第132話 本気の攻略作戦
新しい装備を身に着けた自衛隊と警官の集団が、入り口の部屋で黙々と人形を造っているロシア兵たちを何とも言えない表情で見ながらその横を通り過ぎていく。それに気づいたロシア兵が視線を上げてしまい、ルナにさっくりと殺されたりしていたが今はそれどころじゃねえ。
「おい、セナ。なんかいつもと様子が違うぞ」
「うむ、やはり来たか」
タブレットでさっき死んだロシア兵を生き返らせていたらしいセナが少し視線を鋭くしながらうなずく。やはり? ってことはこれをセナは予想していたってことか?
「あいつら何をするつもりだ? というかあの装備は何だ? 今まで見たことねえぞ」
「装備に関してはおそらく今回海外勢を受け入れる見返りに手に入れた物だろうな。もちろん日本のダンジョンで得た物もあるのだろうが。ほら、よく見てみろ。塗装などは少々変わっているが、そこの奴が持っている盾はロシア軍の物と同じだ」
セナが指さす先を見てみると、確かに自衛隊の奴が装備している盾は先日マト子さんと戦うときにロシア兵が使っていた盾と同じだった。元々は緑に塗られていたのが艶消しのブラックに変わっていたからパッと見、別物かと思った。
他の奴らの装備も良く見てみればアメリカやロシア、EUが使っている武器だったり防具だったりを改造した物がほとんどのようだ。他の国とは違う独自の装備をしているのは全体の1割程度だな。あれが日本が独自で得た武器や防具って訳か。
「日本の武器や防具って少ねえな」
「他の日本のダンジョンマスターたちが出さないようにしているんだろう。透の話からしても日本人は武器や暴力といった事に忌避感が強そうだしな。武器や防具は餌としては優秀だが、相手を強くするという面があるからな」
「餌ならポーションなんかで十分ってことか」
「そうだな。考え方の違いというやつだ」
つまり日本のダンマスは相手の戦力を上げない戦略をとっているってことだな。ただ武器や防具に比べてポーションなんかの消耗品はどうしても魅力が低くなるから入ってくる人の数もそれなりになるんだろうけど。
逆に海外はダンジョン自体の魅力を上げて人がたくさん入ってくるようにって言う戦略なわけだ。相手の戦力も上げちまうが、それ以上のDPを手に入れて強いモンスターで蹂躙すれば良いって考えか。なんて言ったらいいかわからんがらしい、な。
もしかしたら日本に関してはダンジョンの管理が初期から警察や自衛隊で完璧にされちまったってのも影響しているのかもしれねえな。まだまだ一般人の探索者は少ねえし、魅力を上げたとしても入ってくるDP以上に相手の戦力を強化されちまう可能性が高いだろう。
腕組みしながら解説するセナの言葉を聞きながら、ダンジョンを進んでいく集団を一緒に見守る。その足取りはどこか自信に溢れており、そして何よりその瞳には強い意志がこもっているように見えた。
総勢500人に近い集団が階段を降りていき、そして1つの階層で止まる。そこは……
「『闘者の遊技場』か」
「そうだ。装備も整ったしな。いよいよ本気で攻略にかかることにしたんだろう」
セナの言葉が合図だったように先頭にいた奴らが扉を開く。その先に見えるのは奥へと続く広い空間。そしてそれを埋め尽くすように並んだパペットの集団だ。
「今日で終わらせるぞ」
「「「了解!」」」
集団の先頭に立ち、振り返って声を張り上げた杉浦に対してビリビリと響くような声量の返事を全員がする。気合十分って感じだ。杉浦が少しだけ笑みを浮かべ、そして自身の腕時計へと視線をやった。
「1030、作戦開始!」
「「「了解!」」」
集団が『闘者の遊技場』へと入っていく。そしてパペットの壁へと接触するとまるで本当の人形であるかのように簡単にパペットたちが倒されていく。弓曳き童子たちも援護で矢を飛ばしているんだがそれも完全に防がれてしまっている。
