第155話 製鉄会社の精鋭たち?
たぶん揃いの作業着を着てるってことはあいつらは「新大和製鉄」って会社の従業員なんだろう。社員でもない奴がそんな服を着てたら逆におかしいしな。
「ほう、こう来たか」
感心したかのようにあごに手をやりながらセナがうなずいている。その姿から考えるとこの展開は予想の範囲内のようだな。俺は想像すらしなかったが。
いや、普通日本で鍛冶のスキルを習得する候補者って言ったらやっぱり刀鍛冶だろ。日本伝統の武器だし、現在でも脈々と受け継がれているから技術も洗練されているはずだ。アニメや漫画なんかでも日本刀を持った主人公がモンスターと対峙するなんて展開は定番だし、やっぱ日本人としては刀って聞くだけで熱くなるもんがあるしな。
それが、なんでこうなった?
「なあセナ。どうして鍛冶だけこんな感じなんだ? 予想がついてるんだろ」
「おそらくな。まあ少し見ていろ」
そう言ってセナがニヤリと笑う。自分で見て考えろって事だな。まあ何から何までセナに教えてもらうってのは良くないとセナ自身常々言っているし、おそらく見ていれば俺にもわかると考えているって事だろう。
すぐに正解がわからないのはもやもやするが、セナの言わんとしていることはわかるしな。教えてもらうだけじゃなくって自分で考えて創意工夫しねえと人形造りもうまくならねえし、それと同じって事だ。
「わかった」
「うむ」
短く返事をして画面へ集中する。画面の先では先ほどの職人たちと同じように数グループに分かれて製鉄会社の従業員たちがチュートリアルへと向かっていく様子が映っていた。その画面の端では他の職人たちが悪戦苦闘しながらも俺の想像通りの作業を行っているんだが……本当になんでなんだろうな。
パリ、パリと言う時々響く音を聞きながら、その動きを観察する。
従業員たちはパペットを倒すチュートリアルを終えてレベルを上げ、その先の部屋で集合すると生産者の階層へと進んでいった。ここまでは特に変わったところはねえな。
そして生産者の階層へと階段を降りていき、通路を進んで鍛冶の部屋へ……入らなかった。
従業員たちは自衛隊の奴らと一緒にそのまま通路を進んでいく。この先には革職人の部屋とかもあるがそんな場所に用はないはずだ。
「なんで入んねえんだ? って言うかどこに……ってもしかして」
「そうだ。奴らの目的は廃坑だ」
俺の思いつきをセナが後押しする。そりゃそうだ。祭壇なんかもあるが、そこに用があるはずがねえ。なら残る可能性は廃坑だけだ。だが製鉄会社の従業員と廃坑って、確かに関係が無いとは言えねえけどレベルも低いこいつらに出来ることなんてあるのか。
もしかして地質的に鉱石が埋まっていそうな場所がわかるかを調べに来たとか……いや、でもそれならその専門の学者なりを連れてくれば良い。その方がよほど有益な情報が得られるはずだ。
じゃあなんでこいつらは廃坑に行くんだ?
従業員たちが廃坑へと降り立つ。薄暗いその空間に従業員たちの顔に少々恐れが浮かんでいるが自衛隊員たちがなだめながら通路を進んでいく。そしてしばらくしたところで全員が足を止め、ライトに照らされて浮かんだのは錆ついたトロッコのレールだった。まさか!?
