第181話 隠し部屋の新機能
すみません。昨日は途中のものが投稿されてしまいました。最後の方が追加されています。
隠し部屋へと入った警官たちが部屋を見回している。まあ昨日まではマットのいるカウンターくらいしかなかったのにいきなり様変わりしているから驚いて当たり前か。
何が変わったかっていうと、まず部屋の大きさが今までの3倍くらいに広くなり、新たに4人がけのテーブルが10脚ほど並んだってところだな。そして片方の壁際には何も入っていない棚が立ち並び、その反対側の壁はコルク地の板になっておりそこに数種類の紙がピン止めされて貼られている。他にも細々とした変更点はあるんだが、大まかに言えばそんなところだな。
周囲を警戒しつつ警官たちが部屋の奥のマットのもとへと向かって歩いていく。部屋の変化は気になるだろうが、自分たちで確かめるよりも話せるマットに聞くのが早いって判断したんだろう。
「マット、これはどうしたんだ?」
「ダンジョンニヨル、死者数ガ、一定数ヲ、超エマシタ。マタ、チュートリアルダンジョンノ、モンスター討伐数ガ、一定数ヲ、超エタコトニヨリ、依頼掲示板ノ機能ガ、実装サレマシタ」
「依頼掲示板? あれのことか?」
「ソウデス」
数種類の紙がピン止めされた壁を指差す警官の言葉をマットが首を縦に振って肯定する。依頼掲示板という言葉からある程度の予想はついているんだろうが、警官たちは壁に貼られた紙を確認しに行った。
部屋の変化もそうだが、今回の最も大きな変更点はこの依頼掲示板の機能を加えたことだ。依頼掲示板っていうのは言葉通りなんだが、掲示された依頼をマットから受注して、達成すれば報酬が得られるっていうものだ。
まあ今までだって人形に似合う服を用意するっていう依頼をしていたんだから、その機能が拡張されて依頼の種類が増えたって感じだな。
依頼の書かれた紙を一通り見た警官たちは少しの間話し合い、そして1人が部屋から出てダンジョンの外へ向かって走って行き、もう1人は部屋に残りマットのもとへと戻っていった。
「依頼ヲ、受注シマスカ?」
「どうやって受ければいいんだ? あそこに貼られている紙を外して持って来れば良いのか?」
「ソノ通リデス。コチラデ、手続キヲスルト、控エガ渡サレマス。期日マデニ、依頼ヲ達成スルト、報酬ガ得ラレマス」
「達成できなかった場合の罰則などはあるのか?」
「アリマセン。依頼ガ、破棄サレルダケデス」
それを皮切りに警官が次々に質問してくるがマットは全く迷うことなく答えていく。さすがマットだな。
一応昨日から今日にかけてマットと打ち合わせをして、想定される質問とその回答とかの話をしたしな。と言うかその話し合いが長引いたから徹夜する羽目になったとも言えるんだが。部屋の改装なんて30分かからずに終わったし、そう考えるとほぼ話し合いの時間だったんだな。
話し合いをしていて改めて思ったんだが、マットはかなり頭が良い。外の奴らに見せているロボットのような話し方や、普段のおちゃらけた関西弁っぽい話し方からは想像がつかないほどに。
俺たちの回答の穴を見つけることもあったし、さらにこういったことを聞かれたらどうするのかなど隙間を埋めるような質問もしてきたしな。で、終わったかと思うと、また新たな質問が出てきて話が再開するって感じで結局朝までかかっちまったんだ。と言うか時間になったから切り上げただけで、本当ならもっと続きそうだったしな。
それでもセナが感心するほどガチガチに理詰めにされているし、もし想定外の質問が来てもマットなら大丈夫だろうって安心感がある。ダンジョンにとってもマットほど頭の良い奴がいれば心強いのは確かだ。セナもそう言っていたしな。
だが……
うん、やっぱぶっちゃけ面倒だ。いや、マットのことが嫌いになった訳じゃねえんだ。そんな才能が有るってのはすげえことだし、セナを感心させるなんてなかなか出来ることじゃねえしな。
