第16話 ダンジョン検証
最後のダンジョンコアの部屋へと5人がたどり着く。しばし遅れて案内役のパペットもやって来たがどこか所在なさげだ。
「止まってください」
最初にやって来た2人組のうちの1人の警官が緊張した様子で警戒の声を上げる。その視線の先にいるのはダンジョンコアの説明看板を持つパペット、ではなくその隣に佇んでいたセナの姿をした真似キンだ。この分だと偽物だとはバレて無いようだな。
真似キンがその声に反応して警官たちの方へと顔を向ける。そしてそちらへと向かって歩き始めた。
「この人形が先ほど言っていた人形か」
「そうです。どこかにナイフを所持しているはずです。警戒を」
「えー、可愛い人形じゃないですか。本当にこんなのに殺されたっていうんですか?」
桃山がぽてぽてと歩いて真似キンに近づき、そして無造作にその体をすくい上げる。真似キンは特に抵抗することも無くなすがままだ。じっと見つめる桃山の視線を真似キンの空虚な瞳が瞬きもせずに見つめ返す。
しばらくして桃山が真似キンを地面へとそっと置いた。
「強そうには見えませんねー。それにしゃべりませんし」
「違う! さっきは本当に……」
「そうむきになるな。お前もあおるようなことはやめろ」
「はい」
「はーい」
メガネのとりなしに2人が対称的な表情をしながら言葉を止める。そんな2人の姿に小さく息を吐くと、メガネは再び視線を真似キンへと向けた。真似キンもそんなメガネをじっと見つめる。
「君がこのダンジョンとやらの責任者という事で良いのかな?」
「……」
返事をしない真似キンを根気よく待っていたメガネだったが、いつまで待っても言葉が発せられることはない。まあ元々真似キンはしゃべることなんてできないけどな。
しばらくしてメガネが視線を外すと真似キンも興味を失ったように体の向きを変えフェイクコアと反対側の部屋の隅へと向かって歩いていく。そして壁際にたどりつくとくるりと振り返り5人の方を見ながら動きを止めた。
「チュートリアルという役目を終えたから元の人形の姿に戻ったという事か? しかし……」
ぶつぶつと呟き、ときおり真似キンの方を見ながら取り出した手帳へと再びメガネがペンを走らせていく。なんというかこいつちょっと警官っぽくないよな。キャリア組ってやつか? なんとなくインテリっぽいしな。メガネだし。
他の4人はメガネの周りで周囲を警戒していて動く様子はない。という訳で俺もメガネと同様にタブレットへと侵入者の人数や警官たちの様子を記入していく。あっ、2回目と初めての奴の人数は分けた方が良さそうだよな。でも今は簡単にわかるが人が増えてきたら覚えきれる自信はねえぞ。どうすっかな。
「何をしているんだ。見にくいぞ」
「あっ、悪い。忘れねえうちに記録を残しておこうと思ってな。動きもねえし」
「そうか。記録を残すというのは良い心がけだが今はやめておけ。油断は死に繋がるぞ」
「……そうだな。ありがとな、セナ」
真面目な顔で忠告してきたセナの言葉を聞き入れ、タブレットの画面の半分を占拠していたメモを閉じる。確かに動きが無いというのは俺の思い込みだ。もしかすると見えなくなっていた画面の半分で何かが起こっていてそれが死に繋がる可能性もある。
小さく笑って頭を下げると、セナがひらひらと手を振って言外に気にするなと伝え、そして画面へと視線を戻していった。その背中を見ながら笑みを深める。
頼れる相棒だぜ。
画面上の警官たちは特に変わった様子は見られ……って何してんだ、こいつ?
桃山がニマニマと顔を歪めながら音もたてずにゆっくりと移動している。その先にあるのはフェイクコアだ。他の4人は別方向を見ているために気づいていない。
「そーれ」
そんな間の抜けた掛け声とともに桃山がフェイクコアを台座から抜き取る。それに連動して罠が発動して部屋の灯りが即座に消えた。
「キャー」
うん、この耳障りな甲高い悲鳴はジジイだ。まあ桃山がフェイクコアを抜き取ろうとしていると気づいてからこの展開は予想できたが。とことん予想を裏切らない残念さだな。
他の3人は若干驚きはしていたが冷静にライトを取り出して何事が起こったのかの把握に努めている。桃山の声が聞こえていただろうから余計に冷静なのかもしれねえな。
「桃山!」
「だって暇じゃないですかー。それに時間があまりないからすぐに来いって言われて呼び出されたんですよ。私、非番なのに。さっさと終わらせて帰りたいですしー」
「はぁ、本当にお前は……」
ライトで照らされながらぶーたれた顔で不満をぶちまける桃山の姿にメガネだけでなく他の2人も呆れた顔をしている。ジジイは床にうずくまったまま頭を抱えていてそっちを見ている余裕はないようだな。地震じゃねえんだから床に伏せて頭を抱えても意味がねえと思うが、まあジジイはこの際どうでも良いか。
しばらくして光が再び戻り、室内が明るく照らされる。どことなくほっとした顔をする3人の横でジジイが何事も無かったかのように制服についた土を払って落としていた。ある意味すげぇ変わり身の早さだよな。
「はい、どーぞ」
桃山へと近づいていったパペットがフェイクコアを受けとりそれを台座へと戻す。よし、とりあえずこれでチュートリアルは終了だ。2つの宝箱も問題なく設置されているし、木の棒を取ってこのまま帰ってくれれば万々歳なんだがな。
「これで一通りは終わりか。あとは奥に人形が並んだ部屋と工事している人形がいると言う話だったな。見に行くぞ」
ですよねー。
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