唯一ナルが放った弓だけは的確に防御の隙間を抜けてダメージを与えているが、それもポーションなどで即座に回復されちまう。その進行速度は今までになく早く、そして容赦も隙もない。
「すげえな、こいつら。マジで本気だな」
「うむ。前回の大規模戦闘に比べて無駄がない。スキルも的確に使用しているし、損耗、疲労しないことを優先しているようだな」
自衛隊の奴らと警官たちの快進撃は続く。パペットゾーンをあっさり越え、パペットとお化けかかしの集団も危なげなく制していく。そして誰も死ぬことなくサンドゴーレムゾーンへとたどり着いた。
まあここまでは予想の範囲だ。今までだってパペットやお化けかかしたちじゃあ足止めぐらいしか出来なかったしな。ナルの攻撃で多少は損害を与えられていたんだが、今回はそれがなかったくらいだ。
でもそれもここまでだ。さすがにサンドゴーレムだけで勝つなんてことは出来ねえが、砂地に擬態したサンドゴーレムを発見するのは難しい。不意打ち、しかも集団でかかれば多少の損害は出るはず。
「ちっ、やはりか」
「どうした?」
忌々しそうに舌打ちしたセナの視線の先を追うと、集団が隊列を入れ替えていく様子が見えていた。先頭集団へと加わった人員の中には加藤などの見覚えのある奴らの姿が見える。まさか……
「放水開始」
「「「ウォーター」」」
入れ替わった奴らが一斉にスキルを使って地面に向かって水を放っていく。砂が水を含みその色を変えていく。やっぱ、そう言うことか。
奴らが使っているのは俺が出したスクロールのウォーターだ。最初は手からコップ一杯の水を出す程度の生活魔法だったんだが、ダンジョンでレベルアップした影響か今ではバケツいっぱいに入った水を振りまくくらいのことは出来るようになっている。とは言え攻撃に使えるような威力があるようなもんじゃねえんだが、ここでは、ここだけでは有効だ。
水を吸った砂をサンドゴーレムは扱えねえ!
付近にいた水をかけられたサンドゴーレムが姿を現すが、既に弱体化していることもあり危なげなく倒されちまう。もちろん水をかけられない位置にいるサンドゴーレムもたくさんいるんだが、そいつらは距離が離れすぎていて近づく前にスキルなどで集中砲火されちまって一矢報いることさえ出来ねえ。くそっ!
「完全に対策を取られたな」
冷静に事実を告げるセナの言葉に少しイラッとしたが、その顔を見て出かかった言葉を止める。セナの表情には苦々しいものが多分に含まれており、先ほどの言葉に悪意がないってのは疑いようもなかった。
ここでの戦略を考えたのはセナだ。俺以上に思うところがあるんだろう。そんなセナに当たるなんて馬鹿なことが出来るはずがねえ。
集団が被害を全く出さずにサンドゴーレムゾーンを超える。その先にあるのは、今までこの先への道を阻み続けてきた『闘者の遊技場』の壁。人形たちに囲まれた物静かなクレーンの騎士。
「ユウ、頼むぞ」
500人近くの集団の前に立つユウは全く表情を変えず、まるでいつもの事であるかのように悠然としていた。その姿に焦りなど全く感じられない。
ユウが人形たちの集団から抜け出し、そしてゆっくりとした歩調で自衛隊の奴らと警官たちへと歩み寄っていく。そしてそれに相対するように集団の中から杉浦が現れた。2人の視線が絡み合い、そしてユウが告げる。
「汝、闘いを求めるものや、否や?」
その問いに杉浦はにこりと笑った。
「休憩させてもらって万全の状態で正々堂々戦わせていただきたいのですが、少しお待ちいただけますか?」
その答えにユウは少しだけ首を傾げ、そしてコクリと首を縦に振った。マジかよ、お前ら。
お読みいただきありがとうございます。
地道にコツコツ更新していきますのでお付き合い下さい。
ブクマ、評価、感想などしていただけるとやる気アップしますのでお気軽にお願いいたします。
既にしていただいた方、ありがとうございます。励みになっています。
そういえば評価が星になりましたね。
星がほしいってダジャレを誰かが後書きで書きそうな気が……きっと居るに5万DPかけよう!