第20話 DPの入手基準
翌朝、俺のダンジョンは朝から盛況だった。警官たちが入れ替わり立ち代わり入って来てはパペットを倒し、フェイクコアを取り上げ、木の棒を持って帰っていく。入ってくる人数が違ったり、女性の警官のみだったり、ずっと人を配置してみたりといろいろと試しているようだな。
人がずっと残るのには困ったけどな。なにせパペットが補充できねえし。まあ宝箱も現れず戦闘用のパペットも出てこなくなったことで異常に気づいたようでしばらく色々と調べた後に全員引き揚げていったのでその間に補充出来たが。
その後も何回か同じことをして検証していたようだから人がいるとダンジョンのモンスターなどが補充されないってことは知られちまっただろうな。まあ俺にはあんま関係ねえけど、他のダンジョンの奴らからしたらかなりきついことになるかもしれん。まあ頑張ってくれとしか言えんが。
一応人がその階層に居てもモンスターを追加できるようなものがないわけじゃないんだけどな。召喚陣とかモンスターハウスなんかの罠がそうなんだが、DPが高えんだよな。しかもモンスターを召喚するDPは別にかかるし。俺と同世代の初期のダンジョンマスターで用意している奴はいねえだろう。最低3,000DPだしな。
最初のころは侵入者が来るたびに多少なりとも緊張をしていたんだが、さすがにこれだけ来られるとそれも薄れていく。セナも同じようで今はポリポリとDPで出したせんべいをかじりながらタブレットを眺めていた。
「ぽりっ、ぽりっ、ぽりっ。思った以上に順調だな。特に珍しいこともないし」
「まあな。俺としては人形がせんべいを食べながらだらけると言う光景は珍しいと思うんだが、まあセナだしな」
「休めるときは休む。それが傭兵の鉄則だぞ」
「いや、珍しいのはそっちじゃねえんだけど、まあいいか」
セナの目の前に置かれていたせんべいを1枚取り食べる。醤油の香ばしい香りが鼻から抜けて広がる。時折交じる大豆の食感もアクセントになって飽きさせない味だ。
「うまいな」
「だろう。さすが10DPもするせんべいだけはあるな」
「おまっ、食事の5倍だと!?」
さも当然のようにさらりと言ったその内容に言葉を失う。俺とセナが昨日から食べている食事は全て2DPで購入したものだ。とは言え種類は多いので同じものという訳では無いんだが味はそれ相応だ。つまり決してうまいわけじゃない。空腹を満たすための食事って感じだ。
セナが持っていると大きく見えるが20枚くらいの普通サイズのせんべいが10DPか。信じられんな。
「仕方あるまい。嗜好品の類は高いのだ。それに稼いだDPの1割は自由に使って良いと言ったのは透だぞ」
「まあ確かにそうは言ったけどよ。あー、食事のランクを少し上げるか。さすがにせんべい数枚と一緒の食事ってのもなんだしな」
「そうだな。パリッ、パリッ、パリッ」
「お前、別のせんべいも買ったのかよ」
「食べ比べだ。ふむ、こちらはそこまでではないな。透にやろう。5DPな」
「いや、DPとんのかよ! っていうか財布は一緒だろうが」
味がお気に召さなかった様子のセナが差し出した新しいせんべいの包みを文句を言いながらも受け取りそのせんべいを口に運ぶ。確かにセナの言う通り先ほど食べたせんべいに比べると味は一段落ちるがそれでも美味しいと思うんだが。まあ別に良いか。
そんな俺の姿を見てセナがふふっと笑っていた。くそっ、可愛いじゃねえか。
一応稼いだDPについては8割をダンジョンのために、1割ずつを自由に使って良い範囲として決めておいた。もちろん稼いだDPだから元々あった4000DPは除いてだ。
生き延びるってのが第一優先条件であることに変わりはねえが、ただ生きているだけじゃあ意味がねえしな。セナには俺が寝ている間のダンジョンの監視なんかを頼んでいるし大事な相棒だ。制限はあるが楽しく過ごしてくれたら良いとは思っている。
「で、今日一日でどの程度貯まったんだ?」
「今の所か? 現状16,621DPだから大体12,000DPくらいか。ぼろもうけって感じだな」
「ただ入手できるDPはだんだんと落ちていると」
「まあな」
タブレットに毎回記録しておいたおかげでDP入手のだいたいの傾向は把握できている。途中から警官たちが新規の奴6名と案内役1名っていう決まった人数で入ってくるようになったから余計にわかったのだが。まあ本当に新規なのかはちょっと記憶に自信はねえから断言は出来んが普通に考えてそうだろう。
