第129話 ロシア軍の反省
ダンジョン内で死亡した奴を復活させるとダンジョンの入り口にある最初の部屋で復活する。いろいろダンジョンを拡張したり、人形師としての能力が増えたりしたがそれは当初から変わっていない。もしかしたら<人形創造>みたいにタブレットじゃない方法とかが出来て、それなら変えることが出来るのかもしれんが、少なくとも俺たちは知らないしな。
当然ロシア軍の奴らが復活するのも入り口の部屋って訳だ。
最初の部屋ははっきり言って俺たちにとっては何の役割もない部屋だ。自衛隊の奴らが建てた何の飾り気もない豆腐のような建物があって、そこでダンジョンで手に入れたアイテムなんかの買取をしているから全く役割がないって訳でもないんだがな。
最初はダンジョンの説明のための部屋だったがそれも必要なくなり、ダンジョン内のマナー違反をした奴をさらす場所っていう役割も持っているんだが、少なくとも今まではそんな風に使われることがなかった。瑞和と真似キンの敵のクズたちがサンドゴーレム先輩に捕まってさらし首にされたぐらいだな。それ以降は多少のトラブルはあってもさらすほどのことをする奴はいなかったし。
逆に考えるとこのダンジョンに入ってくる奴がかなり選定がされているってことだろう。ぜひとも続けてもらいたいもんだ。
そんな最初の部屋なんだが、今回のためにちょっとした改装を行った。改装って言うほど大げさなもんでもないんだが、簡単に言ってしまえば広さを4倍にしたのだ。
元々は学校の教室くらいの大きさだったので優に100人が入ることが可能な広さになっている。自衛隊の小屋の反対側の壁を奥に伸ばして4倍に広げたので長方形になった訳だな。
タップしたロシア兵たちが光を放ちながら最初の部屋へと現れていく。服は破れ、血に染まっているが思ったほど動揺は見えない。
「やけに落ち着いてるな。アメリカのSPはかなり取り乱してたんだが」
「よく訓練された軍人だから当然……と言いたいところではあるが、死を経験したにしては冷静だな。まだ少数だから何とも言い難いが」
「まっ、とりあえず無駄に騒がれるよりマシか。後が詰まってるしな」
難しい顔で考え込み始めたセナにちらりと視線を送りながらも復活を続けていく。人間は1人1人復活させる必要があるので時間がかかるんだよな。
タブレットをタップしながら復活していく奴らの様子を見るが、印象が変わることはなかった。この違和感が何を意味しているかは後で考えるとして、とりあえずはこいつらの罰を執行しねえとな。
復活したロシア兵の視線の先には1体のサンドゴーレムと2体の人形が立ちはだかっていた。人形とロシア兵たち、両者が何も言わずににらみ合いを続けている間に100人全員の復活が完了する。ふぅ、指が疲れた。
そしてそれをきっかけにサンドゴーレムの隣に立つ太陽のような顔のカラフルな衣装を着た人形が話し始めた。
『やあ、覚えているかな。君たちに傷つけられて発信機を埋められた人形だよ』
片手を挙げながら陽気に語り掛ける人形に対して、ロシア兵たちから複雑な視線が集まるが言葉が返ってくることはなかった。しかしその人形、ソーンは全くそんなことを気にせずに愉快そうに話を続ける。
『僕はソーン、彼女はルナ。ごめんね、彼女は君たちとは話したくないんだって。まあ理由は……言わなくてもわかるよね』
ソーンが隣で俯きがちに佇む10センチほどしかない小さな女の子の人形、ルナを紹介する。ルナは小さな体にそれと同じくらいの大きさの顔っていうセナと似た体型なのだが、ものすごい量の金髪の毛を後ろで縛っているのが特徴だ。その形が三日月みたいだからルナって名付けた。
ちなみにソーンはロシア語の太陽からとった名前で奇しくもコンビみたいな名前になったんだよな。まあ、それは別に今はいいか。
『僕らがここにいる理由、知りたい? 知りたいよね? ねぇ、知りたいでしょ? 知りたいって言えよ!』
ソーンが少し狂気を含んだような笑みを浮かべながら、トストスと歩いてロシア兵の方へと近づいていく。このまま何も言わない気かと思った所で、最初に復活した隊長っぽいロシア兵が歩み出てきた。
『謝罪しろと言うことか?』
そう問いかける男に向けて、ソーンが微笑みかける。そしてかぱっと口が裂けてしまったかのように満面の笑みを浮かべた。
