第154話 生産者候補たち
その後数日間、杉浦たちは廃坑を中心に調査を続けた。日にちをずらして同じ場所を何回か掘ってみたり、どの程度掘れば天井が崩落するのかを確かめるためなのか壁を掘り進めていき、予想通りと言うか予定通りと言うか天井の崩落に巻き込まれて埋まったりしていた。
その他にも通路の形状を正確に測るためなのか黒い箱型の何かを持った隊員が通路をうろついたり、カメラを搭載したドローンが飛びまわったり、朽ちたトロッコの関係を調べてみたりと結構な人数をかけて本格的に調査をしていた。と言うか現在も調査中だ。
「いや、こいつらマジで飽きないな。いや、そういう問題じゃねえってのはわかるけどよ」
「いつも言っているだろう。軍人にとって情報は命だ。事前の情報量の違いは作戦の成功率に直結する。偵察を怠る者は遠からず死ぬからな」
「いや死なねえからな。あっ、でも崩落で何回か死んでるか」
そんなたわいもないことをときおり話しながら監視もそこそこに俺は奉納された人形たちに命を吹き込んだり、ユウのために自分で人形を製作したり、倒されちまった人形たちを<人形修復>したりと充実した日々を送っていた。
と言うかいつ生産者たちが来るんだろうな。いや、そもそもスキルの数が少ねえから選考に時間がかかってるってのはわかるんだけどよ。それで遅れたら遅れた分だけ損するんだし、個人的にはそこに時間をかける意味はあんまねえと思うんだけどな。まあ人形を毎日捧げて得られる素材は確保しているみたいだけどよ。
それに、現状としては鍛冶、裁縫、木工、革工、石工、鑑定の6つのスキルスクロールが1つずつしかない訳だが、それを解決する方法も今回の改修で追加しておいたんだけどな。
1つは『闘者の遊技場』を再攻略することだ。まあこっちは難易度が上がりまくったのですぐには無理だ。毎日『闘者の遊技場』で戦っている奴らもいるんだが、杉浦たちも1度完全に敗北しているので十分すぎるほどわかっているだろう。まっ、こっちは称号を得ることが主目的で、スキルスクロールはおまけだからな。
問題を解決する本命、それはお茶会の会場で招待状と引き換えることだ。
今回の改修で新しい階層と共に大きく変わった場所の1つがお茶会の会場だ。とは言っても見た目的な話じゃない。いや、見た目も多少変わったけどな。
さすがに手狭になってきたし、働く人形たちも増えたから今まで100名くらいが限度だった会場の広さを一気に2倍に増やしたしな。そこは今回は大して重要じゃねえんだが。
改修の目玉は何といっても交換できるラインナップの更新だ。全ての国って訳じゃなくて称号を持つ者のいる国、つまり日本限定だけどな。
追加したのは生産者の階層や廃坑で使う物ばかりだ。生産に使う素材や道具、廃坑で使うツルハシなんかもある。しかしその中でも目を引くのはやはり生産系のスキルスクロール、そして部屋の拡張、増設権だろう。
スキルスクロールは特に言うことはない。報酬として渡したスキルスクロールと同じものが交換できるってだけだ。まあ1つにつき5万枚の招待状が必要だから早々交換が出来るってもんじゃねえけどな。
で、もう1つの部屋の拡張、増設権なんだが、これは言葉通りだ。これと交換すると現在6部屋しかない生産者のための部屋を増やしたり、広くしたり出来る。生産スキルを得た者が増えていったら確実に部屋は足りなくなるからな。それに対応するために交換リストへと追加したわけだ。ちなみに10万枚で交換なのでさらに難しいんだけどな。
後は適当な装備が宝箱から出るようになったので交換できる武器を一新したり、防具が増えたりしているんだがどうしてもかすんじまうな。一応プロン作のちょっと良い防具のお披露目なので早く交換してもらいたいもんだが。
と言うか今は外国軍がいるせいで日本がフィールド階層にあんま入れねえし、そこも考えなきゃダメか。後でセナに相談しねえとな。