人数が一緒でもその回ごとに入手できるDPにはばらつきがあった。まあ人数が多いほど入手できるDPは多かったのでおそらく個人単位での計算なんだろう。そして傾向としてはセナが言った通りだんだんと入手できるDPは減少していっている。
現状では1回で入ってくるDPは300前後、つまり平均50程度にまで落ち込んでしまった。最初は平均80くらい入って来てたんだけどな。
せんべいを咥えたままこちらを見ているセナに見えるように2本指を立てる。
「仮説としては俺が考えてのは2つだ。1つは初期ボーナスみたいな感じで補正がかかっていた。全てのダンジョンを含めてのことだったから俺やお前に与えられた知識にもなかった。もしくはしっかりとダンジョンを造らせるために隠されていた」
「ふむ、もへもふへもふもふ」
「いや、何言ってんのかわかんねえよ。まあいいや。で、もう1つが本命でそいつにとってどれだけ試練になったかを判定してんじゃねえかなってことだ。だんだんと入手できるDPが減ってんのはここは安全だと認知されてきたからってことだな」
「ふむ、も……」
「いや、せんべい食うかしゃべるかどっちかにしろよ」
「もぐもぐもぐ」
「食うのかよ」
まあ、だろうなとは思っていたので大人しくセナが食べ終えるのを待つ。特に急ぐ様子も無くセナはじっくりとせんべいを味わい、そして新たなせんべいへ手を……
「ってちょっと待てい!」
「なんだ? あぁ、そうだった。透の甲斐性のなさについての相談だったな」
「そんな話1ミリもしてねえ!」
「冗談だ、冗談。まあそうだな。私も後者の方が正しいとは思う。ダンジョンが作られた意味とも合致するしな。しかしそうなるとこのままではまずいな」
「やっぱそう思うか」
「ああ、今のままでは明らかに試練と言うには簡単すぎる。最初のダンジョンだからDPを得られているが、他のダンジョンが現れたらDPが得られなくなる可能性もある」
真剣な表情へと顔を変化させてそう言ったセナを見ながら、まあ当然そういった結論になるよなと考える。
実際埋め込まれた知識の中のDPの取得の目安はかなりいい加減なのだ。人類を殺せば大体1,000DP、殺せなくても10DP程度は得ることが出来る。その程度だ。
これが人を殺さなくても最低10DPは得ることが出来るなら話は簡単だ。現状を維持すれば良いだけだからな。しかしこれまでの経過を見てきた感じだとそうじゃない可能性が高い。
しばらくはそのままでも大丈夫だろうが、他の普通に人が死ぬダンジョンが現れれば安全な俺の初心者ダンジョンの脅威度は相対的に下がり、そして試練とは思われなくなるだろう。
むしろダンジョンというものが認知され、ある程度経ってしまったらここには人も来なくなってしまうかもしれない。そうなったら終わりだ。
俺たちが生き続けるためにはこのダンジョンの価値を高め、そして試練足りうるものを作り続けていくしかねえんだ。やっぱ結局はダンジョンを成長させるしかねえのか。こんな状況に追い込みやがった誰かの思惑に沿うようで良い気はしねえが、こればっかりは仕方ねえな。
はぁ、とため息を吐き視線を上げるとこちらを見てニヤリと笑っているセナと目が合った。やる気のようだな。まあこいつも今の生ぬるい状況には飽きてきていたようだし、こいつの言うブートキャンプのように甘っちょろい奴らをしごく訓練の場を造ればいいか。
「じゃあ、そろそろ2階層を造るか」
「そうだな。2階層は罠の階層だぞ」
「ああ。まずは(初期ボーナスセット)に入っていた罠を使ったやつを造るつもりだ。後はおいおい追加していけば良いしな」
「よし、では造るぞ」
「いや、それは俺のセリフじゃねえの?」
「細かいことを気にするな」
俺の足をぱんぱんと叩きながらセナが笑う。それにふっ、と笑い返し床へあぐらをかいて座りなおすとそこへセナが当然のようにやって来て座った。やっぱいつもの体勢だ。でもそれが一番しっくりくるんだよな。セナにとってもきっとそうなんだろう。
さて、じゃあ2階層を造りますかね。
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