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攻略できない初心者ダンジョン  作者: ジルコ
第四章 新たなる者たち
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第138話 リアの人形改造

 『闘者の遊技場』の最奥の扉の前でセナと桃山が対峙し、そして2人して扉の奥へと消えていった。戦いになるんじゃねえかと内心不安だったんだが、なんとかそれは回避できたようだ。いきなり桃山の気が変わって襲い掛かってくるって可能性も0じゃねえけど、限りなく低いはずだ。なら後はセナに任せれば問題ねえ。

 じゃあ俺は俺のするべきことをしねえとな。


 『闘者の遊技場』のある4階層には誰もいなくなった。攻略していた奴らはまだ復活させてねえし、外国の軍隊はそもそもこの階層は素通りするからな。つまりダンジョンコアの機能が使えるようになったって事だ。

 ダンジョンコアの機能が使えればモンスターの配置換えが出来る。それを利用すればリアをここに呼ぶことも出来るはずだ。不安要素としては外に一度出ているってことだが、まあやってみればわかるだろ。


 タブレットを操作してみると、しっかりと配置できる人形の中にリアの名前があった。うん、真似キンじゃなくなってるな。それだけリアが瑞和に愛されているってことだろう。良かった、良かった。


「来てくれ、リア」


 ボタンを押し、リアの配置をコアルームへと変更する。すると次の瞬間モニターからリアの姿がかき消え、そしてダンジョンコアの傍に座ったままの姿のリアが現れた。よし、成功だ。

 コアルームに呼ぶことは成功したものの、リアは地面を見つめたまま動こうとはしなかった。よほど瑞和を守れなかったことがショックだったんだろう。その悲しみが俺にまで伝わってきて胸が痛くなる。

 ユウが瑞和を殺したのは俺の命令を守ったからだ。つまりリアをこんなに悲しませたのは他でもなく俺だ。


「すまねえ、リア」


 リアに向かって頭を下げ、心から謝罪する。こんなんで許されるはずがねえが、それでもこれはけじめだ。

 今回の事に関しては全面的に俺に責任がある。ダンジョンを守るために仕方なかったとか、人がいるから命令の変更を伝えることなど出来なかったとか、言い訳はいくらでも出来る。でもそんなのには全く意味がねえんだ。

 リアが悲しんでいる。それに対して俺が出来るのは謝ること。そしてリアの願いを叶えてやることだけだ。


 頭を下げ続け、しばらくして視線を感じ頭を上げると、リアが顔を上げじっと俺のことを見つめていた。その瞳はどこか暗いものを含んでおり、思わず胸が締め付けられる。そんな俺の目の前に茶色い壁が出来た。

 いつもぐーたらしたりふざけてばかりいるはずなのに、こんな時だけはしっかりと俺を守ろうとしてくれるんだな。


 ありがとよ、せんべい丸。


 でもな、大丈夫だ。リアの瞳を見てわかった。やっぱりあいつは俺への復讐なんか望んじゃいない。その瞳から感じるのは……


 立ち上がり、せんべい丸の丸い肩に手を置いて俺を守るその体の前へと立つ。後ろから漂う困惑するような雰囲気に少しだけ笑みを浮かべ、小さな声で「ありがとな」と声をかけリアへと向かって歩いていく。

 リアがその光を失った瞳で俺の姿を追う。そんなリアの目の前に座り、そして手を差し出す。


「今まで良く頑張ったな、リア。もし望むなら、お前を強くしてやる。もう2度と瑞和を守れないことのないように。お前の想いを瑞和に伝えられるように」

「……」

「今日見てあいつの成長ぶりに正直驚いたんだ。でも逆に言えばあいつはここ以外のダンジョンでリアと一緒に戦い続けてきたってことなんだよな。死んだら終わりの本当のダンジョンで」