そんなこんなでそこまで大きく変わらない日々を過ごすこと1週間。ついにその日はやって来た。
その日の始まりは特に変わり映えのないものだった。装備が出るようになったということが広まったのか、少し人数の増えた一般の探索者が1から3階層を探索し、外国の軍隊は相変わらずフィールド階層を探索していた。そんないつも通りの光景が変わったのは午前10時過ぎのことだ。
警察と自衛隊の奴らに囲まれながら集団がダンジョンへと入ってくる。その服装、そして髪型など個性豊かな面々だ。作務衣を着ている坊主の男やら大きな丸眼鏡をかけたレインボーカラーの髪をした女、もちろんジーパンにシャツと言う完全に普段着の奴もいる。ダンジョンに果てしなく合わないってのは変わりねえけど。
「セナ」
「うむ。待望の生産者たちだろうな」
「でも多くねえか?」
「候補者なのだろう。ここで実際に働かせてみて最終的な候補を選ぶのではないか? いくら腕があったとしてもダンジョンと言う環境が合わない者はいるだろうしな」
「そういや、そうだな」
入って来た集団の人数は25名。つまり1つのスキルに対して4名程度候補者がいるわけか。確かに地上とあまり変わらないように整えられていると言っても閉鎖空間だし、ダンジョンにモンスターがいるというのは周知の事実。
モンスターは出ないし、死んでも生き返るから安全と言われても早々納得できるもんでもねえだろうしな。俺にとっては居心地の良い空間そのものなんだが。
「それにしても若いな。20代から30代ってところか。予想通りではあるんだが」
「うむ。若い方が環境の変化にも強いし、何より長い期間生きるからな。貴重なスキルの使用者としては的確だ」
「俺的にはちょっと残念だけどな。熟達した職人の技を見てみたかったし。いや、こいつらも選ばれたからには凄腕なんだろうけどよ」
候補者たちが5人ごとのグループに分かれて、護衛と共に1階のチュートリアルを抜けていく。ステータスを表示しているところを見るとレベルアップしたようだ。そしてそのまま奥の階段から生産者の階層へと降りていき、それぞれ専用の部屋へと入っていく。
あれっ?
「なんで鍛冶の部屋に入るやつがいねえんだ?」
「さあな。誰かが遅れていて待っているのかもしれん」
「うわっ、そいつやっちまったな」
呆れたような声と表情をしながらセナが苦笑する。セナは時間とか事前準備とかそういった事には異様に厳しいからな。昔だったらこの程度じゃ収まらないほどの罵倒が出ていたんだろうが、そう考えるとセナも結構丸くなったもんだな。
感慨深くそんなことを考えながらセナを見つめていると、その視線に気づいたのかセナがこちらを振り向いた。
「ナマコのような目でこちらを見て、どうしたんだ?」
「いや、ナマコのような目ってどんなんだよ?」
「今透がしていたような目だ。その他の言葉では形容しがたい目だな」
「いや、他に例え様があるだろ。なんでナマコ一択なんだよ!」
わいわいとそんなくだらないやり取りをしている最中だった。新たな集団がダンジョンへと入って来たのは。それに気づき、俺とセナは画面へと目を向け、そして言葉を失った。
先ほどの候補者の集団と同じように警官と自衛隊の奴らに守られながら入って来たそいつらは、ダンジョンに似つかわしくない格好をしていた。そしてそれは先ほど入った候補者たちとも違う種類で似つかわしくない。
その集団は揃いの格好だった。黄色いヘルメットを頭にかぶり、水色と濃い青色の作業着を身にまとっている。その作業着の背中に書かれているのは「新大和製鉄」の文字。
うん、職人には違いないかもしれねえけど、ちょっと俺の想像とは違う奴らが来たんだが。
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