『ざんねーん。心のこもっていない謝罪なんていらないよ。だって君たちは人形を傷つけることに罪悪感を持っていないから。だから君たちには別の方法で謝罪してもらおうと思うんだ』
その言葉を待っていたかのように、サンドゴーレムがロシア兵たちの前にドスッと大きな木の箱を置く。そして皆の注目が集まる中、その蓋が砂の手によって開けられた。
『土?』
その中身を見たロシア兵が疑問の声をあげる。
確かに土と言えば土だな。ちょっと灰がかっていて粘り気の強い性質を持っているっていう特徴はあるが土には変わりはねえ。まあ粘土って言った方がわかりやすいけどな。
木の箱に入っていたのは、夜に湿地のフィールドで俺たちが採取した粘土だ。だいたい200キロくらいあるはずだ。ちょっと油分が多すぎて俺が使いづらい粘土だったため採取したまま放置してあったものだ。幼稚園児とかにプレゼントしたら喜ばれそうな粘土なんだがな。
首を傾げているロシア兵たちに向けて、ソーンが先ほどまでの口調が嘘だったかのように低い声で告げる。
『君たちには1万体の人形を造ってもらう。それまでこのダンジョンから出ることは出来ない。誰一人としてね』
『1万体だと? 何を馬鹿なことを……』
『1人につきたった100体だ。出来ないとは言わせない。もし嫌なら僕たちを倒して出て行っても良いよ。出来るならね』
『その言葉に二言はないな』
『ないよ』
『なら死ね!』
言うが早いか、その男がソーンに向かって拳を振りぬく。両者の間は3メートル近く離れており、届くはずのない距離だ。余裕の表情をしたままのソーンを見ながら男がニヤリとした笑みを浮かべる。
ボフッという重い音と共に砂が舞い上がる。ソーンを守るように現れたサンドゴーレムの砂の手が大きくえぐれていた。
『チッ。サンドゴーレムごときが調子に乗るな! 全員、かかれ!』
男の指示に従ってロシア兵たちが一斉に戦闘態勢に入る。
ダンジョンで死んで入り口で復活したときは、最初にダンジョンに入って来た時に身に着けていたもの以外は死んだ場所に残ってしまう。だから今ロシア兵たちは武器や防具なんかを装備していない。それでもスキルがなくなるわけじゃねえし、自国のダンジョンでモンスターを倒して身体能力も上がっているからかなりの強さだ。
まあかなりの強さ程度なんだけどな。
目の前に広がるのはスキルをものともせず、ロシア兵たちを蹂躙していくサンドゴーレムの姿だ。しかもソーンやルナに被害が及ばないようにしているだけじゃなく、後ろの自衛隊が建てた建物や粘土の入った箱まで傷つけないようにしている。
うん、はっきり言って格が違いすぎる。
「やっぱ先輩って強えな」
「うむ。このダンジョンでも有数の猛者だからな。見ろ。正面に意識を集中させておいて、こっそり背後まで伸ばした手で後方の魔法を使っていた奴らを一掃しているぞ」
「うわっ、まじだ」
先輩の容赦ない戦いっぷりに感心しながら、死んだ奴を端からポチポチとタブレットをタップして復活させていく。敵を復活させるなんてはっきり言ってどっちの味方だって感じだがこの差はちょっとやそっとで覆るようなもんでもないしな。
戦いの最中に部屋に入って来た中国軍と自衛隊らしき奴らがいたんだがすぐに引き返していっちまった。もしかしたら中国は今日入らねえかもしれねえな。残念だ。
最初の方は復活しても元気だったロシア兵たちだったが、何度も戦いを挑んでは何もできずに死ぬということを繰り返すうちに敵わないということを悟ったのか、次第に大人しくなっていった。
そして抵抗の意思が消え、陰鬱な表情でサンドゴーレム先輩を見つめるロシア兵たちの前に先輩が改めて粘土の入った木の箱を置く。
『さあ人形を造ってください』
にこやかに言ったソーンの言葉にロシア兵たちがのろのろと動き出した。
ほらっ、お前たち気合入れろよ。そんなんじゃ良い人形なんて出来っこないぞ。楽しい楽しい人形造りの時間の始まりだ。
お読みいただきありがとうございます。
地道にコツコツ更新していきますのでお付き合い下さい。
ブクマ、評価、感想などしていただけるとやる気アップしますのでお気軽にお願いいたします。
既にしていただいた方、ありがとうございます。励みになっています。