第200話 新たなチュートリアルへの対応
すみません、寝落ちしておりました。
新しいチュートリアルやコーカスレースを出現させてから1週間が経過した。たった1週間ではあるんだが、そこは結構な様変わりをしていた。
1番変化があったのは、セナが造ったダンジョンの氾濫対策のチュートリアルの階層だ。人形たちが出てくる穴以外は何もないがらんとした階層だったんだが、現在はここはどこの工事現場かと勘違いしそうなほどにクレーンやダンプカーなどの重機が並び、そしてガテン系の男たちがそれを手足のように操りながら建築工事を行っている。
確かにこのチュートリアルの趣旨からして、穴の周りをどんな風にすれば被害が抑えられるかってのが重要になるし、そのためには工事するための重機なんかも必要になって来るってのはわかっていた。でもダンジョンの入口は大型の重機が入れるほど大きくねえし、どうするんだろうな、と思っていたんだがまさか分解して搬入して、現地で組み立てるとはな。しかもなぜか慣れてやがったし。
小さめの重機を人の手で組み立てたかと思ったら、それを使って大きい重機を組み立て、そしてさらにそれを使って大きい重機をって感じでどんどんと出来上がっていく様は結構面白かったけどな。
まあ工事が始まったといってもまだ1週間だし、重機を組み立てている時間もあったからほとんど進んではねえんだけどな。とりあえず、階段から一番離れた穴であるランダムの場所から工事するようだ。
ちなみに工事が進むにあたって嬉しい誤算もあった。
工事をするってことはその建築資材が当然いるわけだ。普通ならトラックとかで運ぶんだろうが、チュートリアルがあるのはダンジョンの中で、出入り口に近いとは言え階段を降りる必要がある。つまり通常の輸送手段が使えないわけだ。
その解決方法として奴らが選んだのは、人力で運ぶってことだった。フォークリフトで階段手前まで運んだ資材を警官や自衛隊の奴らが数人で持ち上げて階段を下りていくのだ。
量が半端じゃなく多いし結構な重さになっているはずなんだが、それでも結構な速さで運んでいる。やっぱレベルが上がるってすげえなと改めて実感する光景だな。まあ大変じゃないかというとそうではないようで、かなりのDPが入ってくるから俺たちにとっては嬉しいことなんだけどよ。
しかし階段で荷物を運ぶような機械とか他の場所でも需要はあるだろうし、どっかにはあると思うんだがなんで使わねえんだろうな。まあ俺たちにとっては今の方法をとってくれた方がありがたいんだけどよ。
で、肝心の氾濫のチュートリアルなんだが、こっちも順調に運用が始まっている。と言ってもちょっと変わった感じなんだがな。
今、俺たちが見ているタブレットの画面には、階段から一番近くの穴の周囲を囲む警官や自衛官の姿が映っている。その様子を眺めながらうんうんとうなずいているセナに声をかける。
「なあ、やっぱこの人選って、そういうことだよな」
どこか落ち着かない様子で、穴へと視線を注いでいる警官や自衛隊の奴らを見ながら聞いてみると、セナがこちらを向き、口の端を少し上げながらこくりとうなずいた。
「ある意味で新人研修にはもってこいだからな。レベルアップの意味でも、自覚をさせる意味でも」
「自覚か。実際そんな覚悟をしなくちゃいけない状況なんだよな、こいつらは」
「そうだな。いくら民衆が自衛の力をつけたとしても、最前線で矢面に立ち続けるのはこいつらだ。むしろそうでなければその国は崩壊していると言っても過言ではない」
穴の横に設置されたスイッチを踏み抜き、飛び出してくるパペットの群れに必死で対処していく警官や自衛隊の奴らを眺める。人数は桃山たちが入っていた初めての時の3倍近くいるが、今にも崩れてしまいそうなほどどこか危なっかしい。
確かにダンジョンがより多くの民間人に解放されたとしても、俺みたいに戦うこと自体が好きじゃねえ奴はいるだろうし、そもそも子供とか老人とか戦えない人もいるんだ。そのことは俺よりも奴らの方がよっぽど知っているはずだ。だからこそこんなに必死に、怪我をしてもひるむことなく1体も後ろへ通さないと気炎を吐いているんだろう。本当に直面した時により良い未来を掴めるようにと。
「まあ我々としてはDPがより多く入ってくるから儲け物だな」
「いや、その通りなんだが……まあ良いか」
