第180話 外に出る人形とは
すみません。一昨日の投稿を忘れていました。
「ではまず、いくつか問題のポイントを絞るぞ」
「おう」
セナがホワイトボードにマーカーで大きく文字を書いていく。さっきのセナのごまかしじゃねえけど、このホワイトボードに要点を書きながら話すってのは考えるのに役に立つよな。思考の流れが一目瞭然でわかるし、情報の共有も容易だ。
ホワイトボードが欲しいとセナに言われたときは何でだ? と疑問に思ったが、こういう効果があるってセナは知っていたんだろうな。そんなことを考えながら眺めていると、書き終えたセナが、トンっとホワイトボードを叩きながらこちらへ振り向いた。
「まず1点目は前提だ。まあこれは話し合うまでもなく決まっているがな。目的は情報収集、方法は人形を外へと出す、その人形の条件として人に見つからない、他のダンジョンへも侵入できる強さをもつ、ある程度の状況判断が出来る思考力をもつ、そして死なない」
「そうだな」
「はっきり言ってしまうと無茶な条件だな。特に最後がな」
要点を書きながらセナが苦笑している。でもその1点だけは俺にとってどうしても譲れない一線なんだよな。と言うかこれを無くしちまったらもう俺は俺じゃねえし。
こちらを見つめるセナに、無言で首を縦にふる。譲るつもりはねえよ、と言う俺の意思は、セナの苦笑が深まったことからも十分伝わったはずだ。セナが小さく息を吐き、再び表情を引き締める。
「強さ、思考力などはDPをつぎ込めば解決可能だ。問題は、見つからない、そして死なないだな」
「あの監視の目を潜り抜けるのは大変だよな」
ある意味で刑務所とかよりも監視としては厳しいしな。さすがに檻はついてねえけど、下手に外に出れば蜂の巣にされるだろうし。製鉄所の奴らのおかげで銃の弾もある程度確保出来ているはずだし、ダンジョンを監視する奴らくらいには配備されているだろう。
「そこを抜けるだけなら方法がない訳でもないがな」
「えっ、マジか?」
「うむ。変身薬を使えば良い。効果は1日だが、出るだけなら可能だ。2本使えば入ってくることも可能だな」
「そうか! いや、でもそれってもしかして……」
「まあなり替わるために、運の悪い誰かには死んでもらうことになるがな」
「うん、却下だ」
一瞬良いアイディアだと思ったんだがさすがにそれは無理だ。人なんてすき好んで殺したくねえし、そもそも入れ替わったとしても一時は良くても知り合いとかにばれる可能性が高いしな。アスナにお願いして入れ替わるってのも手だが、あいつにずっとここに居てもらうってのも無理だし。
そんな俺の反応を予想していたように、セナは特に驚くこともなく言葉を続けた。
「冗談だ。透明薬という物がある。最大効果は1日で、攻撃をしようとすると効果が消えるらしいが、情報収集のみと考えればうってつけの薬だ」
「へー。じゃあ見つからないってのは解決ってことだな」
「そんな訳がないだろうが、馬鹿者。ダンジョンの出入り口の監視を抜けたら解決という訳ではないのだぞ。情報収集の基本は広範囲、長時間、多様な手段だ。短期的に一気に情報を集める必要がある時もあるが、情報の正確性を上げるには基本を守るしかない。要人に張り付いての情報収集も必要になるはずだ。毎日透明薬を使うつもりか?」
安易に同意したら、思いっきり呆れられたな。しかしそんな解決策がある、って感じで言われたらそれで良いと普通思うだろ。まあ深く考えなかった俺も悪いんだが。
でも確かに言われてみれば、動いてる人形なんて見つかった日には一巻の終わりだ。その人形も危険だが、俺たちのダンジョンにとっても致命的だしな。そう考えると外で情報収集しようとするってかなりリスクが高いんだな。
安全性を期すなら、情報収集として外に出す人形全員にその日数分の透明薬を渡す必要があるってことだが……
「経費が馬鹿にならねえってことか」
「まあ情報を得る対価にある程度の経費がかかるのは仕方ないのだがな。それに付け加えると、この薬はあくまで透明になるだけで消えるわけではない。大量の透明薬などを持たせれば不意に誰かにぶつかったりして見つかる危険も増える。特に要人などの周囲では不測の自体が起こる可能性も高いだろうしな」
