第17話 発見!?
メガネの指示に4人がうなずき通路の奥へと向かって歩いていく。案内役のパペットにはここまでの案内しか指示していないのでフェイクコアの隣で待機したままだ。しかし通路の奥へと入っていく5人の後を少し離れた位置から真似キンがつけていく。まあつけていくだけで何をするでもないんだが、監視されていないと思うとどんなことをしようとするかわからんしな。
5人は後をつけてくる真似キンに気づき多少警戒はしているようだがその歩みを止めることはない。10メートルくらい離れているから何か変化があったとしても対応できると考えているんだろう。まあ俺も真似キンには不必要に人に近づかないようにと言ってあるしな。壊されたら結構な損失になるし。
しばらく5人は歩き人形たちの待機部屋へとたどり着いた。そこには3体のパペットが身動きすることもなく立っている。さっきまで宝箱の設置のためにこっそり動いてくれていた奴らだ。あれっ、なんか微妙に違和感があるような……
「ここが人形の待機部屋か。本当に動かないのだな」
「はい。ただし動くきっかけがわかりませんのでお気を付けを」
パペットたちの周りをぐるりと回りながらメガネが観察を続ける。何か違和感があったんだが今はそれどころじゃねえ。と言うのもこの部屋にはちょっとした仕掛けがされているのだ。まあ仕掛けと言うほどたいそうな物じゃなくてただの木の棒と宝箱がしまってある床下収納があるだけなんだが。
場所は今パペットたちが立っているちょうど真下にスイッチが隠されておりそれを押すと床がずれて床下収納が現れるようになっている。その中には木の棒(1DP)が100本と木の宝箱(10DP)が6個常備されているのだ。あっ、さっき使ったから98本と4個しか今はねえがな。
なぜこんなもんを作ったかと言えば人がその階層にいる間はダンジョンの改変が出来ないからだ。もちろん自動で復活して中身も補充可能な宝箱なんてもんもあるが最低で1,000DPだったからな。流石に買えねえよ。
見つかったら木の棒は持っていかれちまうだろうし、下手したら宝箱も持っていかれるだろう。するとだいたい140DPの損失になるわけだ。最初に入ってきた2人から入手したDPで賄えるとは言え無視できる額でもない。それにこの場所はクリア報酬の木の棒の保管庫として使い続けるつもりで作ったんだからそれが使えなくなるってのが一番痛いんだよな。
そんな訳もありしばらくドキドキしながら5人の動きを見ていたが幸いにもそこまで調べることも無く部屋から出ていった。次は通路の一番奥の隠し通路がある行き止まりへと向かうようだ。
ふぅ、とりあえずは大丈夫そうだな。
本来ならコアルームへとつながる隠し通路を調べられるのが最も危険と言えるのだが、この隠し通路はそんじょそこらの罠とは格が違う。なにせこれだけで3,000DP使っているからな。正確な方法で無ければ開かないし、偽装も完璧だからそもそも通路があるなんて普通ならわからねえはずだ。
まあ緊張しないって訳じゃねえんだが。
5人が隠し通路のある行き止まりへとたどり着く。工事をしていたパペットたちは5人に構いもせずつるはしを振るい続けていた。まあ振るったとしてもダンジョンの壁は特殊らしく傷1つつかねえんだけどな。こういうのは雰囲気が大事だから些細な問題だ。
「ここが現状の最終地点だな」
「そうです。先ほどの人形は時期が来れば罠に慣れるための新しいチュートリアルが出来ると言っていました」
「罠か。チュートリアルが出来るという事はダンジョンにとっては普通のことなんだろうな」
「へー、罠ですか。ここにもあったりして」
言うが早いか桃山が結構な強さで壁を木の棒で叩き始める。そんなことじゃあ見つかるはずがないと理解してはいるんだがそれでも心配になるほどの強さだ。しかもなぜか執拗に隠し通路のある場所の周辺ばかり叩いてやがんだが、こいつ本当にわかってねえんだよな?
桃山には何を言っても無駄だと判断したのかメガネたちは特に何も言わずに観察を続けている。
いや、止めろよ。けっこうな音が鳴ってるぞ。
パペットがスルーしているから別に問題ないと思われたのか? でも邪魔をすると何かがあると言っているようなもんだしな。桃山が飽きるのを待つしかねえか。
そんな風に悠長に考えていたんだがなぜか桃山が隠し通路を開ける仕掛けのある通路の隅の方へとだんだんと進んでいくのを見て冷や汗が流れ始める。本当にあいつわかってねえんだよな。動きに迷いが無さすぎるんだが。
心配はない。ちゃんとした手順で壁の場所を押さなければ隠し通路を開くためのスイッチのある穴は開かないし、そもそもその場所も床下20センチほどのところだから普通の人なら試さないはずだ。普通ならな。
楽し気に壁を叩き続けている桃山をじっと見つめる。うん、普通に見えねえ。
っていうか早く帰れよ。もう見るべき場所は全部見ただろ。なに悠長に立ち止まってやがんだよ。時間がねえんだろ。
「案内役として一人経験者をつけるか。どれだけの人数を引っ張ってこれるか、それが問題だな」
頼りのメガネは今後のダンジョンについて考えているのかしばらくは動きそうにねえ。そういうことは帰ってからしろよと思うがそれが伝わるはずがない。そんなことを考えているうちに着々と桃山はスイッチのある隅の方へと近づいていく。
「セナ、無いとは思うが……」
「ああ。皆まで言うな。透の計画はご破算になるだろうが、まあ所詮は透の立てた計画だからな。覚悟は出来ている」
「ひっでえ言いざまだな。でも……ありがとな」
するりと膝から降りて戦うための準備をセナがし始める。俺もタブレットを操作してモンスターの召喚画面を開き、すぐにでも押すことの出来るように準備をする。
呼び出す予定のモンスターは操り人形。ちょうど4,000DPで呼び出すことの出来る現状で最も強い人形系のモンスターだ。セナと同じ30センチほどしかない大きさの人形なのだがその手から糸を飛ばし、それと繋がった者を文字通り操ることが出来ると言う特殊な能力を持っている。
直接肌へと糸が触れないと操れなかったりと制限も多いので対策を取られてしまうと途端に弱くなってしまうが、初見殺しとしては最適なモンスターだ。隠し扉を見つけられたら帰すつもりはねえしな。
緊張感が高まる中、半分の画面で桃山の動きを見続ける。そしてついに桃山が隠し扉を開くための仕掛けのある壁の隅へとたどり着いた。そして無造作に木の棒を振り上げる。
「あっ!」
そんな声が聞こえ、俺の心臓の鼓動はそれに合わせるかのように跳ね上がった。
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