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攻略できない初心者ダンジョン  作者: ジルコ
第六章 ダンジョンの転換期

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第204話 廃都市の資源

登場する2人が誰だっけと思った方は先に後書きへどうぞ。

 午前0時過ぎ。それでなくともうら寂しい雰囲気が漂う廃都市のフィールドは、人気がなくなったことによってまさしく廃墟といった様相を呈していた。風などが吹くこともなく、変化のないそこは正に止まった世界と言える。

 しばらくそんな時が続き、この階層へと続く階段を降りる足音がその静寂を破った。だんだんとそのコツン、コツンと言う特徴的な足音が大きくなっていき、そして廃都市のフィールドに姿を現したのは……


「なあベルはん。なんでワイは連れてこられたんやろか?」

「いつも暇そうにしているからちょっとした運動に誘ってあげたのよ」

「運動? 運動ねぇ。まあ実際、暇やったからええけど」


 ピチピチのライダースーツを着た猫耳人形であるベルを肩に乗せた、一見パペットと見間違えそうな姿のマットが非常に人間らしい仕草で肩をすくめる。荒廃した道路をある意味ではロボットに見えなくもないマットが歩く姿は、どこか映画のワンシーンを思い起こさせた。


「んで、運動って何させるつもりや?」

「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました。この廃都市のフィールドにはね……」

「あっ、なんか予想ついたからやっぱええわ」

「ちょっ! 最後まで言わせなさいよ」


 マットの顔をポカポカと叩いて抗議するベルの姿に、マットが小さく笑みを浮かべる。そんな2人の行く先をゆっくりと1メートルほどの高さの円柱形の金属が通り過ぎていった。それはこのフィールドのモンスターである清掃ロボだ。

 清掃ロボはドラム缶のようなその体から伸びたアームで地面に落ちていた服の切れ端と思わしき物を掴むと、その体に空いた穴へと放り込みそして新たなゴミを目指して動き始める。


「お仕事ご苦労様や」


 そんな風に声をかけるマットに構うことなく清掃ロボは去っていった。苦笑するマットにベルが何してんのよと言わんばかりの視線を向ける。


「あの子達に何言ってもダメよ。ゴミの収集に命を燃やしてるみたいなの」

「そりゃ、清掃ロボやしなぁ」

「私が手伝ってって言っても全く聞いてくれなかったし」

「そりゃ、清掃ロボやしなぁ」

「返事が適当すぎるわよ、マット。まあそんなこと今はいいわ。行くわよ」

「ほいほい」


 ベルが指差す方向へとマットが歩を進めていく。そうしてしばらく進んだ先にあったのは、マットが思っていた通りの物だった。ピョンとマットの肩から飛び降りたベルが目を輝かせながらそちらへと走っていく。


「バイク、会いたかったわ!」


 錆びて半分朽ち果てているようなバイクの残骸にベルが抱きつく。その勢いでどこかの部品が外れたのか、カランカランと何かが転がっていく音がマットには聞こえていたが、ベルが気づいた様子はない。

 はぁ、と小さくため息を吐きながらマットがバイクの残骸へと近づいていく。


「これ、どないするん? いや、半分わかってんねんけど、一応聞いとこ思って」

「もちろん運ぶのよ。スミスやプロンに解析してもらって私の相棒を造ってもらうの」

「そうやと思ったわ。しかし半壊しとるで、これ。んっ? まさか……」


 何かに気づいたようにマットが周りを見回す。先程までと特に代わり映えのしない廃都市の光景だ。マットにとって今日初めて見る光景ではあるのだが、ここまで歩いてきたことで大まかなフィールドの姿をマットは予測していた。そしてそこからマットはある考えに行き着いたのだ。

 マットの様子を見ていたベルが、腕組みをしながらうんうんと首を縦に振る。


「気づいたようね。現在、この廃都市には72台のバイクの残骸があるわ。壊れている部分も違うし、全部集めればなんとかなると思うのよ」

「72台って、わざわざ数えたんかい」


 ははっ、と苦笑いを漏らしながらマットが聞こえないような声で呟く。マットの予想のとおり、ベルはバイクの数をしっかりと数えていた。


 廃都市のフィールドが出現した次の夜と言うか昨夜、何気なく廃都市へと遊びに行ったベルはそこでバイクの残骸を見つけたのだ。そして今日一日、自衛隊や警察が廃都市を攻略する姿には目もくれず、ひたすらタブレットを操作してバイクを探し続けた。

 ベルの頭の中にはどのルートを通れば効率よくバイクを集められるかが記憶されていた。そしてバイクを探すために散々眺めたはずのその他のルートはすでに忘却の彼方である。


「なあベルはん。ちょっとした運動とちゃうんやないか?」

「なによ。マットにとってはちょっとした運動の範囲でしょ。だって200キロもないわよ」

「200キロはちょっとやないと思うけどな。まあええけど」


 マットがベルを手のひらに乗せ、その手を自身の肩へと持っていく。そしてベルが飛び移ったことを確認したマットがバイクの残骸の下へと慎重に腕をいれた。


「よいしょっと」


 非常に人間臭い掛け声を出しながら、マットが軽々とそれを持ち上げる。マットの体半分以上の大きさがあり、少なく見積もっても100キロは確実に超えていると思われるのに、マットはふらついたりする様子も見せない。


