第149話 新たな作戦と新たな仲間
入り口にある自衛隊のプレハブ小屋へ2人の男の探索者が駆け込んでいく。さっきまで楽しそうに剣を振ってたんだけどな。そういや、銃刀法なんてもんがあったな。どうすんだ、これ?
「なあ、これってどうなるんだろうな?」
「知らん。だが別に私たちにとっては先ほどの奴が剣を使えようと使えまいと関係ない。ダンジョンが変化したことを周知できれば十分だからな」
「まあな。でも使えなかったらちょっと可哀想だよな。あんだけ喜んでたんだし」
宝箱に入っていた剣を小躍りしそうなくらいに喜びながら取り出した姿や、わざわざ行き止まりの通路へと進んでいって小一時間くらい見えない相手に向かって剣を振っていた様子を見ている俺としては、このまま没収って結果にはなって欲しくはねえな。
肩をすくめるだけであっさりと興味を失ったセナの方がダンジョン的には正しい反応なのかもしれねえけど。まあ許可する、しないを決めるのは俺の領分じゃねえし、これ以上どうしようもないってのもわかっているんだけどよ。
「それにしても戻ってこねえな」
「まあ仕方があるまい。今回は攻略するという訳ではないからな。メインは使用者が決まらなければあまり意味のない階層だしな」
今朝人が入ってくる前に新たな階層を接続したんだが、それについては朝の警官たちの巡回で見つかっており、もう既に自衛隊と警官の混合部隊によって偵察が行われていた。看板も立てておいたから使い道はわかるはずだが、出入り口の警備に人は派遣されているものの入ろうとする者がいないのだ。
何をすれば良いのかわかっているはずなのに、何をたらたらしてんだ。セナの言葉もわからないではないが、新たな階層の役目はそれだけじゃねえ。俺にとっては特にな。
「いや、そうじゃなくてよ……」
「わかっている。準備に時間をかけているとでも思っておけ。その方が楽しみが増えるだろ」
「……まあな」
ちょっと面倒くさそうにちらっとこちらを見てセナが俺の言葉を遮った。確かにセナの言う通りだ。まだ今日が終わるまで11時間近くあるしな。タイムリミットはまだまだ遠い。っていうことは俺のお預けの時間も長いって事か。はぁ。
今回のメインのダンジョンの改装は、もちろん1階層の階段そばの待機部屋へと接続した新たな階層だ。しかしその他にも色々とマイナーチェンジをしていた。その中の1つが、先ほど2人の男の探索者が発見したように、2階層、3階層の宝箱にまれに装備品が混ざるというものだ。
一応今までも装備品と言うか、はずれのたわし感覚で木の棒が低確率で宝箱から出るようにしていたんだが、今回増やしたのは木の棒とは比べ物にならない質の装備だったりする。さっき出たのは金属製の剣だし言うまでもないんだが。
ちなみにその質はロシア軍が装備していたものを参考にしている。マト子さんが破壊したロシア軍の装備の一部をこっそり回収しておいた物だ。
スミスからも「この程度の武器なら宝箱から出しても問題ないでしょう」とお墨付きをもらうくらいのスミスに言わせれば手抜き武器で、短時間で量産も可能とのことだったのでGOを出した訳だ。
手抜きと言ってもそれはスミスの基準だからだし、今の自衛隊や警察の奴らからすれば喉から手が出るほど欲しい物のようだけどな。
そんなことを考えているとコアルームのドアが控えめにコンコンとノックされ、そしてドアがゆっくりと開いた。
「マスター、出来た」
「おっ、結構いっぱい持ってきたな。召喚していきなりこんなにこき使って悪いな、プロン」
両手に抱えるように盾や靴なんかを持ってきた防具職人型機械人形のプロンへとねぎらいの言葉をかける。プロンはセナの案を聞いてすぐに召喚した機械人形だ。
召喚当時はいつものごとく初期状態だったので、今は容姿をちゃんと変えている。
ちょっと目が隠れるくらいの長さで真っすぐに切りそろえられたさらさらの青色の髪には天使の輪が浮かんでおり、防具職人なのでスミスと色違いの薄茶のオーバーオールを着てはいるのだが、どこかアンバランスな印象を受ける。だが逆にそれが良い!
