第19話 こじらせると大変になる
桃山の襲来によって再び睡眠を邪魔された訳だが、壁を一通り確認すると桃山は帰って行ったのでそこまで大変じゃあなかった。大変だったのはその後の事だ。
桃山は1人だったし宝箱を探すために熱心に壁を見ていたのであんまり監視する必要が無かった。なので画面の半分でDPで交換できるリストなどを流し読みしていて気付いたのだ。倒されてしまった2体のパペットの<人形修復>を忘れていたことを。
<人形修復>を一度行うとリキャストタイムが発生するためなるべく早く行った方が良いのだが、なにせ初めてのことが色々とありすぎてすっかり忘却の彼方へといってしまっていた。で、まあ気付いたんだからすぐに行った訳なんだが
「……」
「いや、まあ悪かったと思ってるって」
「……」
桃山に倒されたパペットは特に何事も無かったんだが、最初に2人の警官に倒されたパペットがへそを曲げたのだ。腕を組みあからさまにそっぽを向いて、私怒ってますからとアピールしてくるのだ。謝ったんだが機嫌はなかなか直んねえし。
このパペットはあの仮想の真っ白な空間で実験のために俺に倒されたりと協力してくれたパペットだ。最初の戦う役にも自ら立候補したし、こうやってすねる姿なんかを見るとやっぱ他のパペットとはちょっと違う感じがするな。今は面倒でしかねえけど。
「だー、どうすりゃいいんだよ! 謝ってるじゃねえか」
「……」
つーんとさらにパペットが体を背ける。そんなこと自分で考えればいいんじゃない? とでも言われているようでちょっとイラッと来るな。俺はお前の彼氏かよ!?
そんな俺とパペットのやり取りを見ていたセナが呆れた顔をしながらはぁーっと大きく息を吐いた。
「人の気持ちもわからんとは、だからお前は童貞なんだ」
「ど、ど、ど、童貞ちゃうし。っていうか人じゃねえだろ!」
「そういう配慮に欠ける発言は慎め」
「えっ、あっ悪い」
先ほどまでのつんつんした態度はどこへやら、パペットはあからさまに肩を落として落ち込んでいる。その背後にずーんという擬音語が見えるようだ。
確かにそうだよな。こいつらは人じゃねえけど、それはあくまで他の奴らにとってであって俺からしてみれば自分で召喚したいわば子供のようなもんだ。それがたとえ人形でモンスターであったとしても俺がそう言っちまうのはダメだ。
そうか。俺は考えもしないうちに俺とこいつらの間に線を引いちまっていたんだ。ならそれを取っ払ってやれば良い。セナと同じように。
「なあパペット。お前、名前が欲しくないか?」
「!?」
パペットがバッと音がしそうな勢いで振り返るとコクコクコクと何度も首を縦に振る。わかりやすいそんな仕草に思わず笑みが浮かぶ。やっぱ俺とこいつらは変わらねえんだ。
「そうだな。パペットだからパペ子とかどうだ?」
「……」
「いや、そんなあからさまに落ち込むなよ」
地面に崩れ落ち、両手で体を支えるorzで表されるような絶望のポーズをパペットが取る。流石に安直すぎたようだな。とは言え名前を考えるってあんま得意じゃねえんだよな。
「ふっ、所詮は透だな。その程度の名前しか思いつかんとは」
「じゃあお前はどういうのが良いと思うんだよ」
「聞いて驚け。こいつの名は……」
セナが腕を組み尊大な態度でためをつくる。パペットも期待の眼差しでそんなセナを見つめた。いや、目とかはねえんだけどなんとなくそんな雰囲気だった。そしてその期待が膨れ上がり破裂する寸前にセナの口が開かれる。
「パペ美だ!」
「似たようなもんじゃねえか、この野郎!」
「今時、子を名前につけるような古いセンスの奴に言われてもな。それと前にも言ったが私は野郎じゃない」
「そこはどうでもいいだろうが!」
「なんだと!」
売り言葉に買い言葉で再び言い争いになった俺たちが、地面に泣き崩れているパペットを見つけるのはそれから少し経った後だった。
まあそんな感じで紆余曲折合った訳だが、あまりの嘆きっぷりに俺たちも反省して真剣に名前を考えた。その結果決まったのがサンという名前だ。まあデッサン人形からとっただけなんだがそれでもサンは気に入っていたようなので問題はねえだろう。
もう一体のパペットにも名前はいるか聞いてみたんだが首を横に振ったのでやっぱりサンはちょっと変わっているようだ。まあ、名前をこれ以上考えなくても良いのは助かったが。流石に残りの10体のパペットと真似キンに名前をつけるなんて厳しいからな。
サンは明らかにウキウキした足取りでもう1体のパペットを引き連れてダンジョンへと戻っていった。見た目は全く変わらねえんだが間違えることは無さそうだな。まあ今後の活躍に期待しておこう。
桃山も既にダンジョンから出ていったので色々と配置換えを行う。メガネたちの動きを見るとパペットがかなり無視されていたからな。無駄な苦労はする必要はねえから必要のないパペットは待機部屋へ移動だ。
結局、各部屋に1体ずつパペットを残して他の奴らは待機部屋へと戻した。その代わりにパペットが持っていた看板をわかりやすいように地面へと突き立てておく。後は勝手に入ってきた奴らがなんとかするだろ。
見落としがないか何度か確認し、そしてやっと俺は本当の眠りにつくことが出来たのだった。
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