 リアはじっと俺を見つめている。その体はかすかに震えていた。その瞳から感じるのは憎悪でも絶望でもなく、恐れだった。

 こいつはずっと心配してきたんだ。瑞和がいつか死んでしまうんじゃないかって。自分の力では守り切れなくなってしまうんじゃないかって。その不安をこんな小さな体に押し殺して、ずっと瑞和をこれまで守り続けてきたんだ。


「だからリア、俺の手を取れ。俺がお前を誰にも負けないくらい強くしてやる」


 リアがほんの少しだけ視線を下げ、差し出した俺の手を見る。


「……ほん、とう?」

「ああ、任せろ」


 上目づかいで聞いてきたリアの瞳に少しだけ光が戻ってきていることに安堵し、微笑みながら胸を叩く。

 リアの想いは本当だ。だって話せなかったはずのリアが、本当にぎこちないながらも少し話せるようになっているのだから。それはきっと、瑞和と話したかったからだろう。

 それだけ瑞和を大切にしているリアの想いに応えなくて、何が<人形師>だってんだ。


 リアの小さな手が俺の手のひらに乗る。その手はもう震えてはいない。その手から、その瞳から伝わってくるのは確かな意思。


「やるぞ、お前の望みを、想いを叶えてやる!」

「……おね、がい」


 その小さな手を握り返し、俺はリアの<人形改造>を始めた。





「じゃ、またな」

「ありがと、マスター」

「おう。瑞和と仲良くな」

「うん。私たちはいつもラブラブ」


 <人形改造>を終えダンジョンコアの機能の配置換えで、のろけた笑顔を見せるリアを元の『闘者の遊技場』へと送る。話せるようにもなったし、かなり強化されたはずだからきっと外のダンジョンでも大丈夫だろう。<人形改造>した結果、思わぬ事も発覚したが……きっと瑞和なら大丈夫なはずだ。


 てくてくと入口へと向かって歩いていくリアの愛らしい姿を眺める。別のモニターでは桃山が階段を登って『闘者の遊技場』へと向かっている姿が映っていた。

 セナも終わったようだな。と言うことは自衛隊の奴らと警官を生き返らせねえと。


 俺がポチポチとタブレットを押して順番に生き返らせていると、ダンジョンコアが光を放ち、そしてそこからセナが現れた。


「よっ、お疲れ。結構長かったな」

「うむ、メッセージも撮っていたからな。あいつは面倒くさそうだったが。透も……終わったようだな」

「おう、万事滞りなくな」


 タブレットに映ったリアの姿を、セナが柔らかな表情で見つめる。こいつもこいつでリアの事は気にかけていたんだろう。それでもなお俺のことを考えて警告してくれたんだから、やっぱこいつは良い奴だよな。


「それで、セナの方はどうなったんだ? 結局『闘者』をなぜ与える気になったのか聞いてなかったし、今後の展望も含めて聞かせてくれよ」

「ふむ、良いだろう。しかしその前にいろいろと済ませておくか。私が死んだ奴らを生き返らせるから透は人形たちの修復をしてきたらどうだ? 『闘者の遊技場』が空っぽのままではまずいからな」

「おっ、それもそうだな。じゃ、頼むわ」


 無いとは思うが、他の国の奴らが入ってきたら面倒だしな。とりあえず強化する予定のユウは後で修復するとして、他のパペットやお化けかかし、サンドゴーレムの<人形修復>をしちまおう。

 タブレットをセナに渡し、<人形修復>をするために人形たちの待機部屋へと向かおうとしたその時、俺の手が引っ張られる。不思議に思って振り返るとタブレットを見ながら険しい顔をしているセナの姿が見えた。

 これまでの経験から来るものか、嫌な汗が背中から噴き出すのを感じる。


「おい、透。今日1日で得たはずのDPが無くなっているんだが、どういうことだ?」


 聞こえてきた声は俺の体の芯から冷え冷えとさせるような威圧感を放っていた。

 やべえ、これ下手な事言ったら命にかかわるやつだ。話したくねえが、セナの目が言っている。早く話せと。

 ごくり、と唾を飲み込み、からからに乾いた口を開く。


「いや、ほら。リアが強くなりたいって言ってたしよ。それに瑞和とも話せるようになったし……あと、定期的にこのダンジョンに来るように伝えておいたから他のダンジョンの様子も聞けると思うぞ。あと、あとは……えっと、すまん」