褒められてちょっと頬を赤く染める姿は可憐と言う言葉が似合いそうだが、プロンは一応男をイメージして造形した。男をイメージしたんだけどなぁ。
「大丈夫。造るの好き」
「そっか、偉いな、プロンは」
くしくしとその頭を撫でてやるとくすぐったそうにしながらも微笑むその姿は、何というかへたな奴が見たら道を踏み外すんじゃねえかと思うほどの可愛さなんだよな。スミスもファムもプロンをかなり可愛がっているようだし、小動物系って言えば良いのか?
「じゃあ僕、戻るね」
「おう、無理だけはするなよ」
「うん。スミス兄様とファム姉様が様子を見に来るから大丈夫」
小さくバイバイと手を振ってプロンが造った装備を置いて去っていった。
可愛がっているとは思っていたが、スミスとファムはそんなことしてたのか。まあ兄弟仲が良いのは悪いことじゃねえけど、プロンの邪魔してねえよな。ちょっと不安になるんだが。
「ふむ、相変わらず良い出来だ。さすが機械人形だな。品質が一定に保たれている」
プロンが持ってきた装備をチェックしていたセナがコンコンと盾を拳で叩きながら感心の声をあげる。セナに悪気がねえのはわかるんだが、ちょっと聞き捨てならねえな。
「機械人形だからじゃねえよ。プロンだからだ。そこは間違えるなよ」
「ふふっ、そうだな。悪かった。プロンが一流の防具職人だからだな」
俺の意図を察してセナがあっさりと言葉を変える。まあ小さなことかもしれねえけど、何というか人形だからでひとくくりにされるのはちょっとな。
少なくとも俺はこのダンジョンに住む人形たちを家族だと思っているし、その家族の筆頭で相棒であるセナにそんな風に言って欲しくねえんだよ。俺のわがままだってわかってはいるんだけど。
スミスとプロンのおかげで宝箱から出す装備については問題ない。2人の無理のない程度にしか出す予定はないしな。それにその素材についても、1階層の隠し扉の奥にある中継部屋から降りられる坑道のフィールドマップで採れるから実質ただみたいなもんだしな。
人形造りに使えるかもしれねえし他にも色々と役に立つだろと、毎日パペットたちにお願いしてせっせと鉄鉱石などの素材を集めてもらっていたので在庫も十分ある。というか使うペースより補充される量の方が圧倒的に多かったので保存場所を増やそうかと考える段階だったしな。
まあそんな訳で在庫管理を兼ねて、宝箱の中身をグレードアップした訳だ。もちろん金属製ばかりじゃなくて木製の物も出てくる仕様だし、武器や防具も色んな種類を用意している。
しかしヌンチャクとかもあったが……使う奴はいるのか? セナがわざわざ造らせていたしな。なんか思い入れでもあるかもしれんが。
この宝箱から出るアイテムのグレードアップは別に探索者たちに対するご褒美って訳じゃない。主な目的はチュートリアルの段階が進んだってのを示すことだ。
セナが他にも軍に対する反発を抑えるガス抜き要素がとか、今までの傾向と現状の管理体制から考えて一般の探索者たちの現在の利権を侵す可能性は低いとかなんとか、他にも色々言っていたような気もするが、まあ些細なことだ。
肝心なのは新たな段階へと進んだことを示すこと。
装備を整える段階になったってことをな。
だから……だから早く来いってんだよ!
俺のそんな願いも空しく、数人の運の良い探索者たちが装備品を手に入れて様々な反応をするのを眺める時間が続き、そして午後8時。ついにその時がやって来たのだった。
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