でもなぁ。なんというか重箱の隅をつつくような質問ばっかされてると、そんな心配するよりドンとぶつかってこい! って言いたくなるんだよな。下手を打てば取り返しのつかないダンジョンにおいて、マットの方が正解だってのは重々承知しているんだが。
そして警官がマットへの質問を終えた。結局当初に俺たちが想定していた質問以上のことは聞かれなかったな。徹夜までしてあれだけ質問にどうやって答えるか頭を悩ませたのに……あー、いかんいかん。テンション下がりそうだし、これ以上深く考えるのはやめだ。
警官がマットから離れて再び依頼掲示板へと戻り、そして依頼の内容を吟味していく。
今見ているのは新聞の配達だな。掲示板の反対側壁際の空いた棚へと新聞を配達するって依頼で報酬はポーション1本だ。新聞1社ごとに1本で、毎日依頼が出るのでお得な依頼だな。ポーションに比べれば新聞代なんて大した金額じゃねえし、運ぶ手間なんてあってないようなもんだしな。
ここでポイントなのが新聞の配達先が棚って所だ。配達したは良いが、その新聞が消えたなんてなった日にはダンジョンマスターが実はいて、情報収集が目的なんじゃないかと疑われる可能性もあるしな。考えすぎかもしれねえけど。
その他にも色々な依頼が掲示されているが、その依頼は1つのコンセプトに基づいている。
それはダンジョンに関する情報交換の場所の提供だ。
セナが常々言っている情報の大切さは俺たちダンジョン側だけじゃなくて攻略する側も同じだ。警察や自衛隊なんかは組織だから必要ないかもしれんが、地上ならネットが使えるとはいえ正しい情報を得ると言うのは結構手間がかかるはずだ。仲間内で情報交換すればある程度は信頼できる情報が手に入るが、逆に拾える情報の範囲は狭くなっちまうし。
だからこそ正確なダンジョンの情報が手に入る場所の需要はあるはずだ。言わばダンジョンの知識を得ることが出来るチュートリアルって感じか。
将来的には依頼を受けに来た奴らが情報を交換したり、図書館のようにダンジョンやモンスターに関して調べて攻略の準備をするようになれば良いなと思っている。まあ現状は何もないんだけどよ。
しばらく貼られた依頼の紙を見ていた警官が1枚の紙の前で動きを止める。そしてその紙を壁から外し、早足でマットのもとへと戻っていった。
「依頼ヲ、受注シマスカ?」
「マット、この依頼の報酬は本当か?」
「ハイ。新規ニ、1万名ノカタニ、チュートリアルヲ受ケサセルト、階層ノ拡大ガ、可能ニナリマス。拡大スル階層ハ、1カラ、3階層マデデ、選択可能デス」
「チュートリアルを受けさせるってのは1階層をクリアさせれば良いってことだな」
「ソノ通リデス」
半信半疑といった様子だった警官の表情が驚きに、そして真剣なものへと変わっていく。そりゃあそうだろう。世論が変わっていきなり探索者の数が増えるかもしれないということで警察も悩んでいただろうしな。下手に放置して死者が出ちまえばなぜか警察が責任を問われるだろうし。
死んでも復活できるこの初心者ダンジョンだからこそ、そこまで人手をかけずに探索者の対応が出来ていたんだ。死んだら終わりの他のダンジョンを最初から使うなんてことになったら人手がどれだけかかるかわかったもんじゃねえしな。
「先輩、一報を入れてきました。あと詳細の報告のために映像を撮ってこいって」
そんな言葉とともに、カメラの入っているらしいバッグを肩からさげた警官が隠し部屋へと入ってくる。さっき出て行った警官だな。
「おっ、ちょうど良いところに来たな。映像は頼んだ。俺は報告に行く」
「えっ、先輩!?」
入ってきた警官が戸惑っているのにそれを放置したまま、入れ替わるようにして先程までこの部屋に居た警官が外へと向かって走っていく。その表情は真剣そのものだった。
「掴みは成功だな」
「うむ。せいぜい頑張ってもらおう。自分たちのためになるのだからな」
「俺たちにも利益があるしな」
「まあな」
ニヤリとした笑みを浮かべてこちらを見たセナに、俺は苦笑を返した。
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