第158話 検証の次は
自爆気味のレーションショックから一夜明け、何とか回復した俺たちは監視を続けていた。製鉄会社の従業員たちは相変わらず検証を続けているが、その検証で造るものが武器に変わった。まあ色んな物で比較した方がデータは取りやすいだろうし、最終的には武器とか防具に加工していくんだろうから当然ちゃあ当然なんだが。
自衛隊の奴らが造った道具を使って、せっせとレールと言う金属の塊を運び込む中、製鉄会社の従業員たちが造っている武器は……
「銃だなぁ」
「まあ当然そうなるだろうな」
型に流し込まれて大量に製造されていく円錐形の物体はおそらく銃弾だ。実はどんぐりのアクセサリーです、とかだったら平和なんだがそんな訳ねえしな。セナも同意しているしまあ銃弾なんだろう。
何で俺が確信を持てなかったかって言うと造られたそれらが箱に詰められてダンジョンの外へ持ってかれちまっているからだ。
「なぁ、セナ。なんで外に持っていくんだろうな。銃の実験なんて危ねえし、普通ここでするんじゃねえか?」
「銃弾を造るためだろうな。完成すればここで実験するのではないか?」
「完成?」
「いいか。今奴らが造っているのは弾頭部分だけだ。銃弾の構造はおおまかに言えば弾頭、薬きょう、発射薬、雷管から成っている。もちろんこれは1つの例だがな。それに奴らが造っている弾頭部分にしてもその構造からFMJ、FMJFN、JHP、HSPなど様々な種類があるんだが、それぞれの特性と使用を推奨される状況としては……」
「お、おう」
立て板に水のようにセナが生き生きと解説を始めちまった。ホワイトボードまで引っ張り出してきて弾丸の形とかを書きながら説明してくれているんだが、やべえ、全く興味が沸かねえ。
いや、ダンジョンマスターとして脅威になるであろう銃の事を知るって言うのは確かに重要だとわかっているんだが、ここまで詳しく知る必要があるのか? 今説明している弾は着弾時に弾頭が裂けるスピードが速く貫通力が弱いから、敵味方が入り乱れる混戦時などに貫通による被害を防げるらしいが、ダンジョンのどこで使うんだよ、その知識。
「次に、これはハーグ宣言によって禁止されている弾丸ではあるんだが、ダムダ……」
「あー、とりあえずここで造っているのは銃弾の部品って事でいいんだよな」
「んっ、うむ。まあそうだな」
ちょうど切りよく弾丸の説明が終わったところで少し強引に話を遮って止める。若干セナが不機嫌そうな顔をしたがこれ以上は無理だ。というか禁止されている弾なら説明する必要ねえだろ。
とりあえず話が止まったことでこれ以上の説明はやめたのか、セナがホワイトボードマーカーを置いたことにこっそりと安堵の息を吐く。
「弾丸の製作をしている専門の企業に後の工程は任せるんだろう。弾頭そのものを加工するわけではないから問題は無いだろうしな」
「へー。でも日本にそんな企業なんてあんのか? 銃を持ってんのなんて警察か自衛隊くらいなもんだぞ」
「あるはずだぞ。Made in Japanと書かれた銃を見たことがある。それに国防の観点から言っても銃の製造について海外に完全に依存するのは危険だからな」
確かに言われてみればそうだよな。もし戦争になった時に武器が造れなくて守れませんでしたでは意味がねえし。そう考えると多少なりとも銃を製造している企業がいるんだろうな。おおっぴらにしてるかどうかは知らねえけど。
でも、日本って資源が乏しい国だし、どっちみち戦争になってそういう原料が輸入できなくなったら武器も造れなくなるんじゃねえのか? まあ俺が考えても仕方ねえことだけどよ。
「でも銃って、効果あるのか? ユウとかアリスとかなら余裕で避けそうな気がするんだが」
「単体ならばそうだが、集団となれば違ってくるだろう。とは言え私たちのダンジョンで使われる可能性はそこまで高くないだろうがな」
意外なセナの答えに首をひねる。集団で攻撃すればダメージを与えられるなら『闘者の遊技場』とかで使われそうなもんだが。自信ありそうなセナの顔からすると、何かしら確信がありそうだが、全く思いつかねえな。
「そうなのか?」
「うむ。銃の利点は色々あるが、おそらく今回重要視されたのは遠くから攻撃できるという点だろう。遠くから一方的に攻撃できるのであれば、命の危険なくモンスターを倒せるということだし、レベルが低い者でも一定の攻撃力は得られるから戦力も増える。安全にレベルアップが出来るようになるだろうしな」
「つまり死んでも生き返る俺たちのダンジョンで使う意味がねえってことか」
「そういうことだ。他のダンジョンでの供給が満たされたら使用される可能性はある。まあまだ実験段階でもない訳だがな」
セナは肩をすくめているが、将来的には俺たちのダンジョンでも使われるかもしれねえってことは折を見て『闘者の遊技場』とかに弾丸を避けられる障害物とかを設置した方が良いかもしれねえな。その程度の事はセナも気づいているだろうけど、一応頭に入れておこう。
まあ、とりあえず銃はそのくらいでいいか。まだ実験がうまく行くかもわかんねえんだし。その他にも気になることがいくつか起きてるしな。