「とりあえず入口に並べればええかな?」

「そうね」

「はぁ、マスターはんがフィールド階層の物を回収できれば手間が省けるんやけどなぁ」

「モンスターは回収できるし、ダンジョン外から持ってきた物なんかも回収できるのに、フィールド階層に元々あった物は回収できないなんて変な話よね」

「そやな」


 そんなたわいもない会話を交わしながら、2人はバイクの回収を続けていくのだった。





 マットたちが回収したバイク25台をコアルーム奥にあるスミスの工房へと運び終わったのは午前5時を過ぎたあたりだった。ベルはもう少し回収したいと言ったのだが、マットが断ったのだ。もちろん疲労のためではなく、時間に余裕を見ておきたいという考えからだ。


「マスターからも聞いています。ベルさんのバイクですね。武器や防具造りの合間にはなりますが、出来うる限りのことはさせていただきます」

「任せて」


 まるで兄弟のように色違いのオーバーオールを着たスミスとプロンが自信ありげに胸を叩いた。そして2人で相談をしながら早速バイクの解体をし始める。

 そんな姿を眺めながら肩をほぐすように動かしていたマットからベルがぴょんと飛び降り、スミスとプロンの元へと駆けていく。そして2人の体を登り、その耳元へと近づくと小さな声で何かを話し始めた。


 心になぜかもやっとした感情を抱いてしまい不思議そうに首を傾げながら、密談する3人の姿をマットは眺めていたのだが、しばらくして3人の視線が一瞬だけマットへと向かい、すぐにバイクへと向かったことに傾げられた首の角度を深くする。

 そして3人の話が終わり、ベルは何事もなかったかのようにマットの元へと戻ってきた。


「じゃ、帰りましょ。そろそろ時間もまずいでしょ」

「んっ? そやな」


 ベルに促され、マットはスミスの工房を後にした。そしてコアルームへと入り、そこで1人黙々とタブレットで作業していたセナと挨拶を交わし、2人は自分の仕事場である2階層の隠し部屋の奥に設置されたダミーコアへと転移した。

 古い新聞などが整然と並べられた棚の隣にある60センチほどの小さな扉の先は、マットの仕事場である隠し部屋のカウンターだ。

 その扉の反対方向には雑多に物が積まれたスペースが存在していた。新聞や雑誌から切り抜かれたと思われるバイクの写真などが壁にペタペタと貼られている。


「今日は手伝ってくれてありがとう」

「別に暇やったしええで。それより、さっき何を話してたん?」

「えっ?」

「いや、スミスはん、プロンはんと何か話しとったやろ?」


 ほんのわずかに感じる胸の中の違和感がそうさせたのか、マットがいつもとは違い少しだけ強い口調でベルに尋ねる。あからさまに視線を逸らせてはぐらかそうとしたベルだったが、てこでも動きそうもないマットの視線に頭を掻きながら「あー!」と声を上げ、そして真正面からマットを見返した。


「私のバイクだけじゃなくてマットのバイクも造ってってお願いしたのよ!」

「ワイの?」

「そうよ! 完成したら2人でツーリングとかに行けたら楽しいかなって。うー、サプライズするつもりだったのに言っちゃったじゃない! どうしてくれるのよ!」

「いや、それをワイに言われてもな。って痛いわ! なんで物を投げんねん」


 顔を赤く、じだんだを踏みながらベルが近くにあった物を投げつけ始める。その様子に慌てて小さな扉からマットは外へと出ていった。

 そして完全に隠し部屋へと抜けたマットはその小さな扉をしっかりと閉める。それでも続く扉に何かが当たる音を聞きながら、マットはとても幸せそうな笑みを浮かべたのだった。

『ベル』


生産者の階層で革職人の凛が送ってきたライダースーツに合う人形として造られた人形。キャッ○ウーマンがイメージ元になっている。


『マット』


2階層の隠し部屋の依頼所で働くパペットの外見をした人形。思考することが癖。部外者とはカタコトで話し、身内とは似非関西弁で話す。

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昔に書いた異世界現地主人公ものを見直して投稿したものです。最強になるかもしれませんが、それっぽくない主人公の物語になる予定です。

「レベルダウンの罠から始まるアラサー男の万能生活」
https://ncode.syosetu.com/n8797gv/

別のダンマスのお話です。こちらの主人公は豆腐。

「やわらかダンジョン始めました 〜豆腐メンタルは魔法の言葉〜」
https://ncode.syosetu.com/n7314fa/

少しでも気になった方は読んでみてください。

― 新着の感想 ―
[一言] いつのまにかポストアポカリプスもので廃都市のものでクラフトしたり廃車からガソリンもらうのも当たり前になったよな〜最強の範囲攻撃武器、火炎瓶作れそう
[一言] バイクと資源でふと思いましたが、 フィールドの中には油田もあったりしないかな? もしあるのなら石油狙いで優先的に選びそうだな。
[一言] 他のフィールド選択は未来都市や地球外の重力というギミックと未知の素材がありそうな月星や火星とかの地球外惑星の所辺りにしそうだな。 他に考えられるのはあるかどうかわからんけど、天国や地獄や…
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