第194話 バランス調整
遅れてしまい大変すみませんでした。
投稿直前にアイディアを思いついたので全て書き直していました。
あー、自分の分担を考えるだけでも頭を使うのに、セナの考えまで見抜くって面倒な課題まで出来ちまったな。冗談っぽく言っていたが、セナは絶対にマジだ。あいつがせんべいに関して嘘をつくはずがねえしな。俺が見抜けなかったら嬉々としてせんべいパーティを開催するだろう。
全く興味がないと言えば嘘になるが、さすがに全部せんべいってのはちょっとな。なるべくなら回避したいが、まあ1日のことだし、それにククが目の前で料理してくれるってのは結構楽しみだし……っと違う違う。
とは言え第一優先は俺に任された探索者たちを効率よく強くするためのチュートリアルを考えることだ。自分の仕事がおろそかになったら意味がねえしな。パペットたちの働き場所の確保っていう意味もあるし。
タブレットを使って構想を練っているらしいセナの背中を眺め、少しだけ息を吐き、自分の考えに集中する。
うーん、単純に考えるならモンスターハウスの罠みたいに1か所に大量のパペットを配置して戦わせるってチュートリアルだよな。『闘者の遊技場』の入門編みたいなイメージだ。
警官や自衛隊の奴らなんかは本物の『闘者の遊技場』を使うだろうし、そういった部屋をいくつか作って同時に何組か戦えるようにすれば効率よく探索者たちを強く……出来るか?
途中までは良い考えかとも思ったんだが、ふと浮かんだ考えに首をひねる。
実際、今俺が造ろうとしているのと同じようなモンスターハウスの罠が設置された部屋は既に3階層にある。もちろん罠が発動するとパペットに取り囲まれることになり、大量のパペットと効率よく戦うことが出来る。しかし実際にそんなことをしている奴がいるかと言われれば、ほんの一部を除いていないというのが現状だ。
じゃあ大部分の探索者たちが何をしているのかと言えば……
「宝箱、だよなぁ」
壁にかかったモニターに映るダンジョンの様子へと視線を向けながらため息をつく。そこには罠のチュートリアルである2階層の最奥に設置された宝箱を開け、喜んだり、逆に落胆したりしている探索者たちの姿があった。
3階層を探索している奴らももちろん多くいるが、毎回2階層で宝箱を得てから3階層へと向かう奴らも多いんだよな。まあサンドゴーレムを倒せるならいざ知らず、普通のパペットの魔石程度じゃそこまで金は稼げないらしいから仕方ねえのかもしれねえけど。
「金は重要だよな。装備目当ての奴ももちろんいるみたいだが」
宝箱から出るポーションや装備品なんかはまあまあ高値で取引されるらしい。死んだら終わりの他のダンジョンを攻略している奴らもいるんだから需要は高いだろうしな。それに例の地上へのモンスターの氾濫以降ポーションの価値はさらに上がっているって話だし。
探索者にとっての金は、俺にとってのDPみたいなもんだ。少しでも多く欲しいって気持ちはわかる。他にも3階層のサンドゴーレムで行き詰っている奴らが少しでも良い装備品を求めるってのもわからなくはない。桃山みたいに鍛えれば木の棒でも単独で倒せるようになるんだが、時間がかかるだろうしな。
「あとは……やっぱワクワク感か」
ダンジョンの宝箱ってテンション上がるしな。開ける前のワクワクドキドキとした感じにはまってる奴もけっこういるし。まあ木の棒とかが出て来て絶望することもあるんだけどよ。
そう考えると探索者たちを効率よく強くさせる新たなチュートリアルに誘導するなら、全てのパペットたちを倒したご褒美として宝箱が現れるようにした方が良さそうだ。
いや、でも待てよ。鍛えられた警官や自衛隊の奴らなら、いくら数が多いとはいえパペットを倒すのにそこまで時間はかからねえはずだ。複数部屋を用意したとしても、比較的短時間で宝箱からアイテムが得られるとなればやっぱ占拠されるんじゃねえか?
あー、邪魔だな。こっちを立てれば、あっちが立たずって感じだ。
「セナ、これって占拠されないためのバランス調整がかなり面倒じゃねえか?」
「うん? 当たり前だろう。自らの管理する場所で条件の良い地点を見つけたのならば譲る必要などない。むしろ政府として占拠して積極的に運用するべきだしな。高台を譲る狙撃手はいない、と言うやつだ」
「そのことわざは初めて聞くな。まあなんとなく意味はわかるけどよ」
こちらを振り返り、さも当たり前と言った顔でセナが聞きなれないことわざを例えに出してくる。ニュアンスで十分に伝わるけど、どこのことわざなんだろうな。
そんな風に別ごとへと思考が飛んでしまった俺に「まあ、がんばれ」と言い残し、セナがこちらに背を向ける。一緒に考えるつもりは本当に無いようだな。まあセナもセナで考えているんだし、仕方がねえけど。
今回の目的は一般の探索者を強くするって事だから、警察や自衛隊に占拠されたら失敗だ。しかし探索者を引っ張ってくるにはそれなりの餌がいる。そこのバランスが重要だ。
うーん、2階層は宝箱があっても占拠されてねえんだよな。ダンジョンの罠のチュートリアルだし探索者に必須だからってこともあるんだろうけど、最奥まで1時間とか2時間かかるってことも関係しているのかもな。そこに時間と手間を割いて独占して、探索者たちから反感を買うよりもお金で買い取りをした方が得って考えたのかもしれん。
時間と手間か。
そう考えた瞬間、今までのダンジョンでの経験がピンと一本の線で繋がった。過去の実績もあるから納得もしやすいだろうし、この方法であれば少なくとも占拠されずにこちらでコントロールすることも可能なはずだ。
ちょっとした問題もあるが、それもあいつを召喚すれば何とかなるような気がするし。最悪<人形改造>で強化すれば、たぶん大丈夫なはずだ。
「よし。じゃあ詳細を決めていくか。スミスたちにも相談しねえといけねえしな」
実際宝箱の中身を作ってくれるのはスミス、ファムそしてプロンだからな。3人の部屋の近くに設置した倉庫の在庫状況からして余裕だとは思うが、あいつらが楽しく過ごせないぐらい仕事を入れちまったら意味がない。
ってことは先にスミスたちにどの程度なら大丈夫なのか確認した方が良さそうだな。それによって部屋数を増減させても良いしな。その部屋数に応じて数を均等に……あー、均等じゃなくっても良いな。むしろ適当に増減があった方が面白いかもしれねえ。マンネリ防止にもなるし。と言うかむしろパペットだけじゃなくって、ごくたまに別の人形が混ざっててそいつを倒せたら豪華な宝箱がとかも面白そうだよな。
つかえが取れたみたいにアイディアがわいてくる。結構いい感じのもんが出来るんじゃねえか?
「よし、ちょっとスミスたちのところへ行ってくるわ」
「うむ」
タブレットを操作しているセナに声をかけ、スミスたちの工房のある扉へと向かって歩いていく。セナの横顔に小さな笑みが浮かんでいるのに気づき、本当に何を造ろうとしているんだろうなと考えながら俺はコアルームから出て行ったのだった。
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