1つ目の気になることは、製鉄会社の内3分の1くらいが自衛隊と警官と一緒に『闘者の遊技場』に入っていったことだ。厳重に護衛されながらサンドゴーレムゾーンまで進んでそして死ぬことなく無傷で帰っていった。
おそらくレベルを上げてダンジョン産の素材の加工をしやすくするためだと思う。それは別に不自然じゃねえんだ。戦わなくても人数制限さえ守っていればレベルは上がるってのはわかっているし、素人に戦わせるよりは安全確実でなにより早いからな。
不可解なのは他の生産職の奴らにそれをしないってことだ。
他の生産職の奴らはかなり苦労をしている。いくらダンジョン産の道具を使っているとは言っても、スキルもなく、しかもレベルも1なんだから当たり前だ。『闘者の遊技場』なら全員連れて行っても余裕だろうし、サンドゴーレムゾーンまでなら護衛できる人材が足らないってことはねえと思うんだけどな。
そしてそれに関連して、もう1つ気になるのは……
「また減ってんのか」
「んっ、ああ。他の奴らの事か」
俺が操作しているタブレットの画面をちらりと眺めたセナがあまり興味なさげに反応し、そして再び製鉄所の従業員たちの画面へと視線を戻す。その姿に苦笑しながら俺はタブレットを操作してそれぞれの部屋を見ていく。
当初は5人ずつ、それぞれのスキルの候補者たちがいたんだが現在では5人残っているのは鑑定の候補者だけだ。まあ鑑定の候補者はなんか資料とかを読み漁ったり、自衛隊が持ってきたドロップアイテムを調べていたり、それについて議論をかわしたりとやっていることが生産と言うよりは研究って感じなので別かもしれんが。
一番ひどいのは裁縫だ。昨日までは3人来ていたが、今日来ているのは2人しかいない。もしかしたら今日は用事があって来てないだけかもしれねえけど、少ないことに変わりはねえしな。
他の木工、石工は4人、革工が3人って状況だ。まだダンジョンに入って数日しか経ってねえのに着実にその数は減っている。
確かにダンジョンって言うストレスがあるだろう空間で、他人と一緒に、しかも使い慣れない道具を使わされて、さらには扱いづらい素材を使わされて、その上……うん、減るのも仕方ねえ気がしてきたな。
そりゃこんな条件じゃ、やめたくもなるわな。ここに来ることでいくらか報酬が払われているのかもしれねえけど、そもそも希少な生産系のスキルを使用する候補者に選ばれるってことはそれだけの実力があるってことだ。木工とか石工とか、門外漢の俺が見てもわかるほどだし、裁縫や革工の技術も申し分ない。むしろ俺としては人形の服を作ってくれって言いたいくらいの力量だ。
逆に言えば、こいつらは外でも十分に食っていけるだけの実力があるんだ。実際、ほとんどの奴がダンジョン産の素材の加工の合間に、普通の素材を使って受けていたらしい注文の品を作っていたりするしな。ここにしがみつく必要なんてねえんだ。
このままだとそのうち誰もいなくなるんじゃねえか? セナはそれを引き留めるのが政府の仕事だと考えていて、あんま関わる気がなさそうなんだよな。と言うか鍛冶の部屋で銃を造り始めてからそっちに釘づけだし。
元々、普通に加工しようとしているのを見た段階で、「スキルを取得してから注視すれば良さそうだな」って言っていたけどよ。
セナの考えに一理あるのはわかる。でも生産者のはしくれとして同じ生産者がストレスのある環境で作業を続けるってのもしのびねえんだよな。
かといって部屋を増やしたりするのは無理だし、今更道具を変えるってのも変だ。お茶会の会場で交換可能になっているのに突然そんなことをすればおかしすぎるからな。自衛隊とかが交換してくれれば一番良いんだが、そんな素振りは全くねえし。
「うーん、何か少しでも改善になるもの、改善になるもの……」
ぶつぶつと呟きながら画面をスライドさせていく。直接生産に関わることは難しいからそれ以外だよな。
ダンジョン産の素材を悪戦苦闘しながら加工している者、受けたらしい仕事をしている者、休憩なのかお菓子を頬張っている者、なぜか座禅を組んで瞑想している者など本当に様々だ。趣味も趣向も違うだろうし、全員が満足するような物なんて……
「あれ、いけんじゃねえか?」
ふと思いついたアイディアを練りこんでいく。特にダンジョンを改装する必要もねえし、日向がいるから説明もその後のことも可能。前に不満をもらしている奴らがいたことも覚えている。だから少なくとも需要はあるはずだ。
あとはその理由づけくらいだが、それも何とかなるか。別に生産者の階層が開いてから何日経過したとか、生産量が基準を超えたとか適当に決めれば良いからな。
「なあセナ。ちょっと提案があるんだが」
「んっ、何だ?」
昼休憩に製鉄会社の従業員たちが向かったため、画面から目を離したセナへと声をかける。賛同してもらえると良いんだがな。
投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。感想返しもまだ出来ていないのですが、ちょっと限界なので寝ます。
さすがに朝帰りになるとは思いませんでした。
それはともかく、お読みいただきありがとうございます。こつこつ更新しますのでこれからもよろしくお願い致します。