「ってことはこれもダメだな。と言うよりもろもろ考えるとその人形自体が普通には見つからないようなものにしないとダメってことか」
「その通りだ」
少しだけ表情を緩めて体の向きを変え、ホワイトボードに「見つからない人形の作成」と書いていくセナを眺めながら頭を悩ませる。
見つからない人形か。まず頭に浮かぶのは見えないくらい小さい人形だ。人形を造っていく中で小ささへの挑戦というのは割とメジャーなんじゃないかと思っている。いかに小さく、いかに精巧に造り上げるかってことに創意工夫を凝らすから、普通の人形造りの技術も上がるし、ある意味では修行のようなものとも言えるかもしれねえな。確か1ミリ以下の人形もあるはずだ。まあ記憶がはっきりしねえから確実とは言えねえけど。
他にも何かに擬態するような人形だったり、人形自体を透明にするだったりも考えられるが、基本的に見つかりにくいってことを考えると小さいってのは前提になるはずだ。小さい上でどんな工夫をしていくかってことか……
カツカツっという何かを叩く音に顔を上げると、セナがマーカーでホワイトボードを軽く叩いていた。おっと、集中しちまってたみたいだな。
「では次に行くぞ」
「おう」
「次の問題は死なないということだな。正確には死んでも復活させられる、が正しいか。これについては事前の知識の範囲外だし検証が必要だな。わかっているのは他のダンジョンマスターに殺されれば復活は出来ないだろうということくらいか」
「問題はそれだよな」
「まあこれについての検証案はいくつか思いついている。透も何か思いついたら言ってくれ。ではまず1つめ、……」
セナの検証案を聞き、それについて俺が意見を言ったりしていたら意外と白熱し、ククが夕食の時間だと呼びに来るまで俺たちは熱い議論を交わし続けたのだった。
翌日、俺はあくびを噛み殺しながらダンジョンの様子を観察していた。今日の仕込みや外へと出す人形の検証、そして構想を練っていたので一睡もしてないからな。とは言え重要イベントを見逃すわけにもいかねえし。同じように付き合ったセナはいつも通り平然とした顔でせんべいをパリパリと食べているがな。
ちなみに昨日検証したのは、人形の一部を外に出したり出来ないかってことだ。先輩に手伝ってもらって、限界まで細くして0.1ミリくらいになった砂の腕を外に出せないか確認してみたんだが……結果的に言えば無理だった。
そもそも腕が出ようとしているのに外に出るための必要DPの確認がタブレットに出なかったしな。厳密に言えば一応外に出ることは出来たんだが、その途端先輩の制御から外れてただの砂になっちまったんだ。まあ失敗だな。
もしこれが成功していたら、本体は安全な位置に隠れておいて危険な場所を探るってことも出来たかもしれねえんだけどな。
ついでに言うと、もしかしてと思って1階層と2階層の間でも同じ検証を行ってみたんだが結果は同様だった。1階層と2階層の階段の丁度中間部分を境にして、細くした砂の腕が先輩の制御を離れちまったんだ。先輩が5メートルくらいまで近づいたら制御下に戻ったし、先輩が階層を移動できないなんてことはなかったから、たぶんこの周囲5メートルくらいってのが自分の体として出入り口や階層間を超えられる範囲なんだろうな。
先輩ほど細くはできねえけど、他のサンドゴーレムにも頼んで実験してみたら同様の結果だったのでまず間違いはねえだろう。この手段は無理ってはっきりしただけだが、こうやって1つずつ絞っていかねえとな。
まあそれは置いておいて今はダンジョンだ。新しく拡張したとかじゃねえから今は特に動きがあるわけじゃねえが、そろそろ時間のはずだしな。せっかくの晴れ舞台なんだ。俺が見逃すわけにはいかねえだろ。
パリパリとせんべいが食べる音を聞きながら、たまに差し出されたせんべいを自分も食べつつ待っていると遂にその時がやって来た。2人組の警官が2階層を歩いていく。その先にあるのは当然……
「イラッシャイマセ」
隠し扉を抜けた先、酒場のようなカウンターの奥に居たマットが入ってきた2人の警官へと頭を下げる。さて、マット。お前の晴れ舞台だ。存分に驚かせてやれ。
お読みいただきありがとうございます。
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