なんというか奴らの覚悟にちょっと感動していたところに盛大に水を差されちまったが、言われてみれば俺が考えてもどうしようもねえことだしな。別にお仲間って訳じゃねえし、というか本質的に言えば敵だしな。
まあ他のダンジョンが適正に管理されてくれれば俺にとってもメリットはあるし、お互いに利益のある関係が続けられれば良いってことだな。
数人は死んだようだが、なんとかパペットたちをしのぎきった警官と自衛隊の奴らが肩で息を吐きながらへたり込む姿を確認し、手に持ったおにぎりせんべいの欠片を口へと放り込んだセナがタブレットの画面を切り替える。
そこに映し出されたのはお茶会の会場に新たにできたコーカスレースの会場だ。丁度、今まさに最後の1人だったらしい自衛隊の奴が池へと放り込まれるところのようだ。ふぅ、今回はなんとか勝てたみたいだな。
なんとかって言葉からもわかるように、もう既に2回コーカスレースに負けちまってるんだよな。一応徐々に難易度は上げていっているんだけどな。
「残り時間5分か。もうちょっと人形たちを強化するか?」
「いや、どちらにせよある程度フィールド階層も増やした方が良い。他のダンジョンでもフィールド階層は造られているだろうしな。チュートリアルとしてはあった方が良いだろう」
「了解。じゃあ当面は計画通り、徐々に難易度を上げていくな」
うーん、いつかは攻略されるだろうとは思っていたんだが、さすがに1週間で2回負けるってのは想定外だ。まあそれだけ警察や自衛隊が研究をした成果とも言えるんだけどな。
このコーカスレースに出ているのは、お茶会の会場内で現在仕事がなくて時間が余っている人形からランダムに選ばれている。逆に言えば仕事がある人形は最初の段階で出場者から外れちまう仕様なんだ。まあ一種の穴だな。
それに気づいた奴らは、レースが始まる前にサンや青虫と鳩のコンビなど、レースで障害となる人形たちに仕事させるべく動いたのだ。サンなんかこの3日くらい1度もコーカスレースに出場してねえはずだ。
もちろんこの穴は、わざとだ。そもそもパペット1万体をフィールド階層で働かせようと思ってコーカスレースを造ったんだしな。まあ1回どころかすぐに2回も負けちまうなんて思ってもみなかったんだけどよ。
でも負けちまったものは仕方ねえしな。セナの言うようにチュートリアルダンジョンとしてはフィールド階層が増えるのは自然なことだし、戦うフィールドが増えればその分だけDPも多く入ってくるはずだ。だからそれは別に良いんだが……
「で、フィールドの種類の決定連絡は来たのか?」
「いや、まだだな」
「おいおい、もう2日経つぞ。良いのかよ?」
「選択肢が多い分、それぞれの分野から物言いがついているのではないか? こちらは期限を切っていないから余計にな」
「あー、確かにありそう」
何を優先するかによって選ぶフィールドは変わってくるはずだしな。期限が迫っているとでもなればトップダウンに近い形で決められたのかもしれねえが、俺たちが渡したのはフィールド階層新設権という目録で期限は書かれてねえし。
それを青虫たちのいる景品交換所に持って行って、造るフィールドを伝えればいつでも大丈夫ってしておいたんだけどな。ある意味で裏目に出たか。
とは言えこれに関しては今更どうしようもねえし、昨日の晩に2つ目のフィールド階層新設権を得たから、少なくとも1つは近日中に持ってくるだろう。来るよな?
確証を持てずに首をひねる俺に、セナが笑いながら話題を変える。
「ところで、透の方は大丈夫なのか?」
「んっ、ああ。思ったより数は少なくなりそうだけど問題はねえぞ」
「そうか。それなら良い。一般の探索者も有効活用しているようだしな」
3日前から一般の探索者に解放された俺が造った一般人強化の為のチュートリアルを軽く眺め、そしてセナは銃の試験が行われている『闘者の遊技場』へと画面を切り替えた。
さて、俺もそろそろ息抜きをやめて仕事に戻るかな。
「じゃあセナ、何かあったらよろしく頼む」
「うむ」
おにぎりせんべいを口に咥え、銃に撃たれているパペットたちの様子を見ながらタブレットへと何かを書き込んでいるセナへと声をかけ、俺自身も仕事に戻る。そろそろこっちの期限も来そうだし、しっかりと仕事をさせてもらうとするかね。
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