと見ることは出来ないがこちらを見上げるセナの鋭い視線と俺の首元へと伸びた手から何をされているのかは予想がつく。
なぜそうされているかはわからねえがな。
「あまり私を侮辱しないでもらおうか」
「……」
それはあまりに冷たい声だった。感情のこもっていないロボットが発するような平坦な響きは俺の胸に深く突き刺さった。それは首元に突きつけられているのであろうナイフよりも鋭利に感じられた。
「透は言ったな。傭兵とは何をしてでも生き残ることを諦めないと」
「あ、ああ」
「私のことを使い魔ではなく相棒だと」
「そうだ」
確かに俺はそう言った。そして言葉だけでなく実際にそう思っている。偽りなど一切ない。だからこそその返答に迷いはなかった。セナが俺の答えを聞き、ふっと力を抜いて笑う。
「だったらそんなことを言うな。馬鹿者が」
「ああ、悪かった」
首元から固い感触が消える。視線の先に入って来たのは鞘に入ったままのナイフだった。優しい奴だ。
俺はセナを相棒だって言いながらどこかで保護の対象だと思っていたんだ。大事にしているように見えて本当は違う。それはセナの覚悟を無為にするってことと同意なんだ。
そんなこともわからねえなんて馬鹿すぎんだろ。
「すまなかった。最初にお前に相談す……っておい!」
「ぽり、ぽり、ぽり。んっ、何だ?」
「お前なに食ってんだよ。しかもそれ、新しいやつじゃねえか?」
「馬鹿なマスターによって傷心したからな。お前も食うか?」
「いらんわ!」
全力で突っ込みつつも自分の口角が上がっていくのを感じる。こちらを見ながらニヤリと笑うその顔はセナに良く似合っていた。
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