「こりゃ、古いタイプの犬釘だなぁ。軽レールに刻印はないようだが錆びつきようを見たところ数十年使われてなさそうだぁ」
「いや、岩さん。ここダンジョンだから多分年代とか関係ないと思いますよ」
「四角と六角、ここまで錆びてるとバールの方が良いか?」
「こっち計測するからライトで照らしてくれ」
「はい!」
レールを目にした製鉄会社の従業員たちが、先ほどまでの怯えは何だったかと言わんばかりにてきぱきと動いていく。事前に情報を聞いて段取りを決めていたのかその動きには全くよどみがない。そして10分ほどでそこでの調査を終え、そして別のレールへ移動して同じように調査し始めた。
やっぱりこれって、そういうことだよな。
「こいつらレールを持っていくつもりなのか?」
「おそらくな。確かに考えてみればレールは鋼鉄だ。しかも壁を掘るよりも確実に量を採取できるだろうしな」
「いや、そりゃそうだが。あれってかなり錆びてるぞ。再利用出来るのか?」
「だからこそ製鉄の専門家に任せるつもりなんだろう。素人の我々にとって無理に見えたとしても奴らにとってはそうではないのだろうな」
「後でスミスに聞いてみるか」
そんなことを俺たちが話している間に調査が終わったようで、集団は廃坑から生産職の階層へと戻ってきてやっと鍛冶の部屋へと入っていった。入っていったはいいんだが、そこから全く鍛冶をしようとしねえな。
いや、俺たちが用意した設備や道具なんかはちゃんと見たし、手に持ってみたり少し作動させてみたりはしたんだぞ。しかし一通りそれが終わったら持ってきたパソコンとプロジェクターを使って壁に画面を映しながら、レールを止めていた釘やらボルトやらの測定データを入力したり、それを外すための工具の設計に入っちまった。
なにやら専門用語が飛び交って、ある意味で外国語に匹敵するような難解さなんだが、なんとか想像を働かせながら聞き続ける。俺の頭が熱を放ちそうになったころにやっと議論が一段落し、そして従業員たちが部屋から出ていった。わいわいと楽し気に何を食べるか話しているから昼飯を食いに行ったんだろう。
はぁー、と息を吐いて天井を見上げる。久々にきつかった。これならまだ自衛隊とかの話の方がわかりやすいな。
「とりあえず、既存の道具を覆う方法と一から造り上げる方法を試してみるって事で良いんだよな」
「おそらくな」
顔をしかめながらこめかみを揉んでいるセナの様子に苦笑いしながら聞くと、何とも微妙な声色で返してきた。やっぱセナでもこんな感じになるんだな。言い方は悪いかもしれねえけどちょっと安心した。
こいつも万能って訳じゃねえんだ。まあその方が人間らしくて良いよな。
「んっ、どうかしたか? にやにやと笑って」
「いや、何でもねえよ。それとにやにやしてねえし」
「そうか、そうだったな。透にとってその間の抜けた顔が普段の顔だったな、可哀想に」
「可哀想にじゃねえよ! って言うか本当に可哀想なものを見るような目で見んな!」
俺の突っ込みにくくくっと笑いを漏らすセナを見ながら、席を立つ。ちょっと昼は過ぎちまったが俺たちも飯にしねえと。待ってくれているだろうククにも悪いしな。
「とりあえず飯もらってくるわ」
「うむ。私は引き続き何かないか確認しておく。何もないとは思うがな」
「おう」
頼もしい相棒に後を頼み、ククの調理場に向かって歩き始める。そして部屋を出る直前、聞こうと思っていたことを不意に思い出した。
「そういや、道具を覆っただけで効果ってあるのか?」
「さあな。試したことがないから何とも言えん。全くないという訳ではないのではないか?」
「そっか。まあ俺たちの場合、外の素材を手に入れる方が難しいしな」
「いくつか落とし物を収集しておいたものがあるから後で試してみるか」
「だな。じゃあついでにスミスとプロンにもコアルームに後で来てくれって声かけておくわ」
「頼んだ」
軽く手を上げたセナに、同じようにして返して部屋から出ていく。うーん、何というか当初の予定とは違う感じになりそうだが、これはこれでちょっと面白い気がしてきた。全てが予定通りなんてつまんねえしな。
とは言え、とりあえずは飯だ。腹が減っては戦は出来ぬって言うしな。俺は戦わねえけどよ。
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