「……はぁー」


 セナがとても深い、本当に深いため息を吐いた。うん、冷静になって考えるとその気持ちはわからんでもない。

 最近はロシア兵たちのおかげでかなりのDPが入ってきている上に、今日は日本の精鋭の攻略のおかげで、人形たちと人間を生き返らせる分を除いても1日で50万以上のDPが入ってきた言わばボーナス日だったしな。その全部を使っちまったと知れば、ため息の1つくらい吐かれるだろ。

 とは言え俺だってわざとじゃねえんだよ。リアの想いに応えようとしたらこうなっちまっただけで。


「本当に透は馬鹿だな」

「悪い」

「まあ仕方あるまい。他のダンジョンの情報が定期的に得られるようになった対価が2、3日分のDPならば安いものだ」


 セナの怒りが静まったことにほっと胸をなで下ろす。リアに定期的に帰って来いよって言っておいて良かった。あの時は来れば強化してやるからな程度の考えだったんだが、思わぬところで助けになったな。

 セナは情報に重きを置いているからな。今日がボーナス日だったとはいえ2、3日分のDPなら……んっ? 2、3日分?


「あれっ、リアに使ったDPって今日1日分くらいだと思ったんだが」

「透の頭は本当に人形以外のことは筒抜けだな。ダンジョンの制約を忘れたのか?」

「制約?」


 制約と言われても思い当たらず首をひねる俺をセナは仕方ないと言った顔で見返す。


「ダンジョンのモンスターを外に出すときにはそのモンスターの半分のDPが必要だ」

「ああっ!」

「つまりリアが外に出るには25万以上のDPが必要という訳だな」

「げっ」

「思い出したようだな。まあ良い。早く<人形修復>してこい。話すことが色々あるからな」


 せんべい丸の上にぽすんと腰を下ろして、タブレットをポチポチし始めたセナから視線を切り、人形たちの待機部屋へと向かう。うん、やっぱ俺1人でダンジョンマスターなんて無理だ。

 本当に頼もしい相棒だよ、お前は。

 パリッ、パリッと言う音を背後に聞きながら、俺は自分に出来ることをするべく部屋の扉へと手をかけた。

お読みいただきありがとうございます。

そして本日レビューをいただきました。ありがとうございます。


地道にコツコツ更新していきますのでお付き合い下さい。


ブクマ、評価応援、感想などしていただけるとやる気アップしますのでお気軽にお願いいたします。

既にしていただいた方、ありがとうございます。励みになっています。

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昔に書いた異世界現地主人公ものを見直して投稿したものです。最強になるかもしれませんが、それっぽくない主人公の物語になる予定です。

「レベルダウンの罠から始まるアラサー男の万能生活」
https://ncode.syosetu.com/n8797gv/

別のダンマスのお話です。こちらの主人公は豆腐。

「やわらかダンジョン始めました 〜豆腐メンタルは魔法の言葉〜」
https://ncode.syosetu.com/n7314fa/

少しでも気になった方は読んでみてください。

― 新着の感想 ―
[一言] 優者優遇されすぎ。優者が主人公何じゃねってぐらい優遇されてる。これからも優者が優遇されるならこの小説オワコンだね!闘者も勿論だけどこれから出てくる何々者も優者と同じくらい優遇されるんだよね?…
[一言] 主人公の性格 ・殺しに忌避感を持ってるのか殺した方がいい場面でも殺さない(初めの方に「殺しに忌避感はわかないようになっていた」みたいなことは書いてあったが作者自身は忌避感をわいてるように思え…
[気になる点] リアは戦闘経験を積んで強くなり、自力で話す能力も獲得しましたが、パペット達等はどうなっているのだろう? 戦闘回数だけならとんでもない事になっている筈。 やはり倒される毎に経